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その頃、発展途上国では 松井博 #03

前回まではシリコンバレーにおけるエンジニアの生態や、ITの発達がアメリカの中産階級を没落させた様子などについて詳しくお話しました。しかし、それはあくまで先進国の中産階級における話であって、発展途上国では全く違う風景が広がりつつあるのです。

生産拠点の移動

ユニクロの生産を請け負っていた工場。職工たちが、黙々と製品を仕上げていた=2001年、浙江省

アメリカでコンピュータがビジネスの場に浸透し始めた1980年代の半ば、太平洋をまたいだ中国でもまた、地殻変動が起き始めていました。


上海、天津、広州、大連、深圳などの沿岸部の各地が経済特区や経済開発区に指定されると、若者たちが貧しい内陸部からこれらの地域へとこぞって移住を始めたのです。


最初のうちは工業製品や高度なIT機器の生産ではなく、主に被服などの生産が行われていました。例えば90年代後半のユニクロのフリースブームを陰で支えたのは、これらの地域に新設された生産拠点だったのです。


やがて沿岸部に工場が増え始めるに伴い、民族大移動といってもいいほどの移住が急ピッチで進みました。中国には、日本のような住民票制度がないため確かな数字はないのですが、90年からのおよそ20年間で、人口の15%ほどにあたる1億5千万人以上の労働者が沿岸部の工場地帯に移動したと言われています。パソコンやスマートフォンなどといった極めて高度な精密機器の製造も行われるようになり、工場がさらに増え続け、中国経済は爆発的な成長を遂げたのです。


こうした工場移転には一見、ITの発達など関係ないように思われるかもしれません。しかし、例えばアップル製品の生産を請け負うフォックスコンでは、わずか3ヶ月の間に3764万台以上もの iPhoneを製造しています。

深圳のフォックスコン(富士康)の工場の北大門。夕方になると、多くの人が外に出てくる=2016年、広東省深圳

それはつまり1ヶ月あたり50億個以上の部品がなんの滞りもなく納入され、製造ラインに載り、毎分290台のペースで製造されていることを意味します。ここまで緻密な部品調達のスケジューリングや生産工程の管理は、コンピュータなしでは到底実現できなかったでしょう。中国における安価な労働力による大規模で緻密な生産も、またITの支えがあってのことだったのです。


次に、現在、僕が語学学校を経営しているフィリピンに目を移してみましょう。

(次ページへ続く)

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