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変わる消費の形 (3) 量販店から個人経営店へ 松井博 #06


この頃シリコンバレーで元気なビジネスといえば、何と言っても個人経営のコーヒーショップです。個人経営のレストランもかなり健闘しています。逆に元気がないものといえばチェーン店のコーヒーショップやレストランです。



スターバックスはアジア圏では元気なようですが、アメリカでは客足が伸び悩んでいます。また、チェーンレストランは、かなりの規模縮小や倒産に追い込まれたところさえあります。最近のトレンドは、何と言っても個人経営なのです。


口コミをバージョンアップさせたネット

米国で人気の口コミサイト「yelp」。人気店には何百というレビューが集まる

これにはおそらく2つの要因があります。一つ目は良くも悪くもネットです。いつのまにか、外食といえば、まずYelpを見るのがすっかり普通になりました。Yelp は日本で言えば「食べログ」のような評価サイトで、まずはここを見るわけです。で、評価がそこそこよければ「どれどれ」と実際に行ってみて、気に入ったら贔屓にするのです。評判通りの時もあれば期待外れな時もありますが、それ自体がドキドキワクワクのちょっとした体験です。



また、たいていのお店はオーナーの顔がよく見える、つい応援したい気持ちにさせられるお店なのです。僕の現在のお気に入りは Bitter & Sweet と Voyager Craft Coffeeですが、両方ともアップル本社から10分足らずと利便性の高いところにあり、コーヒーが抜群に美味しく、内装も洒落ていていつ行っても賑わっています。応援したい気持ちに背中を押され、途中に何軒もあるスタバやピーツコーヒーを通り越して、わざわざこのどちらかに行くのです。


また、これ以外のコーヒーショップも次々に開拓しています。コーヒーが美味しく、ワクワク感があり、オーナーの熱意が感じられる店、そんな店が僕の贔屓にする店です。休みの日は、わざわ遠くの街のコーヒーショップへ。それが最近の週末の楽しみです。


食事もまた同様です。以前は流行りのチェーン店に行っていたのに、今ではもっぱら、元気のいい個人経営の店です。シリコンバレーは移民が多いため、ベトナム料理なら本当のベトナム人がやっている美味しい店がありますし、インド料理もイタリアンも日本料理も同様です。ですから、下手なチェーン店に行くより、個人経営の店に行った方が確実に美味しいのです。


そして、これらの小さなお店を見つけるときに絶大な力を発揮してくれるのが評価サイトというわけです。また、友達のFacebookへの書き込みなどもバカになりません。評価サイトの数字なんてサクラに書き込んでもらえば上がるし、逆に変な奴に絡まれればあっという間に下がりますからかなり眉唾ものですが、自分が信頼を置いている友達の紹介ならまず間違いありません。実際、友達の書き込みをみて「美味しそうだね」と行ってみた店が何軒もあります。


言ってみれば、インターネットは「クチコミ」をバージョンアップさせたのです。ソーシャルメディアや口コミサイトなしには、こうしたトレンドは起き得なかったでしょう。


出来合いの製品への愛着がすっかり失せた

もう一つの要因、それはおそらく、「みんなと一緒」よりも、小さなワクワク感を求めるようになった僕らのメンタリティの変化です。リーマンショックで財産を擦ってしまった親世代を見て育った今のアメリカのミレニアム世代は、家や自家用車といった耐久消費財を買おうとしません。



アメリカで蓄財といえば、これまではまずは20代の後半から30代の前半に1軒目の家を買い、値上がりするのを待って2軒目を買うのがごく一般的でした。そして子供が巣立ったら売り払って、そのお金で引退といった感じだったのです。しかし、ミレニアム世代は親たちがそれで財産を減らしてしまったのを見ていますから、家など買おうとしないのです。家の転売による蓄財は、徐々に効力を失いつつあります。

金融危機のさなか、米国では住宅ローンの滞納で差し押さえられる家が目立った=2007年3月、ミネアポリス市郊外


また、年老いた親がモノの処分に困っているのをみて、物を増やすことに躊躇している人も多いようです。よく日本でもモノだらけでお化け屋敷のようになった家の片付けに苦労する番組をやっていますが、事情はアメリカも同じです。モノを増やすことへの抵抗感は、若い世代になるほど、大きいのではないかと思います。


さらにシェアリング・エコノミーの台頭により、そもそも所有したり、新品を買ったりしなくても済む状況が急速に整備されつつあるのも、モノを買わないことを後押ししています。こんな状況でモノが売れたらむしろ不思議なくらいで、考えてみれば、モノが売れ続ける下地がそもそもどこにもないのです。


で、こうして浮いたお金で何をしたいかといえば、わかりきった味のするスタバのコーヒーやファミレスではなく、ちょっとドキドキワクワクする、自分だけの場所へと足を運びたいのです。馴染みのマイスターがいるあの店。ドリップ式にこだわるあの店。時々面白いイベントをやっているあの店。いつも新しいメニューにチャレンジするあの店。そんなお店へと、足を運ぶのです。みんなと一緒ではなく、自分だけの感動にお金を使いたい。それが2017年の僕らの消費を支える原動力です。

(次ページへ続く)
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