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世界と日本を考える

[第3回] ダボス会議からの報告
ここは世界のアジェンダ設定の「闘技場」だ。
ソフトパワーとは物語の力である

去年のスターは、グーグルのCEO、エリック・シュミットだったか。シュミットを含むあるパネルで、司会者が出席者全員に聞いた。
「あなたはいくつケータイを持ち歩いていますか」
「四つ」と答えたのが、シュミットと中国人出席者だった。他の人々はみな「二つ」。
今年も、引っ張りだこだ。ただ、グリーン・ニューディールの伝道師の顔が前面に出ていた。インターネットも元は国防総省が開発した。同じように太陽発電も政府主導で開発するべきだ、とオバマ政権をせっついている。

非公式会合の愉悦

公式行事とは別に、社交の形を取った非公式会合がダボスのホテルやレストランで毎日、何百と開かれている。濃密なネットワークはむしろこちらの場で行われる。
去年に続いて今年もお招き頂いたこの種の会合の一つが、米ニューズウィーク誌主催の昼食会である。シモン・ペレス・イスラエル大統領やフェイスブックの創設者のマーク・ザッカーバーグは去年に続いて、顔を見せた。
これは去年のことだが、中東専門の元米政府高官とテーブルで隣り合わせになった。彼は、ペレスとライバルだった故イツハク・ラビンを比較した。

「ペレスはイスラエル以外で人気がある。ラビンは死んだがイスラエルではいまなお圧倒的な人気だ。いずれもパレスチナとの平和共存を望んだ。しかし、ラビンがためらいがちに平和構築を目指したのに対して、ペレスはそれに夢中になった。そこが違う。国民は、和平が必要と思っていても、和平に熱中する指導者は警戒する」
ダボスに来てよかったなあ、としみじみと思うのは、こうした会話に浸ったときである。

今年のパネルは例年にも増して盛りだくさん。その数、230近い。
「世界は消費減退の米国と共存できるか」「ワシントン・コンセンサスの死」「中印日 アジアのビッグスリー」「電気自動車を待ちかまえる難問」「不確実性の時代における“怯(おび)え”(の力)」
世界のもっとも不確実なところはどこか、そして世界へのインパクトがもっとも大きいテーマは何か。その二つの要素を勘案して、パネルは決まる。
ダボス会議は、その年の世界のアジェンダ(課題)設定の場なのである。

まずは外より内である

日本の首相では、森喜朗首相が01年に出席したのが最初だ。去年は福田康夫首相が演説し、質疑応答で夏のG8での温暖化戦略の方向を聞かれた。
「各首脳のご意見をよくたまわり、それを踏まえつつ検討して参ります」
そんな返答だった。
「まるで国会答弁だなあ」
そう思ったのは私だけではなかっただろう。演説は温暖化対策の取り組みをはじめ、内容があっただけに、惜しかった。せっかくの機会、アジェンダ設定にもっと貪欲(どんよく)であって欲しかった。

会議主催者側は、各国首脳たちがダボス会議で新たな政策を打ち上げるための“触媒”を心がけているようだ。各国政府は、それを世界に知ってもらうための公開外交のアリーナと心得るべきなのだ。首脳たちはダボスという知的格闘技のコロシアムで、アジェンダ設定をめぐって死闘を繰り広げるグラディエーター(剣士)の役回りである。今年は麻生太郎首相はじめ40人以上の首脳が乗り込んだ。
それにしても、開発問題のパネルに日本人の専門家の姿が見えないのは寂しい。太陽エネルギー、気候変動、水、教育、市場・企業と倫理・・・・・・日本が世界に伝えたい物語はたくさんあるのに、語り部が少ない。日本発の理念と経験と政策方向を伝えるまたとない場である。ジョセフ・ナイが言うように、ソフトパワーとは畢竟(ひっきょう)、「アジェンダ設定」の力であり、「物語」の力なのだから。    

やはり、英語の壁?
「いや、ダボス会議が仮に日本語で行われたとしても、日本人は有力国のなかで一番出席者が少ないのでは」
そんな冗談めかした会話がダボス会議事務局界隈(かいわい)では聞かれるという。
まずは、外より内である。日本国内で世界と日本のアジェンダ設定のための構想と政策をめぐって議論を活発にすることだ。知的格闘技を磨くことだ。そうした言葉と議論の場と、そこから生まれるネットワークと政治過程を「公」と呼ぶのではなかったか。日本社会における「公」からの退場が、世界からの退場をもたらしているように思えてならない。

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