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シリコンバレーでは2007年秋あたりからクラウド・コンピューティングが注目を集め、いまでは米国全体にブームが広がっている。日本でも、昨年あたりからブームが始まった。専門家からは「パソコンやインターネットの登場とおなじ大きな転換点となる」との声も聞こえてくる。とはいえ、クラウド・コンピューティングとはなにか――と問うと、じつは様々な答えが返ってくる。

よく耳にするのは「ソフトウエアのインストールやセキュリティー設定などの面倒な作業は“雲(クラウド)”の向こうにまかせて、自由にパソコンを楽しむこと」というグーグル社のエリック・シュミット会長が口にする言葉だ。ここで言う「雲」がクラウド・コンピューティングというわけだ。
事実、ソフトウエアを買わなくても、グーグルのホームページにいけばワープロやメールが利用でき、もっとむずかしいネット電話や機械翻訳といったことまで簡単にできてしまう。しかも作った文章や図版は「ほかの人といつでも共有できる」点で、既存のソフトウエアよりも優れている。
私たちが日頃使っているパソコンは、どんどん複雑になり、素人には扱いづらい機械になってしまった。そのわずらわしさから解放してくれるのはありがたいことだ。しかし、この解説はクラウドをパソコンのソフトウエアだけから見ているといえるだろう。
一方、米国でも日本でも大手コンピューターメーカーは「クラウドで大幅なコストカットができます」と企業に売り込んでいる。クラウドは、企業が使う高性能コンピューター(サーバー)やソフトウエアの数を減らせる可能性があり、うまくやれば経費の大幅削減が期待できるというのだ。これもクラウドの特徴をよくあらわした説明だが、ハードウエア、特に「仮想化データセンター」に着目した解説といえる。

雲の向こうでは、専用の「データセンター」にサーバーが何万台も設置され、その巨大なコンピューター群が、ユーザーに様々なサービスを提供している。じつはこのサービスは、それぞれのユーザーからはまるで専用コンピューターを使っているようにみえるが、実際は「仮想化(バーチャライゼーション)」という技術を使って、無駄がでないようにしているのだ。
また、クラウド時代になれば、自宅のDVR(デジタル・ビデオ・レコーダー)で録画した映像を携帯電話で見たり、デジタルカメラで撮った写真をそのままウェブに保存して楽しんだりできる。将来、携帯電話や手のひらパソコンで立体(3D)ビデオを見たり、カメラで撮った風景写真から場所や建物を検索したりする夢のようなサービスも実現されるだろう。これはクラウド・デバイスとか、クラウド・ビジュアル・コンピューティングと呼ばれる分野で、コンピューターと通信、特にモバイル端末との融合サービスを指している。これもクラウドの重要な特徴といえるだろう。
ここまで説明したようにクラウド・コンピューティングは「使いやすいパソコン」「企業情報システムのコストダウン」「どこでも使えるモバイルサービス」といった特徴をもち、それぞれに大きな価値がある。だが、こうした利点はクラウド以外の方法でも実現できる。では、なぜクラウドが注目を集めるのだろうか。
その理由を説明するために、少し話の角度を変えてみよう。
(次ページへ続く)
1956年生まれ。
米国のインターネット、通信業界を専門とするジャーナリスト・リサーチャー。「小池良次のシリコンバレー情報通信」などのブログを連載中。サンフランシスコ郊外在住。早稲田大学非常勤講師、早大IT戦略研究所客員研究員、国際大学グローコム・フェロー。著書に『第二世代B2B』『クラウド』(いずれもインプレス社)など。