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ずぶの素人だから革新を起こせた

マット・ジョンソン(ベアコンダクティブCEO)

デザイナーは語る 7


「デザイン」を特集したGLOBE190号は次の日曜日、2月5日の発行です。紙面に先立ち、私たちに熱く語ってくれたデザイナーの言葉を紹介します。7回目は、ロンドンの王立芸術大学院(Royal College of Art)時代の仲間とともにベアコンダクティブ社を起業したマット・ジョンソンさん。在学中に発明した電気を通すペイントを使い、前例のない分野に電子技術を応用しようと試みています。ゼロからイチを生み出すにあたってデザインはどんな役割を果たしたのでしょうか。


マット・ジョンソン(左)
photo:Nakamura Yutaka


――電気を通すペイント(エレクトリックペイント)はどのようにして誕生したのですか。

王立芸術大学院(RCA)に在学中の2008年に取り組んだ「電子工学と身体の融合をデザインせよ」という課題がそもそものきっかけです。最初は電子回路を仕込んでピカピカ光るジャケットなんていいんじゃないかと。でも、実際作ってみたら配線が邪魔して動きづらかったり、見た目が悪かったり。導電性のインクがあればTシャツに直接回路を描いて、プリントできるんじゃないかと考えたのが始まりです。


アイデアをカタチにするにあたって大変だったのは、電気が流れているときに肌に直接触れても安全な素材をゼロからつくることでした。そこで僕らがまず向かったのはドラッグストア。シャンプーやセッケン、スキンケアなど肌に直接使う化学製品を200ポンド(約2万8000円)ほど買い込んで、どんな成分を含んでいるのか調べました。シャンプーの粘り気はなぜ高いのか、マスカラはなぜ乾くのか、そんなことを身近な商品から学び、応用を重ねたんです。


奇妙に聞こえるかもしれないけど、無知だったからこそイノベーションを起こせたんだと思います。専門知識は必要なんだけど、それだけじゃ従来の発想を超えることはできない。デュポン(世界的な化学会社)は色んな化学製品や導電性素材をつくって巨額の利益を上げていますが、導電ペイントはつくっていませんよね。僕らはずぶの素人で未熟な技術者だけど、自分たちが何をつくりたいのかわかっていたし、どのような手順を踏めばいいのかも理解していた。そのことを身をもって示せたのがすごくうれしい。だから、僕たちがつくったものを見てくれと声を大にして世間に叫びたい。

photo:Kodera Hiroyuki

――これを使って社会を変えることはできますか?

たとえば壁や床、テーブルや椅子といった身の回りのものにこのペイントを使って電子回路やセンサーを仕込めば、人を感知するシステムをその空間に築くことができる。人感知システムを使って空調や照明を臨機応変に制御できれば、資源やお金の節約が期待できますよね。ロンドンに残る古いビルをまるごとスマート空間にできればその効果は大きいでしょう。人感知システムは、防犯にも健康管理にも応用できますよ。


もうひとつ面白いのは、新聞を印刷するように電子回路を埋め込んだものを大量に印刷できるということ。IOT(モノのインターネット化)を大規模に低コストで実現する可能性に道をひらくと思っています。


導電性ペンで何ができるの?

(撮影:中村裕、機材提供:BS朝日「いま世界は」)



――イノベーションを起こすにあたってデザインはどんな役割を果たすと思いますか

たとえば目の前によくわからない問題が横たわっているとします。さてどうやって解決しますか? エンジニアはそれを分解して解決策を探るでしょう。それに対してデザイナーは試してみるんですよ。色んなテストを繰り返して、問題の本質を探り当てようとする。時間はかかるけど正解を出すことができる。僕にいわせると、問題を解決する方法としてのデザイン思考こそデザインの大事な役割ですね。


僕たちの例にあてはめれば、技術者としてその道を深く掘り下げるのではなく、デザイナーとして思考した結果、ある地点からまったくかけはなれた別の地点へ跳躍できたということになりますね。コーヒーポットをいくら新しくデザインしてもそれはコーヒーポットに過ぎない。でも、まったく違う価値をもったものをつくることができるのもデザインの力なんだと僕は思っています。


――今後の抱負は?

新しいアイデアに投資するお金を蓄えるために長期的に利益をあげてくれる応用製品をつくること。いくつかプランはあって、ひとつは今年中には発表できそう。開発とビジネスの両輪がうまくかみあって、常に新しいものを生み出すことができれば素晴らしいですよね。


そうそう。先日150人の従業員を抱えるところまで成長した企業の経営者と話をしたら、僕らのような小さな所帯と同じような悩みを抱えていた。会社が大きくなれば解決するわけじゃないんですね。常に困難はつきまとい、それを突破することの繰り返しです。だからRCAの後輩にはこう話しています。もし壁にぶつかることがないのだとしたら、それは君がどこかでさぼっているからだと。良いランナーは途中の苦しみを力に変えることができるんだと思います。僕も良いランナーになりたいですね。

Matt Johonson

1982年、米国コロラド州デンバー生まれ。大学で経済学を学び、ゼネコンに就職したが、2007年にRCAのイノベーション・デザイン・エンジニアリング学科に入学。在学中に出された研究課題に取り組むために組んだグループの仲間とベアコンダクティブ社を設立し、クラウンドファンディングで資金調達を行うキックスターターで12万2970ポンドを集めた。


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