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トランプ政権の100日、軍事戦略いまだ描けず/軍事社会学者 北村淳 #2



「偉大なアメリカの復活」を旗印にして大統領の座を勝ち取ったトランプ政権は、偉大なアメリカの具体的象徴として「強力な軍事力」の復活を標榜している。そして選挙公約どおりに軍事予算の増額に舵を切った。


政権がスタートして100日の間に、トランプ政権はシリア軍航空基地に対するトマホークミサイル攻撃、アフガニスタンのIS拠点に対するMOAB(大規模爆風爆弾攻撃)、北朝鮮に対する威嚇など、“派手”に軍事力を誇示する行動を連発させている。

マティス国防長官は決まったものの・・・

しかしながら、予想よりもスムーズに連邦議会の承認を受けたマティス国防長官は別として、マティス長官を直接補佐して国防政策の舵取りをする海軍長官、空軍長官、陸軍長官のポストは、政権発足後100日を経過しても、いまだに決まっていない。もっとも歴代のアメリカ政権においても、確固たる軍事戦略が打ち出されるまでには半年以上かかるのが普通であるが、アメリカ国防戦略の司令塔であるペンタゴンの新体制が整っていないということは、トランプ政権がこれまで発動した軍事的威嚇は、いずれも強いアメリカ復活路線を内外に誇示するためのデモストレーション的軍事行動であり、確固たる戦略に立脚した“高度に計算された上での”軍事作戦とはいえない、ということである。


国防政策の道標となる基本的軍事戦略(統合戦略、陸海空と海兵隊のそれぞれの戦略に加え、アジア太平洋、中東、ヨーロッパ、アフリカなど地域別戦略を含む)が構築されるには、相当の時間が必要になりそうだが、トランプ政権は海軍力の増強については極めて具体的な方針を打ち出している。すなわち「350隻海軍の建設」と「フィラデルフィア海軍工廠(こうしょう)の復活」である。


「350隻海軍の建設」とは?海軍力による「偉大なアメリカの復活」


「350隻海軍の建設」は、現在、270隻程度の米海軍主要艦艇数を350隻に増強し、オバマ政権による軍事費大削減の結果、第1次世界大戦以降、最小規模にまで落ち込んでしまったアメリカ海軍艦艇数を増大させるというスローガンである。


1980年代のレーガン政権においても「600隻海軍」構想が推し進められた。アメリカはソ連との冷戦のまっただ中であり、1970年代中ごろから急速に充実してきたソ連の海洋戦力を封じ込めるために、レーガン政権はアメリカ海軍の大増強政策を打ち出したのだった。そのトランプ版が「350隻海軍」構想であり、今回の仮想敵はソ連海軍ではなく中国人民解放軍海軍である。


数量だけを見るとかつての「600隻海軍」には及ばないが、レーガン時代の軍艦よりも、現在の軍艦の兵器システム、センサー類、情報処理システムは更に進歩しているため、以前より少ない艦艇数でもそれ以上の働きを期待することができる。「600隻海軍」に近接する能力を期待することはあながち無理な発想とはいえない。


「アメリカの鉄で、アメリカの技術者・労働者の力で、アメリカの軍艦を」


海軍力増強のためには軍艦の数だけではなく、軍艦に乗り組む海軍将兵、メンテナンス、修繕に従事する要員数、港湾施設や修繕ドックなどの設備も大幅に増加させなければならない。そしてなによりも、100隻もの主力艦を造り出すための造船所をはじめとする建艦能力を大幅に増強する必要がある。そこで軍艦の建造費を大増額するということに加え、「フィラデルフィア海軍工廠(こうしょう)の復活」という具体的な手段も打ち出したのだ。


フィラデルフィア海軍工廠は1801年に開設されたアメリカ海軍の造船所である(ただし、正式名称は途中から「フィラデルフィア海軍造船所」に変わった)。長きにわたりアメリカ海軍艦艇の建造・修理を続けたものの、東西冷戦終結後の海軍予算の大幅縮小や、メンテナンスや建艦への海外企業の参入などに伴い、その規模は縮小され続けて、とうとう1995年には閉鎖された。ちなみに横須賀を本拠地にしているアメリカ第7艦隊の旗艦「ブルーリッジ」は、フィラデルフィア海軍工廠で生み出された最後の軍艦である。


トランプ大統領は「アメリカの鉄で、アメリカの技術者・労働者の力で、アメリカの軍艦を建造する」することにより「偉大なアメリカの復活」を計ろうというのだ。製鉄業や各種機械工業から最先端技術の研究までアメリカ国内産業の総力を投入することにより、国内の伝統的産業を活性化し、新鋭軍艦に不可欠な先端技術も開発し、当然のことながら国内雇用も増大する、といった具合に、“一石数鳥”の妙案ということになる。


アメリカ海軍が大歓迎しているのは当然である。予算に恵まれるからという理由だけでなく、これまで必要な軍艦を手にすることができなかったために、猛烈なスピードで拡大を続ける中国海軍に対して、東アジア海域では劣勢に立ちつつある状況をなんとか挽回するために一筋の光明を見いだしたからだ。


とはいうものの、これらの大事業はかなり長い年月をかけねば達成できないであろう。ちなみに、現時点におけるアメリカの軍艦建造スピードは中国の4分の1程度といわれている。造船所は現在就役している軍艦の整備や修繕もこなさなければならない。そのため、100隻近くの主要軍艦(原潜、空母、駆逐艦、強襲揚陸艦など)を建造して350隻海軍が誕生するのは、どんなに順調に事が運んだとしても、第2期目のトランプ政権(もし再選すればだが)の終わりまで待っても無理かもしれない(アメリカ連邦議会調査局の分析によると、15年は必要とのことである)。



(次ページへ続く)

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