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世界の食を訪ねて

50円はOKでも75円はNG? プノンペンから揚げマーケティング講座

もりぞおの『サムライカレー、世界を喰らう!』[第21回]

フライドポテトを下に敷きつめ、0.5ドルで売ってみた鳥のから揚げカップ

サムライカレーの現在の主力商品は、なぜか鳥のから揚げとわたあめです


そして、店舗よりも、外を飛び回って売ることが多いです。


おかげで、プノンペン市内で祭りなどがあると、どこでも出店して、その場所にふさわしい施策を打っていきます。


「マーケティングの4P」という言葉があり、ものを売るときに四つの要素「Products(製品)」「Price(価格)」「Place(場所)」「promotion(売り方)」が重要になります。

そして、この四つは密接に結びついており、ひとつの要素が変わると他の要素も連動して変わっていきます。


特に変動が大きいのは「場所」。

所が変われば、売れる製品も、価格も大きく変わります。例えば、前回の記事で1000本売ったと書いたわたあめ。



カンボジアで唯一最大の近代的ショッピングモール、イオンモールプノンペンの中では、比較的裕福なカンボジア人のお客さんが多いため、価格は1ドル(100円)で売りました。


この1ドルというのも様々な試行錯誤の結果で、価格を1.5ドルに上げると、売り上げは半分以下に落ちる、わたあめを大きくしたり、売り方を変えたりしても売り上げは挽回できないということを確認しての価格設定です。


イオンにおいては、わたあめは「1ドル」が適正価格で、「1.5ドル」はちょっと高いわけです。ただ、お客さんが来すぎて、わたあめの生産数がネックになるのであれば、1.5ドルにするのも悪くないかもしれません。



これに対して、プノンペンの隅っこ、サムライカレー周辺で売ったときはどうなるでしょう?

1ドルでは全く売れません。わたあめ機を回している姿に興味は持ってくれるものの、1ドルという値段を見た瞬間に目を合わさず、そそくさと遠くに行ってしまいます。


と、いうのも、イオンモールのフードコートではカンボジア料理1食が2.5ドル前後。しかし、サムライカレー周辺は1食1ドル前後なのです。

3500リエル=90円くらいのカンボジアラーメン


わたあめが、ご飯の半額以下ならまあ買うかという気持ちになるのですが、同額となると全く検討対象にもならないわけです。


じゃ、半額くらいにしてみるかということで、0.5ドルにすると、これはしっかり売れます。


確かに東京でも普通のレストランのランチメニューが600~1000円、縁日のわたあめは300~500円なので、だいたい傾向は同じなのかもしれません


これは、冒頭でご紹介したもう一つの定番メニュー、鳥のから揚げにも言えます。



鳥のから揚げは「ご飯」ではなく「おやつ」にあたるため、ご飯の半額を目安に、0.5ドルくらいを設定します。


この値段だと飛ぶように売れていくのですが、0.75ドルに値上げするとその売れ行きがピタリと止まります。


しかし、問題は、わたあめと違って、鳥のから揚げは原価がそれなりに高いこと。

鳥のから揚げ1カップは、0.4ドル程度原価がかかっているので、0.5ドルで売るとほとんど利益が出ないのです。


このような時、どう考えるか。



「Place(場所)」は今の場所で固定だから、他の3要素を変える必要がある。

「Price(価格)」を上げると売れ行きが極端に下がるから不可能。

「Promotion(売り方)」にしても、わたあめを売るように「体験」を売るのはちと難しい(から揚げを作る体験をしても、お客はあまり喜ばなそう)。

これといった有効な宣伝の仕方も思い浮かばない。


となると、変えるべきものは「Products(製品)」

「原価が高いなら、安くすればいいじゃない」ということで、見た目的には量が少なく見えないように、カップの下に鶏よりも原価の安いフライドポテトを入れて、上にチキンを置く「フライドチキン&ポテト」を発売することにしました。

フライドポテトを下に敷きつめ、0.5ドルで売ってみた鳥のから揚げカップ


これなら原価も安いので、0.5ドルで売っても利益が出ます。

こんな風に、ものを売る側の立場になってみると、普段とは全く違う考え方をする必要が出てきます。レストランを経営するにも、料理の腕だけが大切なのではなく、このように複数の要素に分解し、お客さんの行動を踏まえて、何をどう変えていくか必死に考え、すぐに商品に変えていく能力が大切だということがわかります。

何かひとつを専門的に極める人間だけではなく、このようにたくさんの要素に気を配りながら、取捨選択したりバランスをとったりして、お客さんのニーズに近づけていく、こんな能力を持った人が商売に向いていますし、サムライカレーの研修を受けたみなさんには、そんな能力を身につけてもらっています。



ちなみにこの時、から揚げはお祭りが始まる3時間も前に売り切れてしまったので、売れ行きは鈍くても、ちょっと高めの0.75ドルで売っていてもよかったかもしれません。バランスを取るのは本当に難しいのです。


(次号に続く)



【筆者紹介】


森山たつを


早稲田大学理工学部、日本オラクル、日産自動車、ビジネスクラスで世界一周旅行などを経て、日本人が海外で働く方法を研究する「海外就職研究家」となる。


海外就職に関する書籍、記事などを執筆する傍ら、日本人が苦手としている「外国人とのコミュニケーション」「失敗前提でのチャレンジ」「リアルなビジネス」を体験する研修プログラム「サムライカレープロジェクト」(http://samuraicurry.com)を運営。カンボジア・プノンペンにあるカレー屋を使っての研修プログラムは、既に120人以上の卒業生を輩出している。


主な著書に「セカ就!世界で就職するという選択肢」(朝日出版)、「普通のサラリーマンのためのグローバル転職ガイド」(東洋経済新報社)などがある。


連載:もりぞおの『サムライカレー、世界を喰らう』

第1回:カンボジアでカレー屋を作ったら、カンボジア人がカレーが嫌いだということがわかりました

第2回:カンボジア人に「カレーを美味しくしてくれ」と頼んだら、彼女は練乳に手を伸ばした

第3回:カンボジア人が好きなカレーを作るために、カンボジア人の家に突入してみた

第4回:「当店の『たこやき』はイカを使用しております」―カンボジア水産事情

第5回:飲食店泣かせのカンボジア、物価は安いが、原価は高い」

第6回:1日10時間野外労働、時給は115円――カンボジアの屋台店主は生活できるのか?

第7回:アクエリアスは炭酸入り、スプライトは3倍甘い。そして、サムライドリンク!――カンボジア飲料事情

第8回:カンボジア人にモチは売れるのか?スイーツ突撃実態調査!

第9回:シーフードヌードルは、フィリピン人のおふくろの味?

第10回:マニュアル人間は希少人材!?創意工夫が店を滅ぼす!

第11回:世界最大のラーメンチェーン店は、熊本発のとんこつラーメンです

第12回:プノンペンのイオンモールで大人気なのは、回転しゃぶしゃぶ屋です

第13回:アジアの新興都市プノンペンで繰り広げられるチキンレース

第14回:インド人はナンを食べない!?―インドカレー事情

第15回:「草食系」の南インドではカレーも葉っぱにのってくる

第16回:「ファストフードが1時間半待ち!北京オリンピック会場食料事情」

第17回:ブラジルのファーストフード「YAKISOBA」は日系移民の歴史の足跡

第18回:「派手なのがお好き? カラフル過ぎるカンボジア色彩事情」

第19回:「カンボジアでマーケティング調査!プノンペンでわたあめは売れるのか?」

第20回:「カンボジアでわたあめ100本売る方法―モノを売るな、体験を売れ!」

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