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「心の筋トレ」でオレは変わるか!?〈その3〉

タイの山中で瞑想修行編①




過去への悔恨や未来への不安にさいなまれる「タラレバ思考」と何とかおさらばしたい――。そんな切実な思いから海外での瞑想修行を決意した私が、自らを鍛え直す場として選んだのが、バンコクから車で約4時間半。タイ東北部のチャイヤプーム県山中、標高470メートルの高原にあるスカトー寺だ。


この寺には、タイで得度した日本人僧侶プラユキ・ナラテボーが副住職を務め、この地をはるばる訪れた迷える日本人たちを導いている。


スカトー寺は約50年前、恵まれた自然を生かした瞑想修行専門のお寺として建立された。


タイの寺院によく見られるきらびやかな仏閣や装飾はまったくなく、朝食用と読経・講話用の二つの簡素な集会所があるだけ。広大な山林には、僧侶や在家の修行者らが生活する小屋が点在している。近くに小さな山村はあるものの、文明の匂いはほぼ皆無だ。


どのぐらい自然に恵まれているかというと、例えばこれ。


寺の入り口から少し入ると、道の両側には様々な木々に囲まれた広大な二つの池があり、そのうち一つには住職が暮らす水上住宅が設けられている。住職のインタビューで一度訪れたが、水上をわたる風が部屋の中に吹き込み、外の光景の美しさと相まって「極楽」と言ってよいほどの心地よさだった。


さらに、寺から歩いてほんの数分の見晴らしの良い場所にいくと、このような朝日が拝めるのだ。


そしてこれが瞑想修行場。


シラカバに似た背の高い木々が茂る中、この寺で行われる独特の瞑想法を実践するための、長さ7~8メートルほどの歩道と簡素な椅子があちこちに設けられている。修行者たちは好きな場所を選び、木漏れ日の中、様々な鳥の鳴き声を聞きながら静かに瞑想する。


さらに、修行場の奥には、このようなほぼ手つかずの自然の中を歩ける遊歩道があるのだ。


「酷暑」のイメージが強いタイだが、乾期のこの時期、高地にあるこの寺で暑さを感じることは少ない。湿度が低い上に常に適度の風が吹き、屋外でも汗一つかかずに過ごせる。


仮に富裕層向け高級隠れ家リゾートを開発する業者がこの地を訪れたとしたら、必ずや目の色を変えて買収工作に取りかかるだろう。


迷える私をこの地に導いたのは、やはり仏のご加護に違いない――。来た当初は、オヤジをガラにもなく信心深くさせたほどの、絶好のロケーションなのだ。


しかも朝、昼2回にビュッフェスタイルで提供される食事は、完全有機無農薬で、しかも日本人好みの薄味で美味。ビールが出ないことを除いては、食事面での不満は一切なかった。



だが、光あるところには影がある。ここからはスカトー寺の恐るべき試練の話もしなければならない。


まずは住環境。私が暮らす小屋は2人向けだが、1人用の居住スペースは2メートル×2メートルの正方形。「方丈記」の「方丈」はおよそ3メートル×3メートルだから、作者の鴨長明もビックリ、だ。

床は木の上に派手な色合いのビニールシートを敷いただけ。テレビはもちろん、机も椅子もベッドもない。就寝時には、硬い硬い床の上にうすーいゴザを敷き、これまたうすーい毛布をかぶっただけで、ごろ寝するのだ。

しかも夜はおそろしく冷える。雲一つない晴天続きのため、夜間は放射冷却現象でどんどん熱が逃げていくのだ。実際に温度を測ったわけではないが、来た当初は日本の感覚で言えば「昼間は5月、夜は10月、夜明けごろは1月」という感じだろうか。


小屋の窓には、網戸の外側に木造の扉が設けられているが、ガタが来ていてまったく閉まらない。壁も薄く、室内の温度は外気とほぼ同じにまで下がる。


硬い床と寒さのダブルパンチで、最初の夜はほとんど眠れなかった。大量の毛布を追加で借り、さらには集会所に置いてあった座布団代わりのマットまで拝借。ようやく落ち着いて眠れる環境を整えた(それでも、日本のビジネスホテルなどとは比較にならないが)のは、スカトー寺滞在も後半に突入してからだった。

52歳のオヤジに御仏が与える試練としては、あまりに過酷過ぎはしないか――。ここまで読まれた慈悲深い読者はきっとそう思われることだろう。私もそう思う。


だけど我が師匠、プラユキはさらにすごい掘っ立て小屋に住んでいるから、文句は言えないのだ。


屋根はトタンで雨期のスコール時には、会話もできないほどの騒音。しかも、至るところから雨漏りもしている。こんな小屋に30年近くも暮らして「住めば都だよ」と涼しい顔で話すプラユキ師匠。やはりただものではない。












太田啓之(おおた・ひろゆき)

1964年生まれ。GLOBE記者。「入試とエリート」「医者とカネ」「不安な世界をハルキが救う」などの特集を担当。







「心の筋トレ」でオレは変わるか!?〈その1〉

「心の筋トレ」でオレは変わるか!?〈その2〉

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