いま、あなたを待っているこどもたちがいます。「いつか」を「いま」に。いま、里親になろう!広げよう「里親」の輪
「たくさんの人が支えてくれる 里親への一歩、自信をもって踏み出して」
愛犬「きなこ」と一緒に取材に応じてくれた平野隼人さん。後ろの棚にはこども用にそろえたおもちゃが並んでいる

「たくさんの人が支えてくれる 里親への一歩、自信をもって踏み出して」

声優・俳優の平野隼人さんは昨年7月に夫婦で里親認定を受け、養育里親として短期委託でこれまで5回ほどこどもを預かってきました。自身も特別養子縁組の家庭で育ち、ごく当たり前のように里親を目指したといいますが、実際に一歩を踏み出すまではいくつものハードルがあったはずです。「多様性の世の中で、里親制度がごく自然に存在することをねがっています」と話す平野さんに、これまでの経緯を聞きました。

「里親になりたい!」夫婦で前に進んでいった

平野隼人さん

明るい日差しが差し込むマンションの一室。広いリビングルームにはジョイントマット、棚には絵本や幼児用のおもちゃ。そこにはこどもがいる家庭の風景が広がっていました。
「このマットは愛犬『きなこ』のために敷いたのですが、里親をする今となっては、預かるこどもたちにとっても安心ですね。活発な子、おとなしい子、いろいろな子がやってくるので、毎回ワクワクして待っています」
そう平野さんは笑顔で話します。とにかく預かる子が可愛くて仕方なく、その子の年齢に合わせて新たにおもちゃを買おうとする平野さんに対し「落ち着いて、ちょっと待って」と止めるのは妻。夫婦でいいバランスを保ちつつ、こどもを迎える準備に余念がありません。

平野さん夫妻が里親になることを話し合いはじめたのはまだ結婚する前でした。
「以前から僕が里親になりたいと話していたので、妻も妻の両親も即座に賛成してくれました。こどもがいなかったので、夫婦が選ぶ選択肢の一つとして自然な流れでした。結婚後ほどなくして、僕のほうから里親になろうという提案をしました」

平野さんは、2歳頃から特別養子縁組で、養子として今の両親のもとで育ちました。成人した現在でも幼稚園のときに描いた絵が廊下に飾られているような家庭で、平野さんの心の中には、大切に育てられたことを物語るエピソードがたくさん残っています。

「僕自身、両親との血縁や関係をあまり深く考えたことはなかったですね。こどもの頃は普通に一緒にご飯を食べて、遊んで、悪いことをすれば怒られて、良いことをすれば褒めてくれた。ごく一般的な家庭でした」

その様子を見てきた妻は「ご両親が隼人さんを大事に育ててくれたので、血縁がなくても私たちもこどもを育てられる」と自信を持ったといいます。夫に言い出されてから里親実現に向けて、夫婦でどんどん前へ進んでいったそうです。

「妻が一緒に里親になろうと言ってくれたことで、ふたりで同じ未来を見られる。これが里親実現への大きな一歩になったと思います」

里親を決意したときに夫妻が頼ったのは、先輩でもある平野さんの両親です。「困っているこどもたちのために何かをしたい、里親になりたい」と相談したところ、すぐに「児童相談所に相談しなさい」とアドバイスされました。両親が養親になってからは年月が経っていたため、こどもを迎え入れる方法も当時とは違っていました。すぐにインターネットで「里親」を検索しましたが、自分たちで調べるには限界があることが分かり、そこで助言通り児童相談所に「すぐに話をうかがいたい」と電話をしたといいます。

「最短でいつ行ったらいいですか、と聞いて(笑)、早く里親になりたくてたまらなく、話を一刻も早く進めていきたかった感じです。夫婦で座学を受け、乳児院で研修も受講しました」
その後、児童相談所による家庭訪問で家の様子の調査などを経て、数カ月後に里親認定を受けました。

平野隼人さん

研修中は、夫婦で一緒のときもあれば、個々に違うことをやるときもあります。帰宅してから、夜遅くまで内容をおさらいするように、二人で話しました。
「抱っこしたけれど、落としそうで怖かった」
「初めて沐浴したんだけど、赤ちゃんの脇のしわって意外と深くて、洗うの大変だった」
「食べるのが嫌いな子には、どうやって食事をあげたの」
「ミルクをあげるときの頭の角度って難しいね」

先輩里親との交流は研修中から始まりました。当時は新型コロナウイルスが蔓延していたときだったので、オンラインでミーティングしました。直接会っての話し合いの場もありました。「何かあったらいつでも相談してください。いつでもかまいません」と声をかけてくれたといいます。

「あまり不安はなく、こちらから相談することはなかったのですが、里親は横のつながりが強いので、心強いサポートがありました」

短期預かりの女の子が風邪に……心強かった先輩里親のLINE

平野隼人さん

認定が下りてすぐ、2歳半の女の子を1週間ほど預かりました。平野さん夫妻にとっては初めての短期委託で緊張しましたが、女の子もまた緊張していました。まだ話ができないため、身振りや手振りでコミュニケーションを取りますが、なかなかうまくいきません。でも、そのうちだんだん慣れていき、その子に合わせて、気長に構えることを知ったといいます。

「乳児院での研修ではミルクを飲んでいる子が多かったのですが、大人と同じものを食べられる年齢です。何を食べられるのか、何が苦手なのか。児童相談所がリストアップしてくれたリストに基づいて料理し、一緒に食べました。食事面では一切不安はなかったです」

たまたまそのとき、女の子は風邪をひいていて、夫妻は病院に連れて行ったほうがいいのか悩みました。すぐに児童相談所に判断をあおぎ、病院へ。そのときにも先輩里親が、「何かあったら電話でもLINEでもいいので連絡して」と気遣ってくれました。平野さんは「それが本当に心強かった」と振り返ります。

その後も何度か委託を受けて、これまでその女の子は3回、平野家にやってきています。

「ワンコがいる家という認識みたいで、我が家に来ると犬と一緒に遊んでいます。来るたびにおしゃべりがどんどんできるようになっていて、こどもの成長には目を見張りますが、こちらは見ていて嬉しいです」

公園に行き遊び、買い物にも連れていく。一緒に出かける機会も増えてきて、図書館にも行き、好きな本も一緒に選びました。
声優の平野さん、読み聞かせは得意です。

「本を選ぶのが好きだったみたいで、でも実際に読むときになったら飽きちゃって(笑)。本読みは次回にお預けですね。夜は妻と挟んで川の字で寝ています。

4歳の男の子も、短期委託でやってきました。お風呂は女の子の場合は妻が、男の子の場合は平野さんが担当します。その男の子は活発で、お風呂でもプールのようにバシャバシャはしゃぐそうです。
「自分もこどもの頃、こんな感じだったなあと記憶がよみがえりました。あの時、自分の父親はどうしていたかを思い、その子に合った接し方をしなければいけないのだと、今になって学んだ気がしました」

現在、平野さん夫妻は長期委託に向けて、2歳の女の子とマッチングを始めています。最近は施設から家庭での交流に切り替わり、平野家で過ごす時間が増えてきました。最初のうちは緊張して動かなかった女の子ですが、今では犬とも遊び、「あのおもちゃで遊びたい」とリクエストするようになったそうです。

「彼女が帰った後で妻と『今日はよく笑ったね』『最初はちょっと不機嫌だったね』などと話し合います。話し合ったことを次回の交流で乳児院の職員さんに話して、答え合わせをしてもらいます。情報を共有して、その子との距離がもっともっと近くなれたらいいと思っています」

これまで短期委託の子を預かってきた平野さん。「こどもがいる普通の家庭は、こんなに大変なんだと思ったが、育てられるかなという不安はなかった」と話します。

こどもを迎えるにあたって、経済面も含めて不安に感じる里親希望者もいます。平野さん自身は家族が増える前提で準備をしてきましたが、里親委託に当たって支給される手当もあり、経済面でもバックアップがあります。
「長期委託に関して、児相の職員さん、乳児院の職員さん、里親支援機関とカンファレンスがあったのですが、その数は全員で7人。僕たちの家庭のために、こどものためにこれだけたくさんの方が力を貸してくれている。それを思っただけで感謝ですよ。だからこそ悩みがあれば、すぐに相談するのがいいと思います」

やりたいことや可能性、全力で応援したい

平野隼人さん

妻にも「隼人さんは自己肯定感が高く、ポジティブ」と称される平野さん。幼少期から両親に大切に育てられた人の多くは自己肯定感が高く、それは里親に委託されるこどもでも同じだと平野さんは感じています。 平野さんの両親は、平野さんがやりたいことをやらせ、才能を開花させてくれたそうです。

「キャンプにも連れて行ってもらったし、大好きな水泳を3歳から続けて、高校では水泳部に入って県大会で三連覇できました。思う存分やらせてくれたので、今の僕があるのではないかと思います。ですから、うちに来た子にも自分のやりたいことを見つけ、自分の可能性を広げていってほしい。それを全力で応援できるような里親になりたいと思っています」

平野さんが今回このインタビュー取材を受けたのは、里親制度の認知がまだまだ少なく、潜在的に希望する家庭はあっても、実際は増えていかない現状をなんとかしたいという思いがあったからです。
里親が増え、こどもたちの環境がさらに良くなるように行動したい。多様性の世の中で里親制度がこどものために普通に存在する社会になるように。それが平野さんの願いだといいます。

「里親になることで不安になることは一切ありません。まずは児童相談所に電話してみて、そこからちょっと違うなと思ったら、また夫婦でよく話し合ってみるのがいいと思います。研修受けてみようかな、認定取ろうかなと思った方は、そのまま前に進んで、自信をもって里親になってください。不安になったら児相や先輩里親さんがサポートしてくれます」

平野隼人さん
平野隼人さん

ひらの・はやと/青森県出身。声優・俳優として多くのアニメーションやゲーム、ドラマなどに出演。特技はこどもの頃から習っていた水泳。2022年に夫婦で里親認定を受けた。


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