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民族衣装に魅せられて、再訪したトルコの田舎町

フォトジャーナリスト 林典子 #05

photo:Hayashi Noriko

トルコ北部黒海地方の小さな田舎町アズダヴァイを再訪したのは昨年のちょうど今頃、イスラム教徒の断食月であるラマダンのさなかだった。

この町を最初に訪れたのは4年前。日本の写真絵本「世界のともだち」シリーズのトルコ版の撮影のため、ここから100キロほど西に位置する世界遺産の街サフランボルでトルコ人少女を取材した際、たまたま立ち寄ったのだった。そこで地元女性たちの色鮮やかな民族衣装に魅了され、いつか再訪したいと思っていた。

ようやく願いがかなったのだ。

母の民族衣装をまとう14歳の少女
photo:Hayashi Noriko

町の中心部へ行くと、オレンジや黄、緑、青、赤などカラフルな衣服をまとった女性たちが露店で野菜を探したり、おしゃべりをしたりしていた。

3時間ほど車を走らせると、山の中にあるグルムットと呼ばれる小さな集落にたどり着いた。標高1850メートルのこの集落に暮らすのはわずか63人。木造の家々の多くは100年ほど前に作られたという。

この集落の女性たちも、あの衣服を着用していた。私はエルドアンさんとセミハさんの夫妻の自宅に滞在させてもらいながら、村の日常を追うことにした。

山麓の村で暮らす一家。農作業の合間に子どもと遊ぶ
photo:Hayashi Noriko

朝は6時起床。私は断食をしていないので、前日に自宅の釜で作ったパンと手作りのジャムをいただいた。

女性たちは日中、溜まり場となっているモスクの前でおしゃべりをして時間をつぶす。それぞれの自宅の庭で野菜や果物を育て、鶏などの家畜も飼育しているため、町に買い出しに行くことはほとんどないという。

セミハさんによると、この地域の女性たちが着る衣服は「エンタリ」と呼ばれている。はかまのようにゆったりとしたズボンの上に滑らか生地のワンピース、さらにその上から厚手のエプロンを着用する。エプロンをウエストに巻き付ける厚さ10センチほどのベルトだけでも、制作するのに1ヶ月はかかるそうだ。

自宅の釜でパンを焼くセミハさん(手前)
photo:Hayashi Noriko

頭にはタケルという冠のような円形の飾り物を着ける。スタイルは少しずつ変化してきているというが、約600年前からアズダヴァイを中心とした地域の女性たちはエンタリを着ているという。

「エキゾティシズム」を求めて遠くからやってくる外国人写真家や観光客のために伝統的なファッションで着飾る人々は世界中にいるが、何百年前から着用され続けてきた伝統衣服を今も日常的に自宅のプライベートな空間で着用し生活をしている人々は、かなり少ないだろう。

しかも、「エンタリ」を仕立てるには膨大な時間がかかる。販売している店も限られている。そして、着るのが簡単な衣服ではないのだ。

自宅のソファに腰掛ける女性
photo:Hayashi Noriko

「私はイスタンブールの大都市でも暮らした経験があります。それでも、落ち着いて生活出来るこの場所から外に出ようとは思いません。何百年にも渡って着続けられてきたこのエンタリも、私の一つ下の世代で終わってしまうでしょう。子どもたちはお祭りの時しか着ていませんから。50年後にはもう日常的に着る女性はいなくなるでしょうね」

セミハさんはパンを焼きながらこう静かに話した。

グルムット集落を歩く女性たち
photo:Hayashi Noriko

(次回は6月21日に掲載する予定です)



はやし・のりこ

1983年、神奈川県川崎市生まれ。2006年から西アフリカ・ガンビア共和国の現地紙で写真を撮り始める。「メディアが取り上げない場所で暮らす、一人ひとりの想いや問題を伝えたい」と、硫酸で顔を焼かれたパキスタンの女性、HIVに母子感染したカンボジアの少年、誘拐結婚させられたキルギスの少女などを写真に収めてきた。著書に『フォト・ドキュメンタリー 人間の尊厳-いま、この世界の片隅で』、写真集『キルギスの誘拐結婚』がある。16年12月に写真集『ヤズディの祈り』(赤々舎)を出版。ホームページはこちら(http://norikohayashi.jp)


林典子 #1 ガンビア人記者、ジャスティスとの再会

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林典子 #3 トルクメン人の村での思いがけない休暇

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