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ネットフリックスの求心力、気骨ある映画人ほど強く~韓米合作『オクジャ/okja』


それにしても、ネットフリックスの勢いは止まらない。シネマニア・リポート[#47]で書いたブラッド・ピット主演・製作の『ウォー・マシーン:戦争は話術だ!』のほか、12月配信開始のウィル・スミス(48)主演作『Bright(原題)』、マーティン・スコセッシ監督(74)がロバート・デニーロ(73)やアル・パチーノ(77)らをキャストに今夏撮影に入る『The Irishman(原題)』など、著名な監督や俳優らによる大作が目白押しだ。製作費も、米メディアによると『Bright』が約9000万ドル、『The Irishman』が約1億ドルと、意欲的なオリジナル作品に資金が集まりづらい現状にあって破格と言える。

記者会見で語るアン・ソヒョン=相場郁朗撮影

ポン監督は6月にニューヨークで、『オクジャ/okja』プレミア試写会の数日前にスコセッシ監督に会って話をしたという。それを踏まえてポン監督は、名だたる映画人がネットフリックスに押し寄せる背景をこう解説した。「『The Irishman』は本当に大予算の作品。なのに創作の自由が100%与えられて、クリエイターがコントロールできる環境がある。一方、既存のスタジオだと、これがなかなかできないことが多くなっている。だから私だけでなく、スコセッシ監督のようなすごい巨匠も、(スタジオなどに)干渉されない創作の自由を渇望してネットフリックスに魅力を感じ、作品の製作が増えているのではないか」


なぜネットフリックスは創作の制約が少ないのか、その背景は上述のシネマニア・リポート[#47]の終盤を合わせてご覧いただければと思うが、確かに、『オクジャ/okja』は米国の食品・バイオ企業を痛烈に批判しているだけに、既存のハリウッド大手スタジオだと資金集めの困難さを見越して腰が引けるかもしれない、と想像する。しかもテーマは遺伝子組み換え。米国のこの分野のロビー活動はかねて、かなりのものだ。私はロサンゼルス支局時代の2012年、全米最大の農業生産地であるカリフォルニア州で、遺伝子組み換え作物の表示義務化の是非を問う住民投票を取材したことがある。実現すれば全米初になるはずだったが、このときは反対多数で義務化が否決された。これに先立ち米国の食品・バイオ大手が多額の資金を投じ、CMなどで「値上げにつながる」と反対キャンペーンを展開していた。結局、2016年に連邦議会で表示義務法が可決、当時のオバマ大統領(55)が署名したが、「不要な規制の特定・撤廃」を掲げるトランプ政権下、消費者団体が新法の行方に気をもむ状況となっている。

記者会見で語るポン・ジュノ監督=相場郁朗撮影

私はポン監督に記者会見で質問した。オクジャとミランド社をめぐる問題意識はどこからきたのでしょう?


ソウルである日、珍しくておもしろい姿をした大きな動物を見かけたのが今作のきっかけだというポン監督は、こう答えた。「最初のアイデアは動物のイメージから生まれた。そうして、なぜこの動物はこんなにも大きいのだろうか、と大きさの意味について考えた」。そのうえでポン監督は、「私たちが普段触れる食品のうち、例えば遺伝子組み換えのサケや野菜などはたいていサイズが大きい。商品性を拡大したい産業の思惑がかかわっているんじゃないか、と思った。愛らしいブタの背景にある、巨大な多国籍企業の存在。非常に力強くドラマチックなストーリーとして、映画監督として非常に引き寄せられ、その流れで政治的な風刺や社会的なメッセージも込めていった。多国籍企業の人たちも、反対する活動家もアメリカ人。自然と、韓国と米国とが一緒に作ることととなった」と語った。

怪演するジェイク・ギレンホール=Netflixオリジナル映画『オクジャ/okja』

劇中のミランド社は、ティルダ演じるCEOが滑稽なまでに、野心あふれる動物学者役のジェイクとともに、利潤とイメージ向上を追求する。「実はモデルにした多国籍企業がある」とポン監督はつけ加えた。「遺伝子組み換えをしているその企業がどこなのか、食品産業に関心をお持ちの方ならすぐ思い当たるだろうけれど、弁護士から『それは話してはいけない』と言われているので、ここではお話しできない」と笑った。なるほど、確かにアルファベットのつづりで似た名前の企業があり、米メディアでは実名とともに比較し語られてもいる。


するとますます、かつて以上に批判や抗議を恐れがちな今の大手スタジオで製作しようとしたら、企画が通ったところで少なくとも、「慎重な描写を」などと注文がつきそうだ。「ネットか劇場か」の議論以前に、スタジオが再び「冒険」的になれない限り、気骨ある映画人ほどネット配信サービスに吸い寄せられる流れは止まらない、のかもしれない。

記者会見を終えるポン・ジュノ監督(右)とアン・ソヒョン=相場郁朗撮影




[最近のシネマニア・リポートなど]

『ラスト・プリンセス―大韓帝国最後の皇女―』『ローマ法王になる日まで』

『LOGAN/ローガン』

『おじいちゃんはデブゴン』

『ウォー・マシーン:戦争は話術だ!』『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』

『台北ストーリー』

『ノー・エスケープ 自由への国境』

『美女と野獣』

『午後8時の訪問者』

『ぼくと魔法の言葉たち』

『はじまりへの旅』

『牯嶺街少年殺人事件』

『ラ・ラ・ランド』

『未来を花束にして』





藤えりか(とう・えりか)

朝日新聞GLOBE記者。

1970年生まれ。経済部や国際報道部などを経て2011~14年にロサンゼルス支局長、ラテンアメリカを含む大統領選から事件にIT、映画界まで取材。映画好きが高じて脚本を学んだことも。『なぜメリル・ストリープはトランプに嚙みつき、オリバー・ストーンは期待するのか~ハリウッドからアメリカが見える』(幻冬舎新書)が3月30日に発売。ツイッターは@erika_asahi



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