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敬虔な信者を口説くハリウッド

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大統領選中にラスベガスの教会で牧師らと祈るトランプ氏

“Secular Hollywood Quietly Courts the Faithful”

20161224日付、ニューヨーク・タイムズ紙

 

この記事は、ハリウッドの映画業界がキリスト教のthe faithful(熱心な信者)に目をつけたマーケティングを紹介したものだ。ハリウッドは、materialism(実利主義)が支配するloose morals(ふしだら)な場所で、スクリーンの中も外もセックスや麻薬がcelebrated(称賛されている)と見られているから、その意外な組み合わせが見出しにうたわれた。

記事の背景には、面白い映画をつくれば人々が映画館に足を運んでくれるのはtake for granted(当たり前のことである)とはいえない現実がある。北米の人口は増加しているのに観客動員数は伸びないうえ、若年層の映画人口が3年連続で減り続けているデータが紹介されている。

そこに追い打ちをかけたのが、先の大統領選挙だ。大物俳優がこぞって支持したヒラリー・クリントンの敗北で、ハリウッドは、米国で多数派となった人々の気持ちにout of touch(疎い)という危機感を募らせた。ドナルド・トランプの票田になったとされるflyoverstate(飛行機で上空を通過する米中部の州)の人々の関心を引くための戦略でもあるというのが筆者の見立てだ。

米国ではthe faithfulが人口に占める割合は大きく、たとえばevangelicals(福音主義キリスト教徒)だけで約9000万人を数える。口説く相手は、多くの信者を抱える大規模な教会の聖職者やSNSでフォロワー数の多いリーダー格の聖職者たちだ。pastors(牧師)のcongregation(集まり)で、作品の良い所をextoll(褒めて)もらうのだ。公にする映画会社はないが、この分野のマーケティングを専門とするPR会社を雇っているのは公然の事実。influential(影響力の大きい)牧師を撮影現場に招いて接待することもあるという。

教会関係者に宣伝する映画は宗教をテーマにしたものに限らない。全米で今月公開された「Hidden Figures」は、1960年代のNASA(米航空宇宙局)を支えたunsung(陰の)英雄として数学者の黒人女性を描いた物語で、宗教的なメッセージを込めたものではない。しかし、この映画のtrailer(予告編)を使って有意義な神学論争が可能だと1000人以上のpastorsに話をする教会リーダーの姿が記事の冒頭で紹介されている。

宗教界も例外なくマーケティングの対象となるところにアメリカらしさがうかがえて、なるほどと言える記事ではないだろうか。