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フィリピンでドゥテルテが支持されるワケ~『ローサは密告された』

『ローサは密告された』を撮影中のブリランテ・メンドーサ監督 © Sari-Sari Store 2016



シネマニア・リポート Cinemania Report [#56] 藤えりか



正直、驚いた。この作品を撮った監督が、フィリピンのドゥテルテ大統領(72)による、市民何千人もの犠牲をもいとわぬ「麻薬戦争」を支持しているなんて。


麻薬犯罪者が300万~400万人もいるとされるフィリピン。貧しさから麻薬密売に手を染めてしまう人たちも多い。そんな現実や、警察の腐敗をリアルに描いたフィリピン映画『ローサは密告された』(原題: Ma’ Rosa)(2016年)が7月29日から全国で順次公開中だ。ブリランテ・メンドーサ監督(57)に、スカイプでインタビューした。

『ローサは密告された』より © Sari-Sari Store 2016

今作の舞台は、小屋や簡素な家々が密集するマニラのスラム街。ローサ(ジャクリン・ホセ、53)は夫ネストール(フリオ・ディアス、58)と小さなサリサリストア(雑貨店)を営み、4人の子どもたちとの暮らしの足しにするため麻薬をひそかに売っていた。ある夜、警官らに自宅に踏み込まれ、ローサとネストールは警察署に連行される。しらを切るローサに、金を払えば見逃してやるとささやく警官。金のないローサは代わりに売人を密告するが、なおも警官に金を要求され、密告した売人は警官から暴行を受ける。4人の子どもたちは方々で金策に走る――。


売り物の麻薬が時に近所の屋台で買う夕飯の「代金」にもなり、夫ネストールも合間に吸う。そんな風に麻薬がスラム街の日常に溶け込んでいるさまや、警官の横暴をドキュメンタリーさながらに描き、経済成長してなお貧困問題にあえぐフィリピンの現実について考えさせられる。『キナタイ―マニラ・アンダーグラウンド―』(2009年)でカンヌ国際映画祭の監督賞を受賞したメンドーサ監督の新作を、2016年のカンヌは再び喝采で迎え、ローサ役のジャクリンはフィリピン人初の主演女優賞を受賞。ドゥテルテ大統領就任を1カ月あまり後に控えたタイミングだっただけに、麻薬犯罪者の超法規的殺害もちらつかせるドゥテルテへの懸念と批判とともに、欧米メディアは好意的に取り上げた。

『ローサは密告された』より © Sari-Sari Store 2016

だが、カンヌでの称賛と監督の思いには、ややズレがあったようだ。それはすなわち、ドゥテルテ大統領への評価が、欧米をはじめとする国際社会とフィリピン国内とで大きく違うことの反映でもある。


メンドーサ監督はスカイプのビデオ通話の画面越しに語った。「この作品は、4年前にある人物と知り合ったのがきっかけで撮った。その人物は両親が麻薬の売人で、警察にもかかわった顛末を話してくれた」。監督自身、麻薬や警察の腐敗の問題にじかに触れたのは初めてだったという。その人物の家族に会い、麻薬を売るに至った暮らしの厳しさに耳を傾け、警察の現状についても調査した。つまり、実話がもとになっている。

『ローサは密告された』より © Sari-Sari Store 2016

今作の撮影は2015年、ドゥテルテが大統領選で当選する前。フィリピンでの公開は、ドゥテルテ政権が発足してまもない2016年7月だ。メンドーサ監督は語った。「作品はますます今日性を帯びるようになった。麻薬が不法にはびこる問題の深刻さに人々は気づかされたし、作品を通して一層、状況を意識し始めた」



(次ページへ続く)

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