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「政党」は時代遅れになった

日仏シンポ報告(下)

フランスから3人の識者を迎えて

集会で支持者に手を振るルペン氏=2016年5月、パリ、国末憲人撮影(以下も)

7月8日に東京・恵比寿の日仏会館で開かれたシンポジウム「フランスの大統領選挙をめぐる新たな政治状況――新政権の政策とEU・世界」は、フランス政治刷新研究基金代表のドミニク・レニエ氏、パリ政治学院教授のクリスティアン・ルケンヌ氏、国際戦略研究所(IRIS)所長のパスカル・ボニファス氏の報告に続き、討論者の野中尚人・学習院大学教授と私、司会の渡邊啓貴・東京外国語大学教授がコメントや質問をした。これに3報告者が応じる形で進んだ。(国末憲人)

左からレニエ氏、ルケンヌ氏、ボニファス氏

最初の討論者、野中尚人・学習院大学教授は、大統領選に先だって主要政党が実施した予備選に言及した。「予備選で2回投票し、大統領選で2回投票し、総選挙で2回投票する。みんな疲れて、投票率も落ちて、選択も安易になったのでは」と指摘。「予備選をすることによって、党組織や党機関の持つ意味が薄れ、世の中やメディアで目立つ人物が評価されるようになった。『有権者の代表は政党を通じて選ばれる』といった権威が瀕死(ひんし)の状態にある」と述べた。


もう1人の討論者として参加した私は、フランス大統領選を通じて浮き彫りになったフランス社会の亀裂を取り上げた。楽観的でグローバル化に乗るマクロン支持層と、グローバル化から取り残されて悲観的なルペン支持層との乖離(かいり)などについて、各報告者に今後の展望を尋ねた。


また、渡邊啓貴・東京外国語大学教授は、ルペン氏と右翼政党「国民戦線」について「決選で30%台の得票を果たしたものの、敗れたショックは大きい。国民戦線にとっても、これからが正念場ではないか。場合によって国民戦線が分裂する可能性はないか」と分析し、フランス政治の今後について質問をした。

明るいマクロン氏の集会=5月1日、パリ

●…「勝者」と「敗者」


これに対し、レニエ氏はフランス社会内部の亀裂に関する考察を展開した。

彼は、マクロン大統領の支持層を「極めて特異」と位置づける、その特徴は、以下のようなものだという。


▼大都市在住者

▼グローバル化を「自らの将来を約束するもの」と肯定的に受け止める

▼高い教育水準、上位中産階級に属する

▼多様性や差異を尊重し、同性婚を支持する。欧州統合にも好意的

▼SNSでつながっている

重苦しい雰囲気に包まれたルペン氏の集会=5月1日、パリ郊外ヴィルパント

レニエ氏は「これらは、フランスの有権者の2~3割を占める。ただ、仏全体から見ると少数派で、特別な存在に過ぎない。彼らは社会の『勝者』であり、これが代表的なフランス人だと思うと、物事を見誤る」と話した。


では、これと異なるフランスの姿は何か。それは社会の「敗者」だという。


▼労働者や農民の多く

▼学歴が低い

▼何かを失った感覚を持つ


こうした人々が、主に「国民戦線」とルペン氏を支持し、一部が左翼メランション氏の支持に回ったという。

マクロン氏当選決定を受けて三色旗を振る若者の支持者たち=5月7日、パリのルーブル美術館中庭

レニエ氏はフランス政治の将来について「マクロン大統領の政治運動が真の政党に脱皮できるかどうかが鍵となる。他の大政党が崩壊状態になったうえに、もし『共和国前進』も行き詰まったら、危機に陥るだろう」と話した。


●…「政党」は時代遅れ?


レニエ氏によると、政党の弱体化などフランスが抱える問題は、他の多くの民主主義国家にも共通するという。一例は英国の総選挙だ。保守党と労働党の2大政党が6月の総選挙で得票率を回復したものの、結果的にどちらも過半数を占めることができず、安定した政権をつくれない状態となっている。


「政党という形式が、現代の社会構造に合致しなくなっているのでないか」と、レニエ氏はいう。

大統領選の決選進出を決めて演説するルペン氏=4月23日、フランス北部エナンボモン

また、彼は多くの民主国家で権威主義的な政治家が台頭していることに懸念を示した。


「権威主義は、ポーランドやハンガリーの指導者、フランスのマクロン大統領にも、日本の首相にも少し見られる傾向だ。これまでの産業化社会が崩れ、ポスト産業化の時代の到来とともに、イスラムの問題など『文化』が大きな意味を持ち始めている」と分析した。


一方、ルケンヌ氏は、欧州統合やEUに対するフランス人の複雑な意識を説明した。


彼は、EUに懐疑的な立場を取る人々がフランスの右派にも左派にも根強いことを指摘し、マクロン大統領が示すドイツとの協調姿勢についても「ベルリンの言いなりだ、と受け止める人がいるだろう」と述べた。そのうえで、今後の関係強化に向けて、ドイツは平和維持活動だけでなく、軍事介入にも積極的に加わるべきだ、と提言した。

国民戦線内で反EU路線を引っ張るフロリアン・フィリポ副党首=2月5日、リヨン

「これは、ドイツの国防政策の基本を転換することになるので、国内で反対も出るだろう。ただ、テロ対策の面でも、ドイツが関与を深めるよう望みたい」と述べた。


●…「集団的ナショナリズム」の神髄


ボニファス氏は報告で、フランスの外交方針を規定する概念「ゴロ・ミッテランディスム」(ドゴール・ミッテラン主義)を説明していたが、私は討論で「ナショナリズムとどう違うか」との質問を投げかけていた。彼はこれに答えて「ゴロ・ミッテラン主義はナショナリズムの一種ともいえるが、それよりもより論理的、知性的だ」と説明した。


彼によると、ドゴール・ミッテラン主義の特徴は、他の国や地域も合わせた集団的な利益を追求するところにあるという。

イラク戦争前、イラク国内で反米デモを繰り広げる地元の若者たち=2002年12月、バグダッド

その神髄を示す例として、ボニファス氏は2003年のイラク戦争を挙げる。当時、攻撃に急ぐ米ブッシュ政権などに対し、フランスのシラク政権は強硬に反対し、国連安保理でも阻止への論陣を張った。確かにこれは、単にフランス一国の利益を守ろうとした行為と見なすよりも、米国を含む多くの国々の利益や国際秩序の維持を視野に入れた行動だったと、位置づけられるだろう。


シンポジウムは3時間半あまりに及び、ホールの定員130人を大きく超える聴衆が集まる盛況ぶりだった。

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