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海野教授の 歩いてわかった アメリカ大統領選(13)

戸別訪問はツイッターに敗れたのか


今回のアメリカ大統領選では、戸別訪問に力を入れたヒラリー・クリントン陣営に対し、候補者本人がツイッターで直接有権者にメッセージを送り続けたドナルド・トランプ氏が勝ちました。戸別訪問はツイッターに敗れたのでしょうか。そうではない、と明治大学の海野素央教授は言います。(構成 GLOBE編集部・左古将規)


トランプ次期大統領のツイート

クリントン氏がトランプ氏に負けて1カ月が過ぎましたが、今も消化しきれていません。なにせ私の専門は異文化コミュニケーション。クリントン陣営はヒスパニック、アフリカ系、女性、若者、LGBTの「異文化連合軍」で戦ったのに、移民やイスラム教徒といった異文化を否定するトランプ氏に敗れてしまったわけですからね。


しかも、トランプ陣営が戸別訪問をしている様子はほとんどありませんでした。私は今回の大統領選を通じて11州で計3346軒を戸別訪問して回りましたが、トランプ陣営の運動員と出くわしたのは1回だけでした。


戸別訪問の代わりにトランプ氏が何に力を入れていたかというと、やっぱりツイッターですよね。選挙期間中、トランプ氏は自分の意見をツイッターで発信し続けました。


以前はアメリカの選挙戦略で「地上戦vs.空中戦」と言えば、「戸別訪問vs.テレビCM」でした。テレビCMは一度に多くの人に届きますが、戸別訪問はフェース・トゥ・フェース、お互いに顔と顔を合わせて信頼関係を築くことができます。政策も丁寧に説明できる。票を得るために非常に効果的です。


ツイッターは強敵でした。候補者の立場からすると、テレビCMと違ってお金もかからないし、好きな時間に好きなだけ発信できる。しかも、発信する内容を本人が完全にコントロールできる。


テレビCMは一方的に流すだけですが、ツイッターは双方向のコミュニケーションが可能です。有権者の方から言葉を投げかけることもできる。候補者本人とコミュニケーションをとっているような錯覚に陥ります。戸別訪問と違ってバーチャルなコミュニケーションなんですけどね。


トランプ氏は短い文章でメッセージを発信するのが上手でした。経済的に苦しんでいる人たちに対して、「あなたたちは何も悪くない。悪いのはビル・クリントンが署名した北米自由貿易協定や、不法移民たちだ」と「敵」を名指ししました。そんなトランプ氏のメッセージが響いて、白人労働者や退役軍人たちが熱狂的に応援したのです。

フィラデルフィアでの戸別訪問

これからの選挙運動では、ツイッターが戸別訪問よりも有効なのでしょうか。私はそうは思いません。今回の選挙では、戸別訪問がツイッターに敗れたわけではない。むしろ、戸別訪問を十分にできなかったことがクリントン陣営の敗因だと私は考えています。


戸別訪問に行くときには、ターゲットとなる人たちの名簿を持って回ります。会えた人の欄に印をつけるんです。2008年、12年のオバマ大統領の選挙のときには、それぞれの有権者に3回まで印をつける欄がありました。つまり、訪ねた人がもし不在だったら、2回目、3回目と、会えるまで何度も訪ねたのです。


ところが今回の大統領選、予備選でペンシルベニア州を回ったときには、2回目までの欄がありましたが、2回目どころか1回目の欄もすべて埋まっていませんでした。本選でオハイオ州を回ったときには、そもそも欄が1回分しかありませんでした。


戸別訪問は人海戦術です。本来なら、若者の機動力が欲しいところです。ところが今回、この連載でも繰り返しお伝えしてきたように、バーニー・サンダース氏を支持した若者たちがクリントン陣営に力を貸してくれなかった。オバマ大統領のときとは陣営の熱気も人数も全然違いました。戸別訪問で回るべき家を十分に回りきれなかった。それが敗因だと思います。


若い人たちを巻き込むためには、民主党陣営もツイッターをもっとうまく活用する必要があるかもしれませんね。短くて分かりやすいメッセージと、候補者本人のキャラが立っていることが必要でしょう。


私は18年の中間選挙も、20年の次回大統領選挙も、また民主党陣営で戸別訪問をしたいと思っています。


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海野教授が、選挙運動を通じて見えてきた米国社会の「今」を語るこの連載は、原則として、月2回掲載します。


海野素央(うんの・もとお) 1960年生まれ。明治大学政治経済学部教授。専門とする「異文化コミュニケーション論」の研究の一環で、2008年、12年の米大統領選でオバマ陣営に参加。今回もクリントン陣営の一員として戸別訪問を重ねる。



【連載】 海野教授の 歩いてわかったアメリカ大統領選

第1回 トランプ旋風のすごさに「シェー」 1505軒を戸別訪問

第2回 クリントン陣営には情熱が足りない?

第3回 「不公平感」をあおるトランプ

第4回 トランプ陣営の「地上部隊」も手強い

第5回 カギは党内のまとまりと好感度アップ

第6回 「一緒に強くなる」クリントン

第7回 有権者に広がる「消極的支持」

第8回 テレビ初対決「非言語コミュニケーション」に注目

第9回 「変革」トランプ候補vs.「現状維持」クリントン候補?

第10回 投票率アップへ、クリントン陣営の工夫

第11回 空中戦のトランプ対戸別訪問のクリントン

第12回 歩いて出会った「隠れトランプ支持者」 

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