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同性婚合法化にも道を開いた黒人・白人夫妻~『ラビング 愛という名前のふたり』

ⓒ2016 Big Beach, LLC. All Rights Reserved.




シネマニア・リポート Cinemania Report [#36] 藤えりか




有色人種の血がわずかでも混じった人と、白人との結婚は違法で逮捕までされてしまう。第2次大戦後ですら、米国の大半の州はそんな状態だった。そのような法律は憲法違反だとする司法判断への道を開いた実在の夫婦の物語『ラビング 愛という名前のふたり』(原題: Loving)が3日、公開された。実は21世紀の同性婚の合法化にも大きな影響を与えたこの実話の映画化について、英オスカー俳優コリン・ファース(56)とともに製作にあたったジェド・ドハティに聞いた。



舞台は1958年の米バージニア州の小さな町セントラル・ポイント。恋人ミルドレッド・ジーター(ルース・ネッガ)から妊娠を告げられた白人れんが職人のリチャード・ラビング(ジョエル・エドガートン)は、喜びをかみしめつつ結婚を申し込む。だがミルドレッドはネイティブ・アメリカンの血もひいたアフリカ系。時は公民権法の制定前、バージニア州は異人種同士の結婚をなお禁じる多くの州の一つだった。2人は、そうした法規制のない隣の首都ワシントンで結婚したうえでささやかに暮らし始めるが、ある日の深夜、州の保安官に荒々しく逮捕され、留置場に。州裁判所で25年間の州外追放を言い渡され、故郷を追われてワシントンの親類宅で身を縮めるように暮らす。そこへケネディ大統領が就任。人種差別の撤廃を求めてキング牧師がワシントン大行進を率いた1963年、ミルドレッドは大統領の弟でもあるロバート・ケネディ司法長官に手紙をしたためる。全米で最も影響力のある人権NGOのひとつ「米自由人権協会(ACLU)」の弁護士らが立ち上がり、メディアも動き出す。


映画化のきっかけは、ミルドレッドが68歳で亡くなった2008年にさかのぼる。

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彼女の訃報記事に、米国のドキュメンタリー監督ナンシー・バースキーは感銘を受けた。ラビング夫妻の最高裁判決の前夜に米ABCで特集を組んだことがあるTVプロデューサーのホープ・ライデンと組み、今作にも登場するライフ誌カメラマン、故グレー・ヴィレットが撮った夫妻の写真ももとにして、ドキュメンタリー『The Loving Story(原題)』(2011年)を製作した。映画祭で上映、米ケーブルテレビHBOでも放送され、「米放送界のピュリツァー賞」と言われるピーボディ賞や、エミー賞を受賞した。


これを長編フィクション映画にしませんかーー。バースキー監督はドキュメンタリーを仕上げる傍ら、俳優コリン・ファースにそう持ちかけた。コリンが米国の政治や社会史にも関心が深いことを、コリンの妻リヴィアから聞き知ったためだそうだ。夫妻の軌跡に心動かされたコリンは、バースキー監督とともに構想を練り始めた。コリンは一方で、古くからの友人、英レコード産業協会会長ジェド・ドハティと映画製作会社「レインドッグ・フィルムズ」をロンドンで創業。その経緯は、彼らの第1作『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』(2016年)についてジェドにインタビューして書いたシネマニア・リポート#26をお読みいただければと思うが、そうして彼らは『ラビング 愛という名前のふたり』にも取り組んだ。

コリン・ファース=ロイター

今作について、ジェドに東京でインタビューした昨年11月に続き、今年2月にも追加で質問した。


「コリンが私にこの話を教えてくれた当初、これがまだ(フィクションの形で)映画化されていないことに信じられない思いだったよ」とジェド。そうしてバースキー監督のドキュメンタリーを見たうえで、詳細を調べるためリサーチに没頭するにつれ、文字通りなかなか寝つけなかったという。「法をも覆した、人種を超えた結びつきについてのこの実話は、米国の公民権をめぐる最も大切な物語のひとつだ。だが同時に、ラビング夫妻はただ子どもたちを育て、愛し合いながら暮らすためそっとしておいてほしいと願っていた。愛、そしてパートナーへの誓いとは何か、物ごとを受け入れて寛容になるとはどういうことか、肌の色が何であれ人はみな同じなのだということを、この2人は教えてくれる」。ジェドはそう言って、「とりわけ今、トランプの登場で人種間の分断が起きている米国において意味がある」と強調した。


ラビング夫妻の物語の意義深さは、人種問題にとどまらない。「同性婚の合法化をめぐる昨今の問題にとっても、非常に意義が大きいんだ」とジェドはつけ加えた。

プロデューサーのジェド・ドハティ=仙波理撮影

知らなかった。


世界ではオランダが2001年に初めて同性婚を認め、米国でもカリフォルニア州など36州と首都ワシントンで合法となったが、米国もなお14州では禁じられていた。そこへ連邦最高裁が2015年6月、同性カップルが婚姻制度の恩恵を受けられないのは不当な差別だとして、すべての州での同性婚を認めた。その際、判決を言い渡したアンソニー・ケネディ判事(80)が引用したひとつがこのラビング夫妻の判例だった。「結婚は、自由な人間がまっとうに幸福を追い求めるにあたって不可欠な個人の権利」として全米で異人種間結婚が認められた当時の判決が48年後、同性カップルの権利をも広げたのだ。

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今作でも描かれているが、こうした裁判でACLUが果たしてきた役割もまた大きいのだと改めて思う。ACLUは全米からの寄付などをもとに屈指の弁護士を擁し、人権問題に長年取り組んできた。最近は、中東・アフリカ7カ国出身者の入国を禁じる大統領令などを繰り出すトランプ大統領(70)に抗議、強制送還などに怯える移民たちに法的な対抗手段も指南している。そのための資金としての寄付が、ツイッター社をはじめ移民文化で栄えてきたシリコンバレーのIT企業から、また一般の篤志家からもどんどん集まっている。米国が、ラビング夫妻のような人たちを苦しめ追いつめてきた一方で、彼らのような人々を支えるうねりを作り出す国でもあることを、今作は気づかせてもくれる。



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藤えりか(とう・えりか)

1970年生まれ。経済部や国際報道部などを経て2011~14年にロサンゼルス支局長、ラテンアメリカを含む大統領選から事件にIT、映画界まで取材。映画好きが高じて脚本を学んだことも。現在GLOBE記者。ツイッターは@erika_asahi



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