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世界と日本を考える

[第5回] 歴史の「重み」に縛られる日米

壮大なレトリックより小さくても効果的な政策を

米連邦議会でのオバマの景気対策法案に対する抵抗は、下院の共和党議員は一人も賛成しなかったという党派性と同時に、深い政治信条がかかわっていたことから、その歴史の重みが明らかになった。歴史的事実として、米国では民間セクターが経済で主要な役割を果たすべきだとされ、民主党員を含む大半のアメリカ人はそれでいいのだと考えている。政府への不信と民間主導への信仰という点で、米国は極端な例だろうが、たとえ危機のさなかにあっても、その歴史的習慣を変えようとはしないようだ。

一方、日本には日本で、動揺をともなう変化よりも社会的安定を好むという独自の歴史の重さがある。これが日本の90年代の景気後退への対応が、米国にとって最小限の教訓しかもたらさない理由の一つだ。早い景気回復に向けて、米国政府は「失われた10年」の間に日本が受け入れる覚悟があった以上の多量の失業者と社会的な激変が起こることを容認するだろう。長くゆっくりとしか進まない自民党支配の終焉(しゅう・えん)が示すように、日本の歴史パターンは過激な変化よりも、漸進的な変革を求むという傾向がある。小泉元首相による改革への強力な呼びかけですら、いつもの日本の速度以上で歴史が進むことはなかった。

試行錯誤から学ぶ

  • 日米関係の歴史的なパターンは、長い間、二国間主義の視野狭窄(きょう・さく)と非対称性に悩まされてきた。常に、「パートナーシップ」が語られるが、米国は日本を指導することを好み、日本は、時に不本意でもそれに従っていく。米国の識者は、国際的な役割を果たすことに二の足を踏む日本の「受動性」について不満をもらし、日本側は米国による軽視に神経過敏になる。もしクリントン国務長官が日本ではなく、中国をアジア歴訪の最初の訪問地としたら、そうした感情は噴出したに違いない。両国ともに過去の習慣に縛られているのだ。

  • だから、歴史の重みに逆行する根本的な変化をもたらすような政策を提案することは、ほとんど意味をなさなくなる。例えば、米国の政治と経済がこの4年でスウェーデンのような福祉国家に変わることはまず考えられまい。同様に、日本が米国の対外政策に呼応して積極的な軍事的役割を果たすこともないだろう。

  • では何が出来るか。歴史に逆らうのではなく、歴史の動く方向にむけて積極的に働くことである。それは過去を指針にするということではない。時代が変わったため、大恐慌は現在の経済危機に対しては適切な政策を示さない。けれども私たちは、試行錯誤を繰り返してきた歴史から学ぶことができる。

  • 世界の指導者としてふるまう習慣が米国にあるのならば、以前ほど傲慢(ごう・まん)でなく、その「スマート・パワー」をもって国際関係を促進させ、自国の経済をもっと効果的に運営させてはどうか。日本が世界でより重要な地位を占めたいと望むのなら、気候変化、開発援助、そしてアジア経済にかかわる政策を、日本が好む歴史的な習慣に反しないようなかたちで日本の国際的利益を推進させてはどうだろう。

  • 日米関係は今、戦後期のどの時点に比べても、かつてないほど強く、そして平等だといえる。私はこの発言に日本人が同意するとは思わないが、これがまさしくオバマ政権と米国民の持っている見方なのだ。「米政府は日本への配慮や心遣いが足りない」と不満を漏らすことは、確固とした同盟関係とは、米国と英国の関係のように常態になるのだという事実を見逃すことにほかならない。二国関係を基礎としながら、それを多国間のグローバルな観点に広げていくことが求められていることに目をふさがせることにもなるだろう。

集団的利益に専念を

歴史はかつて以上に強い日米関係に向けて動いているのだから、それぞれの政治論争に近づきすぎるような、例えば、日本における拉致問題、そして米国における保護主義といった問題を当面は注意深く避け、地域とグローバルな集団的利益に可能な限り専念することに、両国のエネルギーを注いだほうがいい。北朝鮮の核問題についての6者協議が手始めの舞台であろう。

時代は大股ではなく確かで着実な歩幅を、壮大で誇張されたレトリックではなく、小さくても効果的な政策を求めている。国連の構造を改革するよりも、グローバル金融危機を解決する一歩を踏み出すのが賢明だ。新しい京都議定書を公表するよりも、具体的な二酸化炭素排出制限の多国間対策を協議する方がいい。
完璧(かん・ぺき)な答えを持った者など歴史上一人もいなかったのだ。歴史とは、最初に一つのことを試み、続けてもう一つのことを試みる人間によって造られるのだ。大切なのは最大の効果を生む方向に行動を起こすことだ。

 

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