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エチオピアとケニア GDP逆転で思うこと

アフリカ研究者 白戸圭一 10



抑圧の上の「安定」「成長」


エチオピアには80以上の民族が住んでいるが、与党EPRDFの中枢は人口の6%程度に過ぎないティグレ人に事実上支配されている。一方、人口の3割強を占めるオロモ人は激しい弾圧対象となっており、2015年11月に頻発したオロモ人の反政府抗議デモは、政権によって力で抑え込まれた。エチオピア政府は否定しているが、国際人権団体によると、オロモ人を中心に500人以上が治安当局に殺害された。米国の国務省が毎年発行している「人権報告書」は、エチオピア治安当局による令状なしの市民の勾留、拷問など深刻な人権侵害事案を毎年のように報告しており、16年版報告書では1万人以上が政治犯として身柄を勾留されていると報告している。


端的に言って、エチオピアの「安定」も「成長」も、国民の口を封じる政治の上に成り立っているのである。


一方、GDP規模ではエチオピアに抜かれたケニアの政治状況はどうだろうか。ケニアにも当局による人権侵害は存在するし、07年の大統領選挙の際には政権による不正が行われたことも確実だ。だが、02年の民主化以降、ケニアには強力な野党や独立したメディアが存在し、エチオピアに比べればはるかに「言論の自由」が社会に定着している。


ケニアでは8月8日に大統領選が行われる予定であり、現職のケニヤッタ大統領の再選が濃厚な状況だが、少なくとも野党活動家やジャーナリストが次々と逮捕されるようなことは想定できない。政治指導者から末端の庶民まで国民一人ひとりの間で基本的人権の意識が内面化され、言論の自由を柱とする市民意識が国民文化として共有されているという点では、ケニアはエチオピアよりもはるかに優れた社会と言って差し支えないだろう。


アフリカには、本稿で紹介したエチオピアのように、体制による強力な締め付けによって、かろうじて政治的安定を達成し、経済成長を遂げている国が少なくない。そうした中、GDP規模ではエチオピアの後塵(こうじん)を拝することになったとはいえ、ケニアのような自由と民主主義が定着している国の存在は重要である。ケニアの人々は、これを誇りとして守り抜いて欲しい。また、エチオピアにも自由と民主主義の隊列に加わって欲しいし、日本としても体制による人権抑圧に対しては、毅然(きぜん)と「ノー」と言いたいと思う。我々もケニア同様、隣国にGDP規模では抜かれたが、体制による人権抑圧に抗議する芸当は、我々に出来ても中国にはできないのである。



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白戸圭一(しらと・けいいち)

三井物産戦略研究所欧露・中東・アフリカ室長。毎日新聞社でヨハネスブルク、ワシントン両特派員などを歴任。2014年より現職。著書に『ルポ 資源大陸アフリカ』(東洋経済新報社、日本ジャーナリスト会議賞受賞)など。京都大学アフリカ地域研究資料センター特任准教授兼任。

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