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世界の食を訪ねて

カンボジア人に寿司を売れ! 言葉を使わないコミュニケーションで好みを探れ!

もりぞおの『サムライカレー、世界を喰らう!』[第42回]



サムライカレープロジェクトでは、毎回カンボジアにやってきた大学生たちが、現地の顧客相手に思い思いのモノを売ります。


プノンペン市内の店をリサーチし、売るモノを決めるのですが、その方向性はまちまち。

「カンボジア人が好きなモノを」ということで、カンボジア料理に近いメニューにする場合もあれば、「自分たちは日本人だから」と、日本食を売ることもあります。


とあるチームは、寿司を売ることにしました。

もちろん、売るのは刺身をのせた寿司ではありません。(入手が大変、鮮度管理が大変、カンボジア人は普通生魚を食べない)

プノンペンでも比較的簡単に手に入る、カニかまやキュウリを使った巻き寿司です。


アメリカで寿司屋をやっていた人に助言をもらい、巻き寿司作りにチャレンジ。

外国人は黒い食べ物を不気味がるということで、海苔が全面に出ないようにする「裏巻き」という形でカンボジア人にも食べてもらうことにしました。


さて、試食会。

カンボジア人のみなさんの反応はどうでしょう?



「お・・・おいしいです・・・」


カンボジアの人たちは、基本スゴくいい人です。しかも、無料で出してもらった食べ物に対してきびしいことをいうのはなかなかしんどい。と、いうことで、口ではおいしいと言ってくれるのですが、明らかに表情はおいしいといっていません。

これでは、売るのは無理だ。


そこで、改善のための分析をすることになります。

食べている様子を見て分かることは、明らかに口に運ぶ前に嫌がっているということです。

つまり、味以前の問題。


まずは、見た目。

カンボジア人にとって、カニかまはあまり見慣れない食べ物です。そして、あまり新しい食べ物には積極的にチャレンジしたいと思わない人が多数派です。

「寿司」は、ごはんが巻かれているという奇妙な形態に加え、謎の食べ物が入っているので、カンボジア人から警戒されてしまうのです。


そして、匂い。

決定的にイヤな顔をするのは、寿司を口に近づけたとき。

酢の匂いが引き金になっている事がわかります。


これを踏まえて「カンボジア人に受ける寿司」の仮説を立てます。


・カンボジア人がいつも目にしている食材を使えばいいのではないか?

・酢を入れる必要はないのではないか?


酢が入っていない時点で、日本人的には寿司ではないと思うのですが、我々がやりたいことは、日本の寿司を売ることではなく、カンボジアの人たちが喜ぶ食べ物を売ることです。

こだわりは、捨てよう。

そして、カンボジアの人たちが一番喜ぶ食材は何かを調査します。カンボジアのレストランで、一番受けている食材はなにか?


こうやってできた、サムライカレーオリジナルのサムライ寿司が、これです。



酢飯ではないご飯に、テリヤキソースで炒めた豚肉スライスを巻いてみました。

ここまでたどり着くにも、紆余曲折がありました。


酢飯バージョンと、普通のご飯バージョンを作り、どちらがおいしいかアンケートをとることで、仮説を検証します。その結果、酢なしの圧勝でした。


最初、日本の寿司くらいのサイズで作ったのですが、ちょっと食べにくそうにしています。特に女の子は、人前で口を開けるのに恥ずかしさがあるようです。そこで、大きさを半分にしました。


肉を巻いているので、当然手で食べると手がべとべとになります。とはいえ、いちいち箸で食べてもらうのもなんなので、あらかじめ楊枝を刺しておきました。


あ、うれしそうに食べてくれてる!



こうやって、試行錯誤を繰り返した結果がこの、謎のサムライ寿司。

さあ、カンボジア人には売れるのでしょうか?


ちょうど、この時、カンボジアのサッカースタジアムで大きな国際試合があり、ここで販売の許可をもらうことができました。

そこで、このサムライ寿司を、大々的に販売します。


結果は、200個完売!

反省点は、「もっと作っておけばもっと売れた!」


モノを売るときは、「自社の製品の良さを伝えて顧客を自社製品の方に引っ張ってくること」と、「顧客の意見を聞いて自社製品を顧客の好みに寄せていくこと」、この両方を行わなくてはなりません。


今回、サムライカレーのプログラムを受講した大学生チームは、徹底的に後者を実践し、カンボジアの人たちの心をつかむことができました。

これが、マーケティングであり、商品開発です。



学生のうちにこういう経験をしておくと、就活の時に仕事を選ぶ際に、自分のやりたいことが明確になります。

そして、自分は外国人とコミュニケーションを取り、心をつかむことができるという自信を身につけられるので、将来の選択肢が拡がるのです。



(次号に続く)



【筆者紹介】


森山たつを


早稲田大学理工学部、日本オラクル、日産自動車、ビジネスクラスで世界一周旅行などを経て、日本人が海外で働く方法を研究する「海外就職研究家」となる。


海外就職に関する書籍、記事などを執筆する傍ら、日本人が苦手としている「外国人とのコミュニケーション」「失敗前提でのチャレンジ」「リアルなビジネス」を体験する研修プログラム「サムライカレープロジェクト」を運営。カンボジア・プノンペンにあるカレー屋を使っての研修プログラムは、既に120人以上の卒業生を輩出している。


主な著書に「セカ就!世界で就職するという選択肢」(朝日出版)、「普通のサラリーマンのためのグローバル転職ガイド」(東洋経済新報社)などがある。


連載:もりぞおの『サムライカレー、世界を喰らう』

第1回:カンボジアでカレー屋を作ったら、カンボジア人がカレーが嫌いだということがわかりました

第2回:カンボジア人に「カレーを美味しくしてくれ」と頼んだら、彼女は練乳に手を伸ばした

第3回:カンボジア人が好きなカレーを作るために、カンボジア人の家に突入してみた

第4回:「当店の『たこやき』はイカを使用しております」―カンボジア水産事情

第5回:飲食店泣かせのカンボジア、物価は安いが、原価は高い」

第6回:1日10時間野外労働、時給は115円――カンボジアの屋台店主は生活できるのか?

第7回:アクエリアスは炭酸入り、スプライトは3倍甘い。そして、サムライドリンク!――カンボジア飲料事情

第8回:カンボジア人にモチは売れるのか?スイーツ突撃実態調査!

第9回:シーフードヌードルは、フィリピン人のおふくろの味?

第10回:マニュアル人間は希少人材!?創意工夫が店を滅ぼす!

第11回:世界最大のラーメンチェーン店は、熊本発のとんこつラーメンです

第12回:プノンペンのイオンモールで大人気なのは、回転しゃぶしゃぶ屋です

第13回:アジアの新興都市プノンペンで繰り広げられるチキンレース

第14回:インド人はナンを食べない!?―インドカレー事情

第15回:「草食系」の南インドではカレーも葉っぱにのってくる

第16回:「ファストフードが1時間半待ち!北京オリンピック会場食料事情」

第17回:ブラジルのファーストフード「YAKISOBA」は日系移民の歴史の足跡

第18回:「派手なのがお好き? カラフル過ぎるカンボジア色彩事情」

第19回:「カンボジアでマーケティング調査!プノンペンでわたあめは売れるのか?」

第20回:「カンボジアでわたあめ100本売る方法―モノを売るな、体験を売れ!」

第21回:「50円はOKでも75円はNG? プノンペンから揚げマーケティング講座」

第22回:「ご飯の国の人だから。おにぎりを買ってくれないカンボジア人」

第23回:「500円の食事は月に1度のごちそう!カンボジアの「ランチ相場」

第24回:「意外にエコ?フィリピン驚きの皿洗い事情」

第25回:「ウニは貧乏人の食べ物!? 世界じゃこれは、ゲテモノ料理!?」

第26回:「中華料理屋は世界のオアシスである。異論は認める」

第27回:「出張、サムライカレー!カンボジアのカレーを日本人に受けるようにカスタマイズしてみた!」

第28回:「カンボジアのカレーは福岡のサッカースタジアムで売れなかった! 顧客志向の大切さを改めて考える」

第29回:参入障壁の低さは過当競争を招く 激烈!カンボジアレストラン事情

第30回:東南アジアで食器を消毒する方法

第31回:あなたの訪れたインド料理屋の店員もネパール人かも

第32回:極私的 一番刺激的で、一番不味かった国、キューバ。

第33回:アジアの空港ラウンジに見る、「おもてなし」事情

第34回:ベトナム人に有名な日本人「ドレーモン」

第35回:年に3回お正月があるカンボジア。正月料理は、カレー?

第36回:極彩色が好きだけど、彩りは不要? カンボジア人の野菜の好み

第37回: 路上で豚の丸焼き、生バンドコンサート! カンボジアの結婚式は派手なんです!

第38回:カンボジアでも大人気? LINEのクマは神出鬼没

第39回:激烈! プノンペンコーヒー戦争!

第40回:時代はCafeもAmazon? 続・プノンペンコーヒ戦争!

第41回:カンボジアのバレンタインの主役は、クマ! チョコレートはどこへいった?

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