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変わる消費の形 (2) モノからコトへの近未来 松井博 #05

Eコマースがモールを殺している?

「iPhone4」の発表会に臨む米アップルのスティーブ・ジョブズCEO(左)。このときは、テレビ電話機能が注目を集めた=2010年6月、米サンフランシスコ

2007年のもう一つのビックニュースと言えば、初代 iPhone の発売です。そしてその後爆発的に普及したスマートフォンは、Eコマースの躍進に大きく貢献しました。アマゾン一社だけとってみても、2007年の148億ドルから2016年の1359億ドルへと、9年間で売り上げがなんと9倍(!)も増えているのです。


そして、このEコマースによるダメージが特に目立つのが百貨店なのです。ネットショッピングが定着するにつれ、人々は消耗品や電気製品のみならず、衣類や時計といった、直接身に付けるものさえもネットで買うようになりました。またネットショッピングは限りなく手軽になり、今では真夜中に寝床の中からでもタップ一つで買い物ができてしまうのです。


また、スマホそのものが、あまりにも多くのモノを不要にしてしまいました。デジカメ、ビデオカメラ、ボイスレコーダー、カーナビ、ガラケー、ラジオ、ゲーム機、懐中電灯、計算機……上げていくとキリがありません。


これで百貨店の売り上げが落ちないはずがありません。アメリカを代表する百貨店メイシーズは、2017年内に100店舗閉鎖することを発表しましたし、シアーズやKマートなどもバタバタと閉店を急いでいます。

郊外のショッピングモールでは大手百貨店が撤退した空き店舗に「入居者募集中」の広告が掲げられていた=2015年6月、米ジョージア州


こういった大型百貨店はアメリカ中の大型モールで集客の中核を担っていますから、百貨店の凋落はそのままモールに大変なダメージを与えてしまうのです。例えばメイシーズの客層は、 カジュアル服のブランド、アメリカン・イーグルと被るため、メイシーズがモールから抜け落ちてしまうと、アメリカン・イーグルの客も激減してしまうのです。



そして現在多くのブランド店が、百貨店の凋落の煽りを喰らい閉鎖を余儀なくされています。エアロポステール、チコス、フィニッシュライン、メンズウェアハウス、チルドレンズプレイスなどなど……。また、ラジオシャックといった老舗の電機店も閉店に追い込まれてしまいました。


こうしてたくさんのお店が一度に抜けてしまうと、代わりになるテナントは早々見つかりません。するとモール自体があっという間に倒産に追い込まれてしまうのです。また、これといった産業がない地方都市で巨大モールが倒産すると、職を失った人々を吸収する工場労働がもはや存在しないため、そのまま地域経済の衰退に繋がってしまうのです。


モノからコトの行き先

スマホの普及以降、欲しいものは特にない……これはアメリカに限らず、先進国の住人に共通した感覚でしょう。それよりもまだ見ぬ風景を見に行ったり、気の合う友人や家族とレストランやカフェで楽しいひと時を過ごしたい… そんなところではないでしょうか?



私のうちの近所にも、雰囲気のいい喫茶店やレストランが次々とオープンし、どこも大にぎわいです。そしてその目と鼻の先には、シアーズとメイシーズの撤退を引き金に倒産したモールが、閉鎖したまま放置されているのです。

米国の地ビール工場に併設されたレストラン。地ビールは高いもので大手の2倍ほどの価格だが、人気は高い=16年1月、米サンディエゴ



日本でもモノからコトへのシフトは確実に始まっています。持ち物をできるだけ減らし、必要最小限の物だけで暮らそうという考え方は大きな共感を呼んでいます。また、車の買い替えサイクルも、90年代の6年前後から現在は8年以上と、2年以上も伸びています。ただ、「モノからコト」に移りたくても、二極化が進んだせいでコトの消費に回すお金がないというのが実態ではないでしょうか?


日本ではまだモールが増え続けていますが、Eコマースのますますの発達、人口減少、シェアリングエコノミーの発達などを考えると、難しい局面を迎えるのはそれほど遠い将来のことではないでしょう。


アメリカでは今、モール再生事業が注目を浴びています。市役所や病院、警察や消防、それにレストランなどをモール内に呼び込み、「新たなダウンタウン」を生み出そうとする試みが始まっているのです。アメリカで起きることの多くは5年ほど後追いで日本でも起きますから、日本のモール経営者や地方自治体も、こうした動向を今のうちからよく研究しておくべきではないでしょうか?




〈バックナンバー〉

世界はオタクたちが回している 松井博 #01

白人たちはなぜ貧困化したのか 松井博 #02

その頃、発展途上国では 松井博 #03

変わる消費の形 (1) テクノロジーが可能にする「共有社会」 松井博 #04





松井 博

米国にて大学卒業後、沖電気工業、アップルジャパンを経て、米国アップル本社に移籍。iPodやマッキントッシュなどの品質保証部のシニアマネジャーとして7年間勤務。2009年に同社退職。カリフォルニア州にて保育園を開業。15年フィリピン・セブ島にて Brighture English Academy を創設。著書に『僕がアップルで学んだこと』『企業が「帝国化」する』など。




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