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世界と日本を考える

[第22回]

東アジア共同体はユートピアに終わる?
「友愛」の歴史的考察 

コンラッド・ローソン Konrad M. Lawson
ハーバード大学歴史学部博士課程 


3月17日に行われた日本国際問題研究所のシンポジウム「東アジア共同体の構築を目指して」のあいさつで、日本の首相鳩山由紀夫はこう語った。「日本を世界に向けて開く、特にアジアの一国として日本をもっと開国させるということを、東アジア共同体を構想することによって実現していくことが急務だ」

コンラッド・ローソン氏

鳩山は昨年9月の政権発足前に「東アジア共同体」構想を打ち出した。この構想は何を目指しているのか。同月号(8月発行)の月刊誌「Voice」に鳩山が寄稿した「私の政治哲学」によれば、東アジア共同体は、地域の問題を解決し、過去のナショナリズムを抑えるためのものだという。しかし、地域統合は、本当にナショナリズムを乗り越える最善の道なのだろうか。実は、過去にも似たような構想を持ち、似たような問いかけをした人々がいた。

「私の政治哲学」のなかで、鳩山は東アジア共同体構想を非現実的だとする批判に先回りするかのように、ある本を引用している。
「すべての偉大な歴史的出来事は、ユートピアとして始まり、現実として終わった」
これは欧州で、20世紀の最も重要な統合欧州の支持者の一人として知られるリヒャルト・クーデンホーフ・カレルギー(1894~1972)の著作「汎ヨーロッパ」の一節だ。
駐日外交官だったオーストリア人貴族の父と日本人の母との間に生まれた彼が1935年に書いた「自由と人生」(原題は「人間対全体主義的国家」)を翻訳したのが鳩山の祖父で元首相の一郎だった。日本では、鳩山の説く「友愛」のきっかけとなった人物として有名だ。
1931年、彼はこう語った。「国家の時代から、世界連邦の時代に至るまでの間に、我々は偏狭な国家への愛国心が、世界のより大きな地域に対するものへと変わる『大陸』の時代を経なければならない」

彼は、第1次世界大戦後の壊滅的な状況のなかで、国家間の対立をなくす必然的な答えは地域ブロックによる連邦主義だと考えた。汎欧州、あるいは後に「欧州合衆国」と彼が呼んだものを設立することに人生をささげた。構想では、合衆国において国家は残るが主権は限定され、地域ブロックの経済、政治、
司法制度がそれを補う。欧州、アメリカ、大英帝国、ソビエト連邦、日中協力に基づく東アジアという五つの地域ブロックが戦争のない連邦世界を作ると考えた。

同時代のインドにもユートピアを信奉した人物がいた。ラージャー・マーヘンドラ・プラタープ・シン(1886~1979)。独立運動家、哲学者、そして世界連邦の支持者でもあった彼も、第1次世界大戦後に連邦主義の構想を抱いた。
孫文や汎アフリカ運動の指導者マーカス・ガーベイらと出会い、ガンジーやダライ・ラマとも連絡を取り合った。

クーデンホーフ・カレルギーが、世界平和のための「友愛精神(fraternal spirit)」を掲げたように、プラタープも連邦主義的な考えを持ち、「愛の宗教(religion of love)」に基づいて世界をまとめようと考えた。
例えば、日本と中国大陸を統合させた地域を作り、首都は東京ではなく、より両者の中間に近い青島にする。大英帝国からの独立を目指していた彼はたびたび来日。
日中戦争の戦火が広がるなか、日本の汎アジア主義者の中に西欧の植民地主義に対抗するという共通項を見いだし、旧満州で「大亜細亜義勇軍」を組織しようとした。また、アジア主義を唱え、のちにA級戦犯として起訴された思想家・大川周明らの支持を受けるようになった。

(次ページへ続く)

コンラッド・ローソン

1975年、ノルウェー生まれ。
ノルウェー人の母と米国人の父を持ち、ノルウェー、スコットランドで育った。
米コロンビア大修士課程を経て、04年からハーバード大歴史学部博士課程に在籍。
この間、日本、中国、韓国に研究留学。5カ国語を話す。
アンドリュー・ゴードン同大教授のもとで執筆中の博士論文は、中国や韓国で戦中の対日協力者に対して行われた政治的報復を扱う。

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