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世界の食を訪ねて

愛するがゆえに湧く嫌悪 レストランへの複雑な心

[第18回]マイケル・ブースの世界を食べる

愛が嫌悪に変わるとき


当然、イラッとくることもある。冗長すぎるメニュー、チップの算段(日本では心配無用だが)、もはやこちらを気にかけていない厨房(ちゅうぼう)から繰り出される料理……。何よりも、才能に恵まれながら挑戦を諦め、平均点どまりに落ち着いたシェフは最悪だ。少なくとも果敢に挑戦して失敗に終わったおいしくない料理にさえ、語るべき何かがある(それと私が嫌でたまらないのがウェイターに「どうぞお楽しみください」と言われること。単に自分に限った歪んだ嫌悪感なのかもしれないが、もし差し支えなければ何かを楽しむかどうかは自分で決めさせてほしい)。


昨晩はアムステルダムにあるクールなレストランへ出かけ、レストランで食べることの良い点も悪い点もそれぞれ味わってきた。この「デ・カス」は、今話題の産地直送型レストランの一つだ。店は街の中心部に広がる公園脇の大きな温室の中にあって、料理で使うハーブや野菜をそこで育てている。今回はデザートが絶品で写真に残したが、ルッコラのペーストは毒のように苦く、子羊の焼き色はくすんでいた。店員には何度か「お楽しみください」と言われ、そのたびに歯を食いしばるはめになった。一方でかなり面白いオーガニックワインを置いていて、特にオランダ産のスパークリングワインが思いがけずおいしかった。エルダーフラワーの繊細な後味は、グラスの中に春が舞い込んだようだった。


誰もがソーシャルメディアの「ユーザー」「レビュアー」であるこのご時世、シェフやレストランを批評することはあまりにたやすい。多くの場合は、編集もフィルターも通すことなく、衝動のままにワンクリックで感情をはき出している。店の評判なんて、一瞬で永久に傷つけることができるのだ。しかし、料理人として修業を積み、パリの星つきレストランで働いた経験のおかげで、レストラン業界をこれまでとはまったく違う目で見られるようになった。最近ではどんな料理が運ばれてこようとも感謝、感激している。数々の計画や調整、身を粉にするような仕事ぶりが伝わってくるからだ。たとえ、店の料理がおいしくなかったとしても。


「デ・カス」についての否定的なことだけをネット上であげつらうこともできた。しかし実際には、私はまたあの店で食事をするだろう。なぜならレストランが犯し得る最悪の罪、「退屈」を免れているのだから。


(訳・菴原みなと)



Michael Booth

英国・サセックス生まれ。ジャーナリスト。著書に『英国一家、日本を食べる』(書籍、コミックとも亜紀書房)、『英国一家、フランスを食べる』(飛鳥新社)など。近著に、『限りなく完璧に近い人々―なぜ北欧の暮らしは世界一幸せなのか?』(KADOKAWA)など。近著に『ありのままのアンデルセン』(晶文社)。妻リスン、息子アスガーとエミルと共にデンマーク在住。

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