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世界と日本を考える

[第13回]米国の大学街で国境を越えたネットワークをつくる
スイスハウスの試みに日本が学ぶべきこと

菅谷明子 Akiko Sugaya 在米ジャーナリスト

 

それを、スイス側のニーズと照らし合わせた上で、誰と誰を、どんなテーマで出会わせ、効果を最大化するために、どんなイベントを企画すべきかと、ローカルとグローバルの間で日々戦略を練るのである。
スイスで開発した技術をもとに、米国でのビジネスを始める動きを具体的にサポートすることもある。
医療関係機器を開発する、Aleva Neuroという会社のケースでは、厳選したスイス関係の起業家とベンチャーリーダー20人が集う夕べを企画。同社の最高経営責任者(CEO)と引き合わせ、ビジネスのコラボレーションに結びつけた。
米国とスイスの研究者の共同研究につながった例もあるという。
運営は、活動に柔軟性を持たせるために半官半民で行われ、スイスの金融機関が大口の資金提供をし、プロジェクトのスポンサーには、バイオ医療・IT企業、大学などアメリカの組織も名を連ねている。
ボストンでの成功を受けて、スイスハウスの拠点はシリコンバレー、シンガポール、上海、インドのバンガロールにまで広がっている。
ヨーロッパやアジア各国の関心も高く、ドイツは近くドイツ・サイエンス・ハウスの第1号をブラジルにオープンさせる計画だ。

「集合知」を使いこなす

スイスは日本と同様、天然資源に恵まれず、教育に力を入れてきたが、近年「頭脳流出」が問題になっていた。それを「頭脳循環」ととらえ直した発想が、スイスハウスに結実した。優秀なスイスの人材が世界に点在し、彼らが世界とつながることが、やがてはスイスを知のネットワークのハブに導くと考えたのだ。
「21世紀に重要なのは、国の相対的なパワーではなく、いかにグローバルなネットワークを構築し、その中心に身を置くことができるかだ」。プリンストン大公共国際問題大学院のアンマリー・スローター院長は今年初めに有力外交誌でこう指摘した。
日本でも、科学技術政策やビジネス振興などの垣根を越えて、世界の要所で国境を越えたネットワーク作りを支援する柔軟性を持った仕組みをつくることが、今まさに求められている。
同時に、個人のマインドセット(ものの考え方)を大きく変えていく必要もある。
スイスハウスがうまく機能している要因は、スタッフの努力だけではない。そこに集う人々のネットワーキングに対する意欲や、相手を引き込む高いコミュニケーション能力にもあるからだ。
ギブ・アンド・テークが基本の欧米社会では、ギブする価値のあるアイデアや知見を、相手の価値観に合わせてわかりやすく「翻訳」する力が不可欠になる。いくら素晴らしい出会いの機会が与えられても、双方にとって価値のある濃密な知の触発を生み出す力がなければ、ギブ・アンド・テークも、そしてその先のネットワーキングも起こらないのである。
日本にも優秀な人材は数多いが、とりわけグローバルな舞台では、自分の考えを明快に表現しお互いにメリットをもたらす人間関係を作り上げていく能力が、常に大きな課題になっている。その克服のためには、若いうちから他者と創造的な議論をし、協同して新しい考えを生み出し、それをチームの力に結集して実現する能力を徹底的に鍛える学習環境と経験が不可欠である。
これからの時代は、個人が持つ知識量ではなく、キーパーソンをつなぐネットワーキングによる「集合知」をいかに自分の知(脳)の拡張として使いこなせるかが鍵になる。
ネットワーキングの重要性をいち早く理解し、実践を重ねてきたスイスハウスの事例は、国際社会における日本のあり方を示しているだけでなく、国際人となるために必要な、日本人一人ひとりの意識改革を促しているものと、読み解くことができる。

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