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目に見えぬ世界とのつながり アーティスト 栗林隆 #05




トリップミュージアム第五回。今回は、自分の宗教観。そしてどのようなことを考えて生きているのか、というアーティスト栗林隆の感覚的な話をしようと思う。


今、長野、信濃大町にて、北アルプス国際芸術祭が開催されている。このプロジェクトに私も作品を出展しているのだが、大町、といえば、誰もが知っている日本最大級のダム、黒部ダムが有名である。黒部ダム自体は、富山側にあるため、長野は関係ないのでは? と思われがちであるが、大町側から掘った、通称関電トンネル、大町トンネルは、この工事、トンネルがなければ、黒部ダムは実現できなかったと言われるほど大事なもので、また、そのトンネルに関わった多くの人たちが長野側、大町に住んでいたこともあり、大町側の黒部ダムに対してのプライドと誇りはものすごいものがある。


その黒部ダム。


今回私は、大町市内の商店街の一角、120年近く続いていた呉服屋さんの空き店舗の中に、1/40の黒部ダムを作ることにした。オリジナルの黒部ダムが、高さ186m横幅492mなので、40分の1モデルとなると、高さ約4m65cm幅12m30cm、かなりの迫力である。これが、120年前の呉服屋さんの建物の空間にドカンと存在するのである。


また、このダム、当初はオリジナルと同じようにセメントで作る予定であったのだが、店舗の内装を解体している過程で、当時の約40cm近くある、ど太い梁と、多くの土壁が出てき、この土壁を捨てるのは何か違う、またコンクリート利権やゼネコンに疑問を抱いている自分が、改めてその象徴のようなダム作りに挑むならば、これはセメントではなく土で作るべきなのでは? と思い立ち、版築、と言われる古くからある技法で地元、大町の土も利用し、土の層で黒部ダムを作るという壮大なものに変更していった。

内装解体前の店舗風景。いろいろな家具や道具が散乱していた

思えば今回のこの空き店舗、当初、展覧会の場所決定をするために見て回っている時に、まったく候補に入る場所ではなかった。とにかく建物の傷みと汚れがひどく、ここはないだろうと、全く興味を示さなかった場所であったのである。後にこの場所でやるべくしてやった理由がわかるのだが、この時点ではまったく興味も魅力も感じない、ただの古い店舗跡だったのだ。


最近、色々な地方都市で行われる芸術祭、という名の地域復興事業。必ず反対運動も起こり、疑問を投げかけられるものであるが、私もこの乱発されるビエンナーレやトリエンナーレ、と言われる事業には疑問を感じることも多い。参加している私が言うのもなんなのだが、行政が絡むこの手の事業は、少し前に行われたテーマパークの類に似てなくはない。利権などが絡まなければ良いのであるが、だいたいアートなどという、意味不明なものに税金を注ぎ込まれることは、多くの住民や市民の人たちは望んでいない。アートの可能性を強く信じていながらも、この手のプロジェクトに参加をすると抱いてしまう特有の後ろめたさは、海外ではなかなか経験しない感覚である。文化として現代美術が根付いていないこともその理由なのだろう。


そんな事業に参加する場合、自分の中で考える二通りの展示方法がある。一つは、現地の場所に自分の作品を単純に置く、というもの。もう一つは、現地に関わったものを作品として制作することである。


今回、北アルプスで私がチョイスしたものは、後者の現地に関係したもので、そこに住む人たちが興味を持ち、そして関わる作品であった。

版築作業中。地元長野の造園屋仲間も集結!16人で土を突き層を重ねていく

40人近く参加する作家の中で、誰かきっと黒部ダムに関しての作品を作るであろうと考えていた私は、リサーチの過程で誰一人黒部ダムに関係した作品をつくる予定でないことを知る。


これもまた不思議なことで、それでは自分がそれを担おうということになった。そしてもう一つ。人が集まる場所として、銭湯や温泉があるのだが、この大町の街中に、銭湯や温泉などの公共の場所が非常に少ないのである。


そこで考えたのが、黒部ダムのダム湖部分を温泉にして、そこに浸かれるようにすることである。この黒部ダム温泉の企画は、保健所の問題や、脱衣所の問題、色々なことを考えると、銭湯は無理だろうということになり、ダム湖部分に足を浸かれる足湯、という形で落ちつき、「黒部ダム足湯」的な作品となった。

完成した、長野の土による版築黒部ダム!凄い迫力である

さて、ここまで書いてきたが、今回のテーマであった、宗教観、生き方考え方である。この遠回りしたかのような長野大町の話だが、今回の制作期間に、実に不思議なことが沢山起こり、まさに自分の感覚、そして考え方が浮き彫りになるのである。


私が今、インドネシアのジョグジャカルタに住んでいることは、3回目の連載でお話ししたと思う。そして今回、長野の制作のために、普段インドネシアで一緒に作品制作をしているアシスタントでありアーティストである二人のインドネシア人の友人を連れてきた。


彼らとは、今まで何回も一緒に作品制作をしているため、気心知れた仲である。そのうちの一人が、3年ほど前に頭蓋骨骨折をし、脳にダメージを受けるような大きな事故に遭い、10日ほど意識を失った後、奇跡的に復活を果たすのだが、その事故が原因で一時期記憶喪失となったのだ。彼は、今尚リハビリの最中なのである。


その彼が、実はその事故をきっかけに、亡くなった人たちや、あちら側の人が見えたりコンタクトを取れるようになってしまったのだという。


私は常々考えているのだが、今、我々が生きているこの世界は、いわばあちらとこちらの世界の境界線の中。向こう側の世界との途中下車の場所だと考えている。


いろいろ詳しく話し出したらキリがないので、ここでは詳しく書かないが、今自分がここに存在するのは、じーちゃんやばーちゃん、またそのじーちゃん、ばーちゃんから繋がり、そしてこの後も繋がっていくだろう縦の線。そして、今自分が関わっている多くの人たち、横の線との十字の真ん中に自分は立っていると感じている。


今の時代、死んだらお終い、だから今だけ楽しければいい、と情報操作され続けている私たち現代人は、前にも話した通り、そうやってつながりを断ち切るために教育され、コントロールしやすくされているだけで、本来は死んでも続いていく、物語のような、そして永遠普遍な世界観が我々日本人にはあるにもかかわらず、それを商売や経済のため、もう少し深く言うと、その考え、信仰、感覚を途絶えさすために、戦後教育がされてきたのであり、そのような目に見えない世界を信じさせたくない人たちによる政治が行われてきた。


さて、話は私のアシスタントである。


彼は、亡くなった人が見えるという。


今回の場所は、120年も続いた古い歴史のある呉服屋さんの空き店舗である。内装を解体すると古い大きな梁が現れ、そして天窓の光をとる三角錐の構造物など、歴史を感じる数々のものが存在する場所である。


いないはずがないのだ(笑)。


解体作業も始まり、版築の型を作り始めたある日、滞在している宿舎で他の日本人アシスタント達と話をしている流れで、インドネシア人の彼が亡くなった人が見える、という話になった。当然流れは、今の現場の話になる。120年の古い建物、誰かいないのか? という話になった。


アシスタントの彼は、それまで笑いながら自分の嫁さんの話とかをしていたのだが、突然黙って静かになった。


「いるんだ……」


誰もがやっぱりと思ったのだが、話は意外な方向へと流れていく。我々が作業しているこの建物の中に、おばあちゃんが一人いるらしい。大家さん一家のご先祖様だという。このおばあちゃん、私たちが、毎日毎日掃除をして、家をきれいにしていくのが本当に嬉しいらしく、掃除機で掃除をしているバイトの女の子の横をずーっとついて回っているのだという。


また彼は、この建物と私の関係がすごく良いものだと話してくれた。お供え物も、どこに置くべきか、何を置くべきかなど、かなり細かい指示をしてくれるのである。


過酷な現場作業が続く中、制作が、そのおばあちゃんの意思と共に進んでいくのである。こんな現場は初めてであった。

何十年も前に亡くなった人の話に耳を傾けながら、構想がたってから100年目の黒部ダムに版築、足湯、という形で挑戦する。

足湯側はダム湖の奥に立山連峰。そして霧が現れる

多くの仲間や職人さん、地元の業者さんに力を貸していただき、今回の作品は出来あがったのである。


人は一人だけで生きているのではない、多くの関係と、必然、つながりで成り立っている。そして死んだ後も、永遠に繋がって行くことを改めて考え、感じさせてもらった、そんな今回の作品であり制作であった。


7月30日まで長野、大町で行われている北アルプス国際芸術祭。新しい見方、感じ方でみなさんにも今回の作品を素直に体験していただきたい。


また、制作期間中に99歳の大往生で亡くなった、私の大好きなおばあちゃんに、今回の作品とこの文章を捧げます。


(次回は6月23日に掲載する予定です)




くりばやし・たかし



1968年生まれ、長崎県出身。武蔵野美術大学卒、ドイツ・クンストアカデミーデュッセルドルフ修了(マイスターシューラー)。2006年シンガポール・ビエンナーレ参加、2010年森美術館「ネイチャーセンス」展、2012年十和田市現代美術館で個展。7月30日まで開催中の北アルプス国際芸術祭(長野)で作品を展示中。インドネシア在住。 takashi kuribayashi



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