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世界の食を訪ねて

カンボジアでわたあめ1000本売る方法――モノを売るな、体験を売れ!

もりぞおの『サムライカレー、世界を喰らう!』[第20回]

気持ちよくふくらんだわたあめを手にピース!


「森山さん、わたあめ機が壊れました!」

Facebookメッセンジャーが、緊急事態を伝えてくれます。

われわれは今、カンボジアはプノンペンのイオンモールで、わたあめを中心に、お祭りの屋台をやっています。


前回、報告したリサーチをもとに、わたあめ、かき氷、コーヒー、バルーンアートを販売したのですが、圧倒的に人気なのが、わたあめ。われわれの屋台のまわりには、異様な人だかりができています。



とはいえ、この人だかりができるまでには、紆余曲折がありました。


月曜の10時。これから7日間の販売を見据えて屋台を設置。

さっそく、販売をはじめます。

月曜の午前中はお客さんがあまりいないのですが、とりあえず、わたあめ機を回してみます……が、特に反応はなし。ぽつぽつと来るお客さんも、無反応です。たぶん、わたあめというもの自体を知らないのでしょう。



というわけで、一番メジャーなコーヒーを前面に出してみることにしました。

このイオンモールで、食事時以外でも人が集まっている場所は、カフェです。先日、スターバックスもオープン。ほかにも、「カフェ・アマゾン」という、「ネット通販会社がコーヒーを売り出したのか?」と思わせるカフェもできました。どちらも、かなりの数のお客さんが入っています。

ちなみに、私のお気に入りは、Cha timeという店が売っている、タピオカミルクティー。これが2.3ドルです。



お店の知名度では太刀打ちできないわれわれは、1ドルでコーヒーを売ることにしました。すると、そこそこお客さんが集まってきます。コーヒーを買ったお客さんが、わたあめ機を見て「コレ、何?」と聞いてくれます。


「コットンキャンディー! ジャパニーズスイーツ!」

といって、その場でわたあめを作り始めると、興味深そうに見ています。

「ちょっと食べる?」とちぎって渡すと、恐る恐る食べてくれました。

「オー、スイート!」


そんなやりとりをしていると、野次馬がちょいちょい集まってきます。おっと、子どもが「ママ~、あれほしい~」的な表情をしています。


「やってみる?」と聞くと、満面の笑みを浮かべる女の子。これではお母さんも1ドル払わざるを得ません。


割り箸を渡して、小さなわたあめを作り、その続きは女の子にさせてみましょう。



女の子は、実に楽しそうに、生まれて初めてのわたあめを作ります。

この様子を見て、われわれは確信します。

「わたあめという食べ物を売るのではない。『わたあめを作る』という体験を売るのだ」


そのため、つねにわたあめ機を回し続け、お客さんがいなくてもわたあめを作り続けます。

また、お客さんに近寄ってもらえるように、おもちゃの日本刀なんかも用意して、写真を撮るスペースも作ります。


こうすることで、つねに人だかりができるようになります。


いちど人だかりができはじめると、それはどんどん大きくなっていきます。

わたあめが、わたあめ機の中で、どんどん大きくなっていくように。


そして、人だかりができると、その中から一定割合の人が、1ドル払ってわたあめを作ってくれるのです。


われわれは「体験」を売っているので、その価値を高めるために、どんどん写真を撮ってあげます。わたあめ作りを体験してもらい、その様子を写真に撮って、Facebookにアップロードするまでが商品です。


また、彼ら、彼女らの写真をプリントしてお店に貼って、その楽しさをアピールします。



こんな感じで、「人を集める、作らせてあげる、写真を撮る」を繰り返すには、けっこうな人手が必要です。こうなったら、選択と集中。最初、主力商品にしようと思ったコーヒーはさっさと販売停止にし、バルーンアートも手間がかかるので、停止。わたあめと、かき氷に集中することにしました。初日から100本以上を売り上げ、好調な滑り出しをみせました。


が、しかし、好事魔多し。

ほぼフル稼働で動かし続けていたわたあめ機が、突如動かなくなります。

いきなり、売り上げの9割をあげている主力商品の生産ラインがストップです。ヤバイ。


ただ、このような事態にも、

「アルバイトと社員の違いは、トラブルに対応できるかどうか」

「問題が起こるのは問題ない。問題を解決できないのが問題だ」

ということを教わり続けていた研修生たちは、落ち着いて対応します。


「わたあめ機のレンタル業者が修理できる人を知っているはず。彼らと会話をするのに英語ではなくてクメール語がベスト。カンボジア人スタッフのサボンとそのサポートメンバーが業者に頼んで修理をしてもらおう」



修理中も、商いは続きます。何もしないのはもったいないので、なんとかかき氷を売ることで売り上げの損失を最小限に食い止めます。


そんなこんなで、7日間で3回機械が壊れたのですが、その度にチームワークで危機を乗り越え、最終的な販売本数は、1043本!

1本1ドルなので、わたあめだけで、売り上げは約10万円。大した金額に見えないかもしれませんが、カンボジア人の普通の人の月収は2万円程度なので、1週間でカンボジア人の5カ月分の給料額を売り上げたことになります。


しかし、1週間、サムライカレーの研修プログラム ( http://samuraicurry.com )に参加した彼らが得たものはそれ以上の価値があります。それは、


・現場を見ながら、売るものを微調整し、売れるものを見つけたという成功体験

・機械が壊れるという危機に、その場で対処し、役割分担して解決するという危機管理体験


この二つは、大学生を中心とした彼らが、社会人になって非常に役に立つ能力です。

そして、これらの苦労をしながら、1000人以上のカンボジア人のお客さんが喜んでくれる様を見ることができたのは、何よりの自信になるでしょう。


日本で飲食業というと、最近はすぐ、ブラック企業だという印象をもたれがちです。実際の労働環境をみると、それも否定できません。


しかし、食べ物を売ること。商売をすることって、本当に楽しいんです。


(次号に続く)



【筆者紹介】


森山たつを


早稲田大学理工学部、日本オラクル、日産自動車、ビジネスクラスで世界一周旅行などを経て、日本人が海外で働く方法を研究する「海外就職研究家」となる。


海外就職に関する書籍、記事などを執筆する傍ら、日本人が苦手としている「外国人とのコミュニケーション」「失敗前提でのチャレンジ」「リアルなビジネス」を体験する研修プログラム「サムライカレープロジェクト」(http://samuraicurry.com)を運営。カンボジア・プノンペンにあるカレー屋を使っての研修プログラムは、既に120人以上の卒業生を輩出している。


主な著書に「セカ就!世界で就職するという選択肢」(朝日出版)、「普通のサラリーマンのためのグローバル転職ガイド」(東洋経済新報社)などがある。


連載:もりぞおの『サムライカレー、世界を喰らう』

第1回:カンボジアでカレー屋を作ったら、カンボジア人がカレーが嫌いだということがわかりました

第2回:カンボジア人に「カレーを美味しくしてくれ」と頼んだら、彼女は練乳に手を伸ばした

第3回:カンボジア人が好きなカレーを作るために、カンボジア人の家に突入してみた

第4回:「当店の『たこやき』はイカを使用しております」―カンボジア水産事情

第5回:飲食店泣かせのカンボジア、物価は安いが、原価は高い」

第6回:1日10時間野外労働、時給は115円――カンボジアの屋台店主は生活できるのか?

第7回:アクエリアスは炭酸入り、スプライトは3倍甘い。そして、サムライドリンク!――カンボジア飲料事情

第8回:カンボジア人にモチは売れるのか?スイーツ突撃実態調査!

第9回:シーフードヌードルは、フィリピン人のおふくろの味?

第10回:マニュアル人間は希少人材!?創意工夫が店を滅ぼす!

第11回:世界最大のラーメンチェーン店は、熊本発のとんこつラーメンです

第12回:プノンペンのイオンモールで大人気なのは、回転しゃぶしゃぶ屋です

第13回:アジアの新興都市プノンペンで繰り広げられるチキンレース

第14回:インド人はナンを食べない!?―インドカレー事情

第15回:「草食系」の南インドではカレーも葉っぱにのってくる

第16回:「ファストフードが1時間半待ち!北京オリンピック会場食料事情」

第17回:ブラジルのファーストフード「YAKISOBA」は日系移民の歴史の足跡

第18回:「派手なのがお好き? カラフル過ぎるカンボジア色彩事情」

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