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若く明るい極右―FNの町エナンボモン

欧州はどこへ――岐路のフランス大統領選を追う

遠藤乾・北大教授の現地報告(2)

炭鉱都市や鉄鋼都市が連なるフランスの北部から北東部にかけては、かつてこの国を支えてきた産業地帯でありながら、廃鉱や製鉄所の閉鎖が相次いだ。米国でトランプが支持拡大の標的と定めた「ラスト・ベルト」(錆び付いた地区)に似た一帯だといえる。ここで、以前は社会党や共産党を支持していた労働者の間に、ポピュリスト政党「国民戦線」(FN)が浸透しつつある。


3月末から4月初めにかけてこの地区を訪ねた遠藤乾・北海道大学教授の現地報告を、これから3回にわたって掲載します。最初の今回は、FN党首マリーヌ・ルペンが居を構え、市政もFNが担って党の拠点となった旧炭鉱都市エナンボモンから。(編集部)


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フランス北部エナンボモンの郊外にあるボタ山。この地方の炭鉱が栄えたころをものがたる=エナンボモン、遠藤乾氏撮影、以下も

北仏リール近くに位置する人口27000ほどの小さな町エナンボモンに、世界中から30社に上るメディアが押しかけているという。無理もない。戦後70年ほど左派が握っていたこの町の市政を、2014年の地方選で国民戦線(FN)が掌握した。この町を含むオー=ド=フランス地域では、15年の地方選でFNがほぼ3分の1の議席を占めた。法的な住所をこの地に移したFN党首マリーヌ・ルペンは、前回の2012年大統領選挙の第1回目投票で、2大政党の候補を抑え、地区でトップに立った。汚職に手を染めた社会党市政の敵失にも助けられた形だが、もはやここはFNの町なのだ。


かつての炭鉱町が落ちぶれて、貧困がはびこり、極右が支配するようになった――そんな物語に押し込めようとすると、たちまち裏切られる。もちろん、構造的な失業や格差などの問題は抱えているが、町なかでは新興ビジネスが育ちつつあり、中産階級もそれなりに残っており、うらぶれた感は薄い。古くからのポーランド系の移民などは定着し、南仏の諸都市などと比べて新しいムスリム(イスラム教徒)の移民は決して多くない。


エナンボモン市のクリストファ・ジュレック副市長

FNの副市長クリストファ・ジュレック氏もポーランド系移民の三世だ。とにかく若く(31歳)、親切で開放的。リール大の法学部時代、少し日本語もかじったようで、片言を話す。高校時代は社会党の青年組織にかかわり、2002年大統領選で決選投票に進んだFNのジャン・マリ・ルペン(マリーヌの父)当選阻止の運動までしていたが、その後人々を置き去りにした既成政党同士の党派闘争に飽き飽きし、2007年FNに転じた。いまや、FN幹部でもあるスティーヴ・ブリオワ市長(45歳)の片腕である。


この3年の市政で、ムスリム移民関係の予算は削ったのか、その監視を厳しくするよう方針を変えたのかといった意地悪な質問をしても、明るい表情は変わらない。多少監視カメラと警官の数は増やしたが、予算を削った事実はなく、モスク建設は予定通り認可されたという。我々の市政は、人々の声を聴くことから始まり、イデオロギーでなく常識で動いている、と語る。



エナンボモンの街角に貼られたFNのポスター

拍子抜けするくらい人種的な排外主義の匂いがしないのだ。

他方、移民はコントロールしなければという。特に福祉国家へのただ乗りには厳しい。また、イスラーム急進主義がフランスの自由・平等・博愛といった価値と相いれないのだと批判的に言及していた。

欧州連合(EU)に対しても離脱を口にし、きわめて批判的だが、ヨーロッパに批判的なわけではないという。超国家がコントロールする現状から、主権的なネーションが緩やかに協力するのがベストという。ヨーロッパの主要国が協力して作った旅客機エアバスが理想の事例だ。


この青年副市長が憎悪に無縁に見えたとすると、次に会った老人は静かに――しかし明らかに――怒っていた。現在70歳のジョゼ・エブラ―氏は、かつてこの地区の元共産党幹部だった。2000年党員をやめ、02年の大統領選では左派ナショナリストとでもいうべき共和国市民運動のジャン・ピエール・シュヴェーヌマン候補に投票した。2013年FNに転じ、いまはその熱心な運動家だ。自身は何も変わっておらず、ミリュー(活動家環境)の変化も気にならないという。

氏によれば、対独レジスタンス期から共産党が掲げていた(はずの)独立と愛国は、いまやFNでしか実現できない。グローバル化とEUはフランスの独立を侵食し、ドイツ主導の緊縮財政の下、特に若者の失業が蔓延する。かつての移民と違い、現在のムスリム移民はフランスのやり方に従わず、29%もの在仏ムスリムがシャリーア(イスラーム法の戒律)に従う。フランスが掲げてきた政教分離(ライシテ)には程遠い。既成政党はすべからくこうした現状に甘んじており、FNによる変革が必要だということになる。強烈なナショナリズムだが、再び人種的な排外主義の色は薄い。


目の前で起きているのは、FNの脱悪魔化かもしれない。それはごく普通の政党として、すでにこの町の政治風景に溶け込んでいる。〔敬称略)



〈予告編〉 遠藤乾・北大教授の現地報告が始まります


遠藤乾・北大教授の現地報告(1) リヨンに漂う不安



北海道大学大学院法学研究科・公共政策大学院教授。専門は国際政治、ヨーロッパ政治。1966年東京生まれ。オックスフォード大学政治学博士。欧州委員会内諮問機関「未来工房」で専門調査員としても勤務し、欧州大学院大学政治社会学部フェルナン・ブローデル上級研究員、パリ政治学院客員教授などを歴任した。現在は朝日新聞論壇委員も務める。著書に『統合の終焉 EUの実像と論理』(岩波書店、読売・吉野作造賞受賞)、『欧州複合危機』(中央公論新社)など、編著に『ヨーロッパ統合史』『原典ヨーロッパ統合史――史料と解説』(いずれも名古屋大学出版会)などがある。


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