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世界の食を訪ねて

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極私的 一番刺激的で、一番不味かった国、キューバ。

もりぞおの『サムライカレー、世界を喰らう!』[第32回]




極私的 一番刺激的で、一番不味かった国、キューバ。


2016年11月28日、キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長が死去しました。

死去したカストロ前国家評議会議長を悼んで写真を掲げるハバナ市民=ロイター


このキューバという国、私に取って最も印象深い国であり、最も「不味い」国でした。


私は現在、カンボジアのプノンペンで、海外インターンシップの運営などをやっていますが、それ以前はサラリーマンをしながらよく世界各国を旅していました。

2008年から09年にかけては、会社を辞めてビジネスクラスで世界一周、なんてこともしており、訪れた国の数は50を超えています。


そんななか、よく聞かれる質問のひとつに、「一番ご飯がおいしかった国は?」「まずかった国は?」というのがあります。


おいしかった国は非常に難問です。

イタリア、スペイン、フランスの、ヨーロッパラテントップ3はもちろんですが、アルゼンチンの肉屋、台湾の小籠包、香港の天津、中国のアワビ、タイの蟹カレーなどなど、世界にはいろいろな美味しいものがあり、ひとつに決められるものではありません。


しかし「まずかった国は?」の方は即答できます。キューバです。

キューバは、アメリカのすぐ隣にある島国です。



1950年代には実質的にアメリカの植民地だったのですが、カストロやチェ・ゲバラらによるキューバ革命で独立を勝ち取ります。しかし、そのことで、アメリカの反発を買い、経済制裁のために、様々なものを輸入することが困難になりました。


農業を中心とした小さな島国であるため、工業製品は少なく、自動車を製造することはできません。街には、革命前からあった1950年代のアメリカ車が数多く走っており、国全体がタイムスリップしたような、不思議な国です。



これが、2008年の光景です。普通にクラシックカーや馬車が交通機関として使われているのです。


住人は貧しいながらも楽しく暮らしている人が多く、毎夜歌と踊りを楽しんでいます。キューバ音楽のクオリティーの高さは世界的に有名で、作家の村上龍など、キューバ音楽の強烈なファンも多数います。


暖かくて、歌と踊りを楽しむ人たちの料理が不味いわけがない、と思われがちですが、実際に行ってみると、その期待は大きく裏切られました。


私は、2週間の滞在で、現地人向けの屋台や、ホームステイした際の現地の人たちの食卓に上がる家庭料理、外国人向けのレストランから、高級リゾートの食事まで、様々な料理を食べたのですが、全てがそろいもそろって、無茶苦茶まずいのです。

これは、衝撃的でした。


例えば、高級そうな外国人向けのレストランでバカ(スペイン語でビーフ)を頼んでみます。


写真で見ただけでも分かると思いますが、肉が焼き過ぎです。

肉自体も、非常に硬い上に味がありません。

ご飯はなぜか赤飯です。(キューバでは5割以上の確率で赤飯がでます)

なにより、味付けが単調。っていうか、単にしょっぱいだけ。


ちなみに、写真の後ろに見えるピアノ弾きのじいさんも、キューバ人にしては珍しく恐ろしく演奏が下手で、中学生のピアノの練習かと思われる出来でした。

これで、8CUC(外貨と交換できる通貨)、当時のレートで日本円に換算して1000円くらいというのは、あんまりです……。


もしかしたら、レストランが悪かったのかもしれない!と思い直し、民宿やら地元民向けレストランやらでいろいろ食べてみました。


ビーフシチューのように見えますが、黒豆のスープ。塩味。








エビを焼いたものですが、塩味。エビの味がすべて塩にかき消されて、エビなんだかカニなんだか、ゴムなんだかよく分かりません。



結論。

とにかく、塩味。


しょっぱいんです。しょっぱすぎるんです。




スペイン料理の、魚介類からにじみ出るうまみ。

フランス料理の、元の素材が分からないほど複雑に絡み合った深み。

イタリア料理の、シンプルな素材からは信じられないほどのハーモニー。


その片鱗さえもキューバ料理には見つかりませんでした。無作為に結構な量を食べたのにこの有り様。ここは本当にラテンの国なのか!?


ちなみに、外国人用のレストランでこれなのですが、キューバ人用のピザの屋台などは、チーズが臭すぎて、それから1週間ぐらいはピザを食べたくなくなりました。


こうなってくると、いろんな味が恋しくなります。


キューバに来る前には、アメリカやメキシコを回っていました。日本では食べないフライドポテトも、アメリカをうろうろしていると日常的に食べることになり、この時には、ポテトにケチャップをつけて食べるのが大好物になっていました。

と、いうわけで、民宿の夕食で鳥と一緒にフレンチフライをあげているところを見て喜んだのですが、



「ごめん。ケチャップないんだ」

ちなみに、この鳥と芋。

「甘からず、辛からず、うまからず」

あまりにも味がしないので、結局塩胡椒でいただきました……。


そして、ついに発見した、ケチャップ付きの料理!

これは、屋台で売っている、キューバホットドッグです!



さっそく食してみると……ソーセージのしょっぱさにケチャップが負けているよ!

どんだけしょっぱいんだ、このソーセージ……。


アメリカの味の象徴、ケチャップにも勝るこのキューバの塩。

まさに最強のゲリラ塩、ゲバラ魂塩にあり。

そんななかで、唯一の好物が、町の立ち食いレストランとかにあるフルーツジュース。


なんのフルーツなんだかよくわからんけど、うまい!ちなみに、お値段は0.5ペソ(キューバ国内だけで通用する貨幣)で、当時のレートで1円くらいの価格でした。

そして、これを飲んでると、近くのキューバ人が寄ってきて、自分が食っているピーナツやらせんべいやらを分けてくれます。

この人の良さ。これが、これがキューバの最大の調味料です。


ま、ピーナツもせんべいも、やっぱりやたらとしょっぱいのが玉にきず、ですが。


キューバ人は、料理の才能だけはカリブ海に落としてしまったのでしょうか。キューバを旅行した日本人の体験をネットで拝見しても、やはり食事では苦労された方々が多数派のようです。


ただ、「特にまずいのは国営レストランで、近年は民間経営のおいしいレストランも増えている」との情報もあります。また、キューバ政府は14年に、国営レストラン約9000軒を民間に払い下げる計画を発表しています。もしかしたら、キューバが食事に関する汚名を返上し、「美食の国」へと変貌する日は近いのかもしれません。


さらに、15年には米国との国交が回復し、今年3月にはオバマ大統領がキューバを訪問。経済制裁も一部緩和され、ハリウッド映画のロケが始まるなど、急速に近代化(アメリカ化)が始まっています。


カストロ氏の死去は、さらなる変化を予感させますが、その一方で次期大統領のトランプ氏は、オバマ大統領の対キューバ融和路線を否定しています。

キューバの社会がどのように変わっていくのか、まだまだ先を見通せないのが現状です。


妙な言い方になってしまいますが、「何か変わった世界を見たい」、という人は、できるだけ早く、「変わる前のキューバ」に訪れてみることをおすすめします!



(次号に続く)



【筆者紹介】


森山たつを


早稲田大学理工学部、日本オラクル、日産自動車、ビジネスクラスで世界一周旅行などを経て、日本人が海外で働く方法を研究する「海外就職研究家」となる。


海外就職に関する書籍、記事などを執筆する傍ら、日本人が苦手としている「外国人とのコミュニケーション」「失敗前提でのチャレンジ」「リアルなビジネス」を体験する研修プログラム「サムライカレープロジェクト」(http://samuraicurry.com)を運営。カンボジア・プノンペンにあるカレー屋を使っての研修プログラムは、既に120人以上の卒業生を輩出している。


主な著書に「セカ就!世界で就職するという選択肢」(朝日出版)、「普通のサラリーマンのためのグローバル転職ガイド」(東洋経済新報社)などがある。


連載:もりぞおの『サムライカレー、世界を喰らう』

第1回:カンボジアでカレー屋を作ったら、カンボジア人がカレーが嫌いだということがわかりました

第2回:カンボジア人に「カレーを美味しくしてくれ」と頼んだら、彼女は練乳に手を伸ばした

第3回:カンボジア人が好きなカレーを作るために、カンボジア人の家に突入してみた

第4回:「当店の『たこやき』はイカを使用しております」―カンボジア水産事情

第5回:飲食店泣かせのカンボジア、物価は安いが、原価は高い」

第6回:1日10時間野外労働、時給は115円――カンボジアの屋台店主は生活できるのか?

第7回:アクエリアスは炭酸入り、スプライトは3倍甘い。そして、サムライドリンク!――カンボジア飲料事情

第8回:カンボジア人にモチは売れるのか?スイーツ突撃実態調査!

第9回:シーフードヌードルは、フィリピン人のおふくろの味?

第10回:マニュアル人間は希少人材!?創意工夫が店を滅ぼす!

第11回:世界最大のラーメンチェーン店は、熊本発のとんこつラーメンです

第12回:プノンペンのイオンモールで大人気なのは、回転しゃぶしゃぶ屋です

第13回:アジアの新興都市プノンペンで繰り広げられるチキンレース

第14回:インド人はナンを食べない!?―インドカレー事情

第15回:「草食系」の南インドではカレーも葉っぱにのってくる

第16回:「ファストフードが1時間半待ち!北京オリンピック会場食料事情」

第17回:ブラジルのファーストフード「YAKISOBA」は日系移民の歴史の足跡

第18回:「派手なのがお好き? カラフル過ぎるカンボジア色彩事情」

第19回:「カンボジアでマーケティング調査!プノンペンでわたあめは売れるのか?」

第20回:「カンボジアでわたあめ100本売る方法―モノを売るな、体験を売れ!」

第21回:「50円はOKでも75円はNG? プノンペンから揚げマーケティング講座」

第22回:「ご飯の国の人だから。おにぎりを買ってくれないカンボジア人」

第23回:「500円の食事は月に1度のごちそう!カンボジアの「ランチ相場」

第24回:「意外にエコ?フィリピン驚きの皿洗い事情」

第25回:「ウニは貧乏人の食べ物!? 世界じゃこれは、ゲテモノ料理!?」

第26回:「中華料理屋は世界のオアシスである。異論は認める」

第27回:「出張、サムライカレー!カンボジアのカレーを日本人に受けるようにカスタマイズしてみた!」

第28回:「カンボジアのカレーは福岡のサッカースタジアムで売れなかった! 顧客志向の大切さを改めて考える」

第29回:参入障壁の低さは過当競争を招く 激烈!カンボジアレストラン事情

第30回:東南アジアで食器を消毒する方法

第31回:あなたの訪れたインド料理屋の店員もネパール人かも

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