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白人労働者=トランプ支持者という先入観への警鐘~『マンチェスター・バイ・ザ・シー』

主演ケーシー・アフレック(右)と、妻を演じたミシェル・ウィリアムズ © 2016 K Films Manchester LLC. All Rights Reserved.



シネマニア・リポート Cinemania Report [#45] 藤えりか



米国の白人労働者層=トランプ支持者――。そういう決めつけは間違っていると気づかされて、はっとした。アカデミー脚本賞と同主演男優賞に輝いた『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(原題: Manchester by the Sea)(2016年)は、白人労働者が主流ながら、米大統領選で多くが民主党候補ヒラリー・クリントン(69)に票を投じた街が舞台。13日の公開を前に、監督・脚本を担ったケネス・ロナーガン監督(54)に電話でインタビューした。


今作のタイトルは米東部マサチューセッツ州の海沿い、ボストンから車で1時間ほどのマンチェスター・バイ・ザ・シー(通称マンチェスター)という小さな街の名だ。物語はまずボストン郊外のアパートで、無愛想なリー・チャンドラー(ケーシー・アフレック、41)が、雪かきやトイレ修理にゴミ出し、ペンキ塗りといった便利屋で生計を立てている場面から始まる。ある日、故郷マンチェスターから携帯電話に知らせが届く。小型船漁業や、富裕層のヨット修理で暮らしてきた仲のよい兄ジョー(カイル・チャンドラー、51)が倒れたと知ったリーは病院へと車を走らせるが、時すでに遅しだった。兄ジョーの遺言で、残された高校生の一人息子パトリック(ルーカス・ヘッジズ、20)の後見人にリーが指名される。だがリーには、故郷にはとても居づらい、忌まわしい悲劇の記憶があった――。

主演ケーシー・アフレック(右)と、兄を演じたカイル・チャンドラー © 2016 K Films Manchester LLC. All Rights Reserved.

2016年1月に米サンダンス映画祭で上映されるや絶賛。主演ケーシー・アフレックも、脚本を書いたロナーガン監督も、今作で初のオスカーに輝いた。そう書くといかにも華やかに聞こえるが、ケーシーの歩みは、影のある白人労働者リーとある面で重なる。


もとは俳優マット・デイモン(46)の監督デビュー作として企画されていた。「ちょっとした過ちから人生が崩壊する男の物語」として、マットが監督に加えて主演とプロデューサーも兼ねる予定で、ロナーガン監督には脚本のみ依頼していた。だが彼の脚本に感動したマットは、ロナーガンに監督も引き受けるよう頼んだ。そうするうちマットのスケジュールが過密になり、製作直前になって主演を降板せざるを得なくなる。そこでマットが指名したのが、幼なじみで盟友のケーシーだった。

主演ケーシー・アフレック © 2016 K Films Manchester LLC. All Rights Reserved.

ケーシーは、マットのもう一人の盟友ベン・アフレック(44)の弟。マットとベンが共同で脚本を書いてアカデミー脚本賞に輝いたガス・ヴァン・サント監督(64)の『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997年)にも出演した。だが、この作品などを機にスターダムへと駆け上がったマットとベンに比べ、どこか地味なケーシーは苦労が続いた。一時はレストランの下働きなどで生活費を稼ぐ日々も余儀なくされ、コロンビア大学も中退。その後、ショーン・コネリー(86)主演の『小説家を見つけたら』(2000年)でヴァン・サント監督の助手を務めるなど下積みを重ね、ジョージ・クルーニー(56)主演の『オーシャンズ11』(2001年)をはじめとする人気シリーズにも出演。『ジェシー・ジェームズの暗殺』(2007年)では主演ブラッド・ピット(53)をおさえてアカデミー助演男優賞にノミネートされた。だが2010年、製作・監督・脚本・撮影を務めたモキュメンタリー(フェイク・ドキュメンタリー)『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年)で、共同プロデューサーや撮影監督の女性2人にそれぞれセクハラで訴訟を起こされる。私財を投じて作ったこの作品自体、評価も興行成績も散々だった。今年2月には『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でアカデミー主演男優賞に輝いたものの、授賞式でプレゼンターとなった女優ブリー・ラーソン(27)が拍手を一切送らなかったことで思わぬ話題に。『ルーム』(2015年)で性的暴行・監禁の被害者を演じてアカデミー主演女優賞を受賞した彼女は、性犯罪被害者を支援するボランティアに携わっており、その立場からの冷ややかな態度だったのでは、との憶測が米メディアやネット上で流れている。

盟友マット・デイモン(左)と兄ベン・アフレック(右)と並ぶケーシー・アフレック © 2016 K Films Manchester LLC. All Rights Reserved.

つまり、決して順調とは言えない彼の実人生を考えると、今作の主役リーは、マットよりぴったりではないかと感じる。電話インタビューで水を向けると、ロナーガン監督は言った。「そう、ケーシーはリーと重なるところがあるね。とても陽気で前向きなマットに比べ、ケーシーはやや暗い人物。有能だが、さほど前向きでも陽気でもない。非常に熟練して物知りのよき父だが、実生活では間違いなく、マットと比べてくよくよしがちで暗い。今作は、そんなケーシーという役者とキャラクターとの、優れた融合となった。ケーシーの史上最高の演技だったと思う。マットが演じてもすばらしかっただろうが、ケーシーとはまったく違ったものになっただろう」



(次ページへ続く)

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