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来るか独仏新時代

日仏シンポ報告(上)

フランスから識者3人を迎えて

大統領選の集会で演説するマクロン氏=5月1日、パリ、国末憲人撮影(以下も)

大統領選任期とともに5年に1度フランスに訪れる政治の季節は、4~5月にあった大統領選での39歳マクロン氏の勝利と、続く6月の総選挙での大統領与党圧勝で幕を閉じた。躍進の懸念が広がっていた右翼政党「国民戦線」とその党首ルペン氏は振るわず、ポピュリズムの退潮ぶりを示した。この結果は何を意味するか。欧州や世界にどんな影響を与えるか。フランスを代表する識者3人を招いて、「日仏対話週間」企画シンポジウム「フランスの大統領選挙をめぐる新たな政治状況――新政権の政策とEU・世界」(第2期日仏知的交流「日仏対話週間」実行委員会主催、東京外国語大学国際関係研究所・日本国際問題研究所・日仏会館共催、朝日新聞社後援、笹川日仏財団助成)が7月8日、東京・恵比寿の日仏会館で開かれた。その論議を報告したい。(国末憲人)


左からドミニク・レニエ氏、クリスティアン・ルケンヌ氏、パスカル・ボニファス氏

このシンポジウムは2012年に始まり、2014年~16年の第1期を終えて提言を出した後、今年から3年計画の第2期に入っている。日仏それぞれの社会科学の専門家に、他の国を専門とする研究者も交えて、交流を続けている。


今回報告者として参加したのは、フランス政治刷新研究基金代表でパリ政治学院教授のドミニク・レニエ氏、パリ政治学院教授で元国際研究センター所長のクリスティアン・ルケンヌ氏、国際戦略研究所(IRIS)所長のパスカル・ボニファス氏。討論者として野中尚人・学習院大学教授と私が加わった。司会は渡邊啓貴・東京外国語大学教授が務めた。


●…「反システム」候補はばかる

シンポジウム「フランスの大統領選挙をめぐる新たな政治状況――新政権の政策とEU・世界」の会場

松浦晃一郎・日仏会館名誉理事長(元駐仏大使、ユネスコ前事務局長)のあいさつの後、レニエ氏が報告に立った。彼は、フランスで選挙分析の第一人者として広く知られる。今回も、選挙結果の背後に隠れている有権者の意識や行動パターンを、独自の手法で解読した。


レニエ氏がまず注目したのは、2回投票制を採用している大統領選のうち、4月23日にあった第1回投票での、2大政党候補の得票率だ。フランスでは、左派の社会党と、右派のドゴール派政党の間でおおむね政権交代が実現してきた。しかし、この2大政党の候補の得票は、1965年の大統領選で76.4%を占めていたのに対し、今回はわずか26.2%にとどまった。既成政党の衰退ぶりを如実に示す形となった。


これと表裏一体の現象として、従来型の政治の体制に反旗を翻す「反システム」候補の得票が激増したとも、レニエ氏は指摘する。今大統領選の11人の候補のうち、右翼ルペン氏や左翼メランション氏をはじめ8人が激しい体制批判の言説を繰り返したが、その総得票率は49.6%に達した。レニエ氏は「特に労働者層で反システム意識がかなり強い」と話した。

大統領選に向けた集会で檀上に立つルペン氏=5月1日、パリ郊外ヴィルパント

有権者のこうした意識は、「棄権」の形としても表れた。決選での棄権率は25.4%に達し、これは1969年の31.1%に次ぐ高さだという。この傾向は6月の総選挙にも引き継がれ、第1回投票と決選でそれぞれ51.3%、57.36%となった。白票を投じた人も両選挙で目立った。


一方で、レニエ氏は大統領選の結果自体について「奇跡的だった」と評価する。「第1回投票の行方次第では、右翼ルペン氏対左翼メランション氏の決選もあり得た。もしそうなったら、フランスは危機に陥っていただろう」。マクロン氏の当選を望ましいものと位置づけると同時に「第1回投票での彼の得票率24.01%は、過去の大統領選に比べて低い。支持が弱く、危うさはこれからも拭えない」と予想した。


●…独仏新時代は来るか


ルケンヌ氏は、マクロン大統領の就任を受けての欧州関係の将来を予測した。

彼は、マクロン大統領が従来の外相を「欧州相兼外相」と改称したことを紹介し、「マクロン氏は、フランス第5共和制の大統領選で自らを『欧州の候補』と位置づけた初の人物でもあった。オランド前大統領が拒んできたドイツとの緊密化を進めるだろう。欧州を再活性化させるまたとない機会となる」と述べ、期待を表明した。


一方、今後の欧州連合(EU)に大きな影響を与えそうな英国の離脱について、ルケンヌ氏は「フランス国内では『英国はEUの発展をブロックしてきた』との意識が強く、離脱を『悪くない』と考える人が少なくない」と指摘すると同時に、懸念についても整理した。

経済相時代の2014年に来日し、記者団との懇談に応じるマクロン氏=東京・南麻布

▼英国はフランスにとって最大の軍事パートナーであるが、これを失うことになる

▼フランスと英国は貿易のバランスも悪くなかったが、状況は変わる

▼ロンドンでは何十万ものフランス人が働いており、フランス国内でも最も多い外国人は英国人だ。彼らの行き来が妨げられる



今後の欧州について、ルケンヌ氏は以下の展望を示した。


①独仏を中心として単一通貨ユーロの圏内とそれ以外との間で統合の速度がわかれていく

②欧州の安全保障から米国が手を引く方向にあることから、ドイツが軍事的なかかわりを強める。この傾向は、米国がトランプ政権となって始まったわけではなく、オバマ政権時代から顕著になっていた

③難民危機やテロを受けて、欧州内の自由な往来をうたったシェンゲン協定の外縁の監視が強化される


彼は今後の課題として「マクロン大統領がフランス国内の改革を進められるか」「欧州各国が財政赤字を減らすことができるか」を挙げた。また、イタリア総選挙でポピュリスト政党「五つ星運動」が勝利する可能性も指摘し、「その場合にはイタリアの協力が得られず、独仏だけで欧州問題に取り組まざるを得ない。そのほかの国の選挙結果が欧州全体に影響する可能性も拭えない」と話した。


●…開かれたドゴール主義外交


ボニファス氏は、マクロン大統領の誕生について「多くの国はほっとしただろう。大統領選は2回投票制だから(ルペン氏当選の)恐れは少なかったというものの、決選で34%の支持を獲得したことを見ても、やはり脅威だった」と話したうえで、マクロン政権の外交方針を、歴史的な文脈の中で読み解いた。

サルコジ元大統領

ボニファス氏によると、フランス外交は冷戦時代から、「右」か「左」かではなく、「ゴロ・ミッテランディスト」(ドゴール・ミッテラン主義者)か「アトランティスト」(大西洋主義者)か、の対立にそって議論が進められてきた。


「ゴロ・ミッテランディスト」は右派のドゴール、左派のミッテラン両元大統領に顕著だった傾向だ。「世界の中でフランスは特別な役割を果たすべきだ」と考え、米国への従属でなく独自の道を歩もうとする。この発想に沿って、フランスは核戦力を整備して安全保障面で独立性を強めるとともに、ソ連を敵視せず、第三世界との連携を強めた。


一方、「アトランティスト」はソ連の脅威を深刻に受け止め、米国との連携を深めようとする。近年でこの立場が顕著だったのは、「フランスは欧米世界の一員」との態度を隠さなかったサルコジ元大統領だ。その次のオランド前大統領も「ゴロ・ミッテランディスト」とは距離を置く態度を取った。

オランド前大統領

マクロン大統領はこれら2人の大統領と異なり、「ゴロ・ミッテランディスト」の要素を備えていると、ボニファス氏は見る。英国のEU離脱や米トランプ政権誕生といった国際環境も、フランスや欧州に独自の道を歩ませることにつながっている。ただ、かつてのドゴール、ミッテラン両大統領とは異なり、マクロン氏は開放的な性格を持っているという。「ドイツとの関係を強化する姿勢はその表れだ」と、ボニファス氏は指摘した。

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