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世界の働き方

Re:search~ブラジル取材記②


2月5日発行GLOBEのルポRe:searchでは、グローバル時代における「もう一つの」働き方を取り上げます。(GLOBE編集部・江渕崇)




インタビューが終わらない! 次なるラテンの洗礼



ブラジルでのインタビューは、かなり独特です。


たとえば米国でビジネスがらみの取材をする場合、午前10時にインタビューのアポイントをとれば、込み入った事実の確認や現場の見学でもない限り、ふつうは11時、遅くても12時にはだいたい取材が終わります。こっちも向こうも忙しい。午後にもう一つ二つ取材を入れるのも問題ありません。


ところが、今回のブラジル取材では、午前9時や10時に取材をスタートして、昼までに終わることはまずありませんでした。だいたい昼食を挟んで、下手をすると3時あるいは4時まで長引く。ポルトガル語しか話せない人への取材は、ブラジルに住む日系2世の女性に通訳を頼んだのですが、なにせブラジルの取材相手の多くは、聞いたことに直接答えてくれないのです。


「ここで働いて何年になりますか?」といった簡単な問いにも、場合によっては10分、15分としゃべり続け、通訳さんが訳すのはわずか1、2分ほど。彼女によると「ぐるぐると同じ話が回っているので」。それも「私は●●州の出身で、父はドイツ系で。。」といった身の上話だったり最近の天気の話だったりで、質問にまったく答えていない。


そんな調子のインタビューが何日か続き、私はたまりかねて、「申し訳ありませんが、質問したことだけに答えるように言ってください」と通訳さんにお願いしてしまいました。彼女には、「ブラジルでそんな効率的な取材は無理です」と取り合ってもらえませんでしたが。

取材を終えると、だいたい集合写真を撮る


新聞業界には「字になる」という言い回しがあります。仕入れた話に「記事にできる中身がある」という意味です。私たちのインタビューはふつう、いかに限られた時間で「字になる」話を引き出すかが勝負です。ただ、ブラジルでの取材にちょっとずつ慣れてくると、「字になるか、ならないか」をいちいち気にして話を聞くことが無粋に思えてきました。


私は考えを改めました。「字にならない」はずの話が、思いがけず興味深いストーリーになるのも、しばしばあることですし。彼・彼女らが嬉しそうに話すのを止めるのも、なんだか無礼な気がしてきました。質問に関係あろうがなかろうが、好きなだけしゃべってもらおうと。おかげで、面白い取材がたくさんできた気がします。


ただ、午前中にはじまった取材が長引きすぎて、夕方の飛行機に乗り遅れそうになったのはちょっとやりすぎでしたが。


一度、取材相手がとても時間を気にしているインタビューがありました。ブラジル北部セアラ州の田舎町で、有機綿を栽培している農家グループのリーダーたちを取材したときのことです。そわそわしているので事情を聞くと、「このあとラジオに出演する予定があるんだ」といいます。「昼には行かないといけないが、見に来るかい?」とのことだったので、地元のラジオ局までついて行きました。


少しだけいやな予感がしました。番組が始まると、このリーダーは有機綿の栽培がいかに有意義なことかを司会者に力説しています。番組が進むにつれて、「ジャポネ・・・」というような音が聞こえるようになりました。ああ、やはり来ました。「きょうは日本からアミーゴ(友達)が来てくれています、では自己紹介からどうぞ!!」。



何を取材に来たのか?ブラジルの印象は?この街についてはどう思った?しどろもどろになりながら、通訳さんの助けも得て、なんとか乗り切りました。2015年、インドネシア・ジャワ島中部のムラピ山にあるラジオ局に取材に行った際、生放送の番組に突然出演させられ、冷や汗をかいた記憶がよみがえりました。いきなりのラジオ出演はもう勘弁です。


そのリーダーへの取材は、番組が終わった後に仕切り直し、昼食を取りながらまた何時間も続きました。







江渕崇(えぶち・たかし)

1976年宮城県生まれ。経済部や国際報道部を経て2014年からGLOBE記者。最近は「給料の話」(2016年6月)や「グローバル化という巨象」(同11月)を担当。グローバル経済のなかで「普通の働き手」が直面する困難にどう立ち向かえばいいのかを取材している。



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