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世界と日本を考える

[第10回]一票の格差をなくし、日本を民主主義国家に変える「簡単な方法」

升永英俊 Hidetoshi Masunaga 弁護士

米国で弁護士修業をしていた時代、最も驚いたことの一つは、大統領が指名した最高裁判事候補を議会が承認するかどうかを巡り、その候補がかかわった判決の内容や、保守かリベラルかなどの情報をマスコミが国民に向けて大量に流し続けることだった。
最近も、スーター判事がオバマ大統領に辞意を伝えたニュースは、新聞の1面を飾り、後任が注目されている。

升永英俊氏

米国民が大きな関心を寄せるのは、最高裁が憲法違反を理由として法律を無効にできる強大な権限を持つことをよく知っているからだ。
米連邦最高裁は1964年、黒人が多く住む選挙区の1票と白人が多く住む選挙区の1票に格差を設けていたアラバマ州の選挙法を、違憲、無効とした。
この判決で、米国人は、白人か黒人かや、どこに住んでいるかを問わず、一人一票の選挙権を得た。判決に“People, not land or trees or pastures,vote.”(投票するのは、土地でも木でも牧草地でもなく、人々である)という一文がある。私は、この一文に感動した。
独立戦争を経て民主主義を勝ち取った米国ですら、一票の格差の問題を立法ではなく、司法が解決した。この事実は、司法が果たさなければならない重い使命を雄弁に物語っている。
アラバマ州と日本の選挙法を単純に同一視はできないが、日本には、一票の格差の問題が今もある。一つには、違憲立法審査権を持つ最高裁が、公職選挙法を違憲、無効としないからだ。
衆院選では、ある地方の有権者が1人あたり1票の価値のある選挙権を持つのに、ある都市の有権者は1人あたり1票に満たない価値の選挙権しか持たない事態が生じている。

議論を単純化して、日本の人口を100人、うち地方が45人、都市は55人としよう。
地方の有権者は1人1票、都市は1人0.8票を持つとする。すると地方は計45票、都市は計44票になる。1票が1人の国会議員を意味し、議員総数を89人とすると、地方住民は45人の議員を、都市住民は44人の議員を選出することになる。
つまり、全有権者の過半数に達しない地方の有権者が選んだ議員が、国会で多数を占めることになる。
国会での多数決は、有権者のレベルでは「少数決」だということになる。
民主主義とは、有権者のレベルでの多数決で立法され、日本では首相が決まることである。とすると、有権者レベルの少数決で立法をし、行政府の長(首相)を決定している日本は、民主主義国家ではない。

(次頁に続く)

升永英俊氏の略歴

1942年生まれ。 65年に東大法学部卒。 銀行勤務を経て東大工学部も卒業。
73年弁護士に。 79年米コロンビア大ロースクール修了。 首都ワシントン弁護士、 ニューヨーク州弁護士の資格も取得。 青色発光ダイオード訴訟の原告側代理人など、 特許訴訟や税務訴訟で活躍。
TMI総合法律事務所パートナーを務める。

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