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フランス映画界がルペンに沈黙したワケ~『ヒトラーへの285枚の葉書』

インタビューに答えるヴァンサン・ペレーズ監督=仙波理撮影



シネマニア・リポート Cinemania Report [#53] 藤えりか



不寛容な政治体制の到来を前にした時、人は何をすべきか。ナチス政権下で普通の人々が静かに抵抗した実話に基づく独・仏・英映画『ヒトラーへの285枚の葉書』(原題: Jeder stirbt für sich allein/英題: Alone in Berlin)(2016年)が8日、公開された。脚本・監督を担った在仏のヴァンサン・ペレーズ(53)にインタビュー。今春のフランス大統領選で極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首(48)が台頭したことに、フランスの映画界が敢えて口をつぐんだ背景にも迫った。


ドイツの作家ハンス・ファラダ(1893~1947年)がナチス政権下の1940年にベルリンで起きた事件をもとに1946年に刊行した小説『ベルリンに一人死す』が原作。ナチスのフランス侵攻に市民がわくなか、軍需工場で働くベテラン職工オットー・クヴァンゲル(ブレンダン・グリーソン、62)と妻アンナ(エマ・トンプソン、58)は、息子ハンス(ルイス・ホフマン、20)の戦死の知らせに打ちひしがれる。オットーはヒトラー糾弾のメッセージをハガキにつづり、とある建物の階段にそっと置く。見つかれば国家反逆罪で死刑だが、同じようなハガキを街中に置き続け、アンナも手分けして手伝った。市民の通報でエッシャリヒ警部(ダニエル・ブリュール、39)が捜査に乗り出すが、なかなか犯人を突き止められない。そんななか、部下が捕らえた男を誤認逮捕とみて釈放したエッシャリヒ警部が、ゲシュタポの上司に屈辱的な仕打ちを受ける。反発しつつも政府の命と法に従うエッシャリヒ警部と、良心に従うクヴァンゲル夫婦とが交差する。

『ヒトラーへの285枚の葉書』より © X Filme Creative Pool GmbH / Master Movies/ Alone in Berlin Ltd / Pathé Production / Buffalo Films 2016

ヴァンサン・ペレーズといえば、ジェラール・ドパルデュー(68)と共演した仏・ハンガリー映画『シラノ・ド・ベルジュラック』(1990年)や、カトリーヌ・ドヌーヴ(73)と共演してアカデミー外国語映画賞受賞の仏映画『インドシナ』(1992年)、イザベル・アジャーニ(62)と共演の仏・伊・独映画『王妃マルゴ』(1994年)など、特に1990年代は甘いマスクの人気俳優としてのイメージが強かった。だが次第に監督業に乗り出し、東野圭吾(59)の小説『秘密』(1998年)を映画化した仏映画『秘密 THE SECRET』(2007年)などを監督。『ヒトラーへの285枚の葉書』は長編監督3作目だ。


ペレーズ監督は原作のフランス語版を10年前に読み、「ただちに引き寄せられた。何か力強いものが私を突き抜け、今こそ映画にすべきだと思った」と言う。ドイツでは中学校の必修テキストにもなっていて、映画化もされたが、世界的にはそう知られていない。ペレーズ監督はリサーチを始めた。

『ヒトラーへの285枚の葉書』より © X Filme Creative Pool GmbH / Master Movies/ Alone in Berlin Ltd / Pathé Production / Buffalo Films 2016

そうして自身の生い立ちをたどり、原作のモデルとなった夫婦と、親族がたどった道筋に共通点を見いだした。


ペレーズ監督はスイスで生まれ育ってフランスで活動してきたが、父はスペイン、母はドイツで第2次大戦中に生まれた。つまり、父はフランコ政権下のファシズム、母はナチス体制をそれぞれ幼少期にくぐり抜けている。


リサーチを重ねるうち、ドイツ系のおじは今作のハンス同様、若くしてロシア戦線で戦死していることがわかった。大おじは精神病院に送られた末に、独ハダマーにあるナチスの悪名高き安楽死施設で、優生学思想に基づき試験的なガス室で殺されたと知った。「彼は病気でもなく、精神面の問題もなかったと聞いている」

ヴァンサン・ペレーズ監督=仙波理撮影

ペレーズ監督は大おじが入れられていた精神病院や、ガス室の跡を訪れた。「当時のガス室が保存されているだけでなく、施設自体、今も病院として続いていた。殺された人たちのリストの中に、大おじの名前があった。ガス室は地下にあり、狭かった。少量のガスで殺害できるようにするためだそうだ。ただ、彼らを焼くにおいが煙突から出るうち、周囲の人が不審に思い始め、ひとりの神父が騒ぎ立てた。ところが彼はある日、姿を消した。そんな狂気の沙汰が起きていたんだ」


ドイツ系の親族の誰ひとりとして、ナチス党員になっていないこともわかった。「ヒトラーに異論を唱えているに等しく、彼らの暮らしを脅かすことにもなる。当時としては積極的な抵抗と言えた。今作で描かれている人たちと似た点を多く感じた」



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