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メディア最前線

[第7回] 大きすぎるBBC、終わりの始まり?
「聖域」テレビ・ライセンス料体制にメスが入る

小林恭子 Ginko Kobayashi ブロガー&ジャーナリスト

 

景気が右肩上がりの時代には、各民放局は視聴率が上がる番組を作りさえすれば、広告収入増が期待でき、これを次の番組制作にあてることができた。しかし、多チャンネル放送の普及、国民の視聴習慣の変化、広告主のネットへの移動で、視聴率に頼る経営モデルが先細りになった。昨年来の金融危機で広告収入が激減した民放各社の困窮で、BBCの一人勝ちがことさら目立つようになった。

株価が過去5年で80%以上下落したITVは、公共放送枠で必須となる地方ニュース制作からの撤退を一時視野に入れた。制作費がかかる割には広告収入に結びつかないためだ。地方局の集合体をルーツとするITVにとって、存在の核心に触れる動きだが、「とにかくお金がない」(ITVのあるプロデューサー談)のだ。

「デジタル・ブリテン」の衝撃

6月16日、英政府は将来のデジタル政策をまとめた「デジタル・ブリテン」と題する200余ページの白書を発表した。画期的だったのは、BBCが独占してきたライセンス料制度に初めてメスを入れる可能性を明言したことだ。

多メディア対応が進むBBCの最新スタジオ=AP

英国のテレビは2012年に完全デジタル化する。そこで白書が提言したのは、デジタル化支援関連予算としてBBCが計上してきたライセンス収入の3.5%相当額(年間約1.3億ポンド)を、他局で放映する地方ニュースの制作に回す、というもの。制作自体は、放送、新聞、通信社が参加する、新設の「独立コンソーシアム」が手がける。

地方ニュースの窮状打開の一手だが、ライセンス料体制瓦解の恐れに、BBC経営陣らは「絶対に受け入れられない」「番組の質に影響が出る」と猛反対の姿勢を見せた。

BBCは、不景気感を増す国民にとっても、何やら傲慢で、金遣いがあらいメディアに映る。
7月14日、年次報告書発表の日、マイケル・ライオンズBBCトラスト委員長は「経営陣の賞与の半永久的凍結」を宣言した。BBCトラストは視聴者を代表してBBCの活動を検証する組織だ。さすがに「この不景気下、(巨額賞与を与えていては)視聴者の支持が得られない」との判断だった。

しかし、これぐらいでは視聴者の共感は得られない。何しろ情報公開法を通じて6月末に表面化したBBC経営陣の給与と経費使用の詳細は庶民の感覚からは程遠いものだったからだ。現在の年間所得が83万4000ポンドに上るマーク・トンプソンBBC会長は、昨年、イタリア・シチリア島で休暇中、BBC内で起きたスキャンダル処理のため、急きょ帰国したが、その費用約2200ポンドを経費として計上していた。BBCビジョン(テレビ部門)のトップ、ジャナ・ベネット氏は勤務中にバッグを紛失し、500ポンドの支払いをBBCに要求していた(後に保険会社が支払い)。

ライセンス料の見直しをうたう「デジタル・ブリテン」

英国民は自分が投資した金額のコストパフォーマンスにこだわる。自分が払ったライセンス料(カラーテレビで年間142.50ポンド)が誰かのバッグ代や休暇の後始末に使われるのはたまらない。
一部のタレントへの高額年俸契約も国民の側からすれば、不愉快きわまる現象だった。経営陣らは「優れた才能にはそれ相当の金額を払わないと、他局に逃げられてしまう」と弁護してきた。しかし、現状では、さらなる高額契約を提示できるほどの放送局は英国にはほぼ皆無だ。 

政府は、9月下旬まで、公共放送の要となるニュースが「多様な視点」を維持するためには、BBC以外の地方ニュース制作の資金源をどこに求めたらいいか、国民に意見を募っている。
意見募集の文書には、「テレビ・ライセンス料は『BBCの』ライセンス料ではない」とあり、政府案として、先の白書にあった、ライセンス料の一部を使う方式が盛り込まれている。この政府案でまとまれば、来年から、スコットランド、ウェールズ、イングランド地方でコンソーシアムによるニュース制作が試験的に始まる。BBCには逃げ道がなくなりつつある。

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