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ルペン王国の内側で―エナンボモン再訪

欧州はどこへ――岐路のフランス大統領選を追う

遠藤乾・北大教授の現地報告(5)


フランス大統領選の第1回投票が4月23日にあり、欧州連合(EU)の統合推進を掲げるエマニュエル・マクロン前経済相(39)と、EU離脱の国民投票を公約とする右翼・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首(48)が1位と2位を占め、5月7日の決選投票に進みました。遠藤乾・北海道大学教授はこの日、フランス北部の旧炭鉱地帯にあるエナンボモンを再訪し、ルペン陣営に集まった支持者たちを取材しました。(編集部、本文敬称略)



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4月23日、北フランスは快晴だった。1カ月ぶりに訪れたエナンボモン(以前のルポ「若く明るい極右―FNの町エナンボモン」)では、大統領選有力候補の国民戦線(FN)党首マリーヌ・ルペンが、第1回投票の開票を本拠地で見守っていた。

大統領選第1回投票の結果を待つマリーヌ・ルペンの支持者ら=エナンボモン、国末憲人撮影、以下も

結果は、第2位。中道のエマニュエル・マクロンの24・01%に次いだものの、4750万人余りの有権者のうち、7,679,493票を集め、21・3%の得票率で5月7日の決選投票に駒を進めることになった。






第1回投票の最終結果

◾ Jacques Cheminade : 65 586票 0,18%

◾ Nathalie Arthaud : 232 384票, 0,64 %

◾ François Asselineau : 332 547票, 0,92 %

◾ Philippe Poutou : 394 505票, 1,09 %

◾ Jean Lassalle : 435 301票, 1,21 %

◾ Nicolas Dupont-Aignan : 1 695 000票, 4,70 %

◾ Benoît Hamon : 2 291 288票, 6,36 %

◾ Jean-Luc Mélenchon : 7 059 951票, 19,58 %

◾ François Fillon : 7 212 995票, 20,01 %

◾ Marine Le Pen : 7 678 491票, 21,30 %

◾ Emmanuel Macron : 8 656 346票, 24,01 %.

(フランス憲法評議会より)

マリーヌ・ルペンの決選進出が決まって歓声を上げる支持者ら

同日夜8時、テレビでその速報が流れたとき、会場は歓喜に包まれた。その場所は、皮肉にも、1981年から95年まで大統領を務めた社会党のフランソワ・ミッテランの名を冠した公会堂だったが、そんなことはお構いなし。長年の支持者と思われる中年女性は、「この瞬間を待ち続けた」と私の目の前で泣き崩れた。あとで話を聞くと、「プレザン」(Présent)という右翼紙のジャーナリストだという。「マリーヌでないとこの国を立て直せない」と力説していた。


決選進出決定を受けて演説するマリーヌ・ルペン

小一時間ほど待つと、マリーヌ本人が現れ、周囲の熱は最高潮に達する。もはやおなじみの「我々は勝つ」「マリーヌを大統領に」「自分たちは自分たちの国にいる」とコールが続いた。本当は、父ジャン=マリが2002年に2位だったのを超えてトップ通過したかったろうが、いくばくか安堵(あんど)した笑顔を見せている。と同時に、レジスタンスの英雄で第5共和制初代大統領であるシャルル・ドゴールに引き付け、愛国を説いた。それは、野卑なグローバル化、既成エリートからの解放・独立でもある。言ってみれば、党派を超えた救国戦線の訴えだ。その数日後、彼女はFN党首の座を辞し、すべての国民の代表になる意欲を見せつけた。


彼女が去った会場には、まだ多くの支持者が残って祝杯を挙げている。その中に、144項目のマリーヌ大統領選公約をまとめたジャン・メシアがいた。なにやら電話越しにアラビア語で話している。エジプトに生まれ育ち、フランスにきて国立行政学院を卒業、経済学博士、現役の国防省高官で、マリーヌを支持する官僚の秘密横断組織「ホラティウス兄弟」を主導する異形の人である。


マリーヌ・ルペンの大統領選公約をまとめたジャン・メシア

やや気が早いと知りつつ、聞きたかったのは一つ。マリーヌが決選投票を勝ち抜いたとして、FNは国民議会選をどのように戦うのかという点である。フランスは大統領制の国ではあっても、大統領支持派が議会で多数を築けなければ、首相指名から予算措置までままならず、新大統領の手足が縛られることになるからである。しかし、メシアはその晩の「歴史的勝利が全く新しいダイナミズムをもたらしている」とまだ勝利自体に焦点を合わせるよう先走りを戒め、質問自体ははぐらかした。「つまり、FNに議会選の戦略はないということか」と挑発すると、彼はそれについては、マリーヌ含めて他のFN指導者がそうするように、定型で通した。「フランス人は合理的で一貫している。大統領選で勝利したものに、議会の多数を与えるのだ。」


もちろん、現実はそう簡単ではない。大統領選と同様に、2回投票制を取る国民議会選で、FNが決戦を勝ち抜ける候補を多数そろえることは難しく、議会での多数派形成は極めて困難になると予想されている。


第1回投票を通過した晩は、早々に明ける。5月7日の決選投票はもちろん、6月の国民議会選まで、いずれが大統領になっても、まだまだ長いバトルが続くことになる。



〈予告編〉 遠藤乾・北大教授の現地報告が始まります

遠藤乾・北大教授の現地報告(1) リヨンに漂う不安

遠藤乾・北大教授の現地報告(2) 若く明るい極右―FNの町エナンボモン

遠藤乾・北大教授の現地報告(3)傷んだ地方都市―ルーベの長い黄昏

遠藤乾・北大教授の現地報告(4)高炉の火が消える―鉄冷えの町アイアンジュ


北海道大学大学院法学研究科・公共政策大学院教授。専門は国際政治、ヨーロッパ政治。1966年東京生まれ。オックスフォード大学政治学博士。欧州委員会内諮問機関「未来工房」で専門調査員としても勤務し、欧州大学院大学政治社会学部フェルナン・ブローデル上級研究員、パリ政治学院客員教授などを歴任した。現在は朝日新聞論壇委員も務める。著書に『統合の終焉 EUの実像と論理』(岩波書店、読売・吉野作造賞受賞)、『欧州複合危機』(中央公論新社)など、編著に『ヨーロッパ統合史』『原典ヨーロッパ統合史――史料と解説』(いずれも名古屋大学出版会)などがある。




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