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軍事社会学者 北村淳 #4



弾道ミサイルの脅威迫るも、日本のBMDは「1段」構え


北朝鮮によるアメリカ本土を射程圏にとらえた核搭載大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発が完成に近づいていることが明らかになるや、トランプ政権は「新しいレベルの脅威」として警戒レベルを最高度に引き上げた。日本も「新たな段階の脅威」として、「アメリカと緊密に連携しつつ、緊張感を持って必要な対応に万全を期す」との意向を表明した。そんななか、弾道ミサイル防衛強化のために、日本政府はこれまで検討していた最新鋭迎撃システム「THAAD(サード:終末高高度防衛ミサイル)」ではなく、陸上配備のイージスシステム「イージス・アショア」を調達するのではないか、という情報も流れ始めた。


しかしながら、米軍の戦略家たちの一部からは「日本がこれまで以上に弾道ミサイル防衛システム(BMD)を強化しようというのはうなずけるが、はたしてBMDの強化だけで事足りるのだろうか」という声が聞こえてくる。


どういうことかというと、もしBMDが完璧に弾道ミサイルを撃墜できるのならば、いくら金をつぎ込んでも国防費の無駄遣いにはならないだろう。しかし、現状では、いまだに開発途上段階の兵器であるBMDは、あまりにも高額な買い物だ。そのため、「日本が限定的な『報復力』を手にするオプションを想定してもいい時期にきているのはないか」という見方があるのだ。


日本のBMDは、海上自衛隊のイージスBMD(弾道ミサイル迎撃機能を持ったイージス戦闘システムを搭載した軍艦によって、敵の弾道ミサイルを探知・追尾して迎撃するシステム)と、航空自衛隊のPAC-3(迎撃ミサイルPAC-3が装填された発射装置や制御管制装置などがトラックやトレーラーに積載され、弾道ミサイルが着弾する直前で迎撃するシステム)から構成されている。


これは、弾道ミサイル攻撃を受けた場合、まず海上のイージスBMDで迎撃し、それをくぐり抜けた弾道ミサイルはPAC-3で撃墜する、という「2段構え」とされている。しかし、これは正しい説明ではない。


なぜならば、前回のこの欄でも触れたが、PAC-3の最大射程距離は半径20kmと短く、防御できる領域は局所的であるからだ。そのうえ、航空自衛隊が保有しているPAC-3は18セットであるため、防御可能な場所は迎撃態勢を固めている最大18地点(うち2セットは沖縄に配備されている)を中心として20km圏内だけということになる。

防衛省に設置したPAC-3で防御可能な範囲(青円内、北村氏作成)

要するに、「日本のほとんどの領域において、弾道ミサイル防衛はイージスBMDの1段構えである」という表現が正しい。おまけに、そのイージスBMDといえども、海上自衛隊が保有するイージスBMD艦が4隻(近い将来には6隻、やがては8隻)では、常時3〜4隻を出動させておくことは至難の業である(軍艦は保有数の半数を実戦展開させられれば幸運といわれている)。


このようなBMDの現状を、少しでも好転させるために「THAAD」や「イージス・アショア」の調達が検討されているわけであるが、いずれにしても、BMDだけを想定している現状の枠に留まった議論である。


アメリカのBMDは最後の手段である


アメリカの場合、ICBM攻撃に対する弾道ミサイル防衛戦略は、「先制攻撃による抑止」「BMDによる抑止」「報復攻撃による抑止」の3つの抑止手段から構成されている。数発に過ぎない北朝鮮のICBMの可能性よりも、恐ろしいのは、ロシアや中国の高性能ICBM攻撃であり、たとえ数発だけが発射されても飛来する弾頭は10発を超えるとみられる。


「先制攻撃による抑止」とは、攻撃態勢を察知した場合に、敵の中枢部やミサイル関連施設に先制攻撃を加え、発射を阻止する軍事能力を見せつけることにより、攻撃をあきらめさせることを意味する。「BMDによる抑止」とは、敵が「様々なミサイル防衛システムによってことごとく撃墜されてしまう可能性が高いため、アメリカへの弾道ミサイル攻撃は無駄になる」と攻撃をあきらめるというシナリオである。最後の「報復攻撃による抑止」とは、攻撃をされた場合、アメリカがすかさず敵の軍事施設などを攻撃して大損害を加える軍事能力を見せつけることにより、さらなる攻撃をあきらめさせることを意味する。


BMDというのは、もしもそれらの抑止力が機能しなかったときに、最後の防御手段としてICBMを打ち落とすシステムなのである。現在のところ、中国、北朝鮮、ロシアからICBMがアメリカ本土(アラスカ州、ハワイ州を除く48州)に到達する35分程度の間に、イージスBMD、GMD(地上配備型ミッドコース防衛)、THAAD、再びイージスBMD、そしてPAC-3によって迎撃するという「4段(PAC-3配備地域は5段)構え」になっているのである。



(次ページへ続く)
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