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世界の食を訪ねて

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ブラジルのファーストフード「YAKISOBA」は日系移民の歴史の足跡

もりぞおの『サムライカレー、世界を喰らう!』[第17回]



ブラジル、リオ・オリンピック開幕まであと5日!


ブラジルと日本は時差が12時間、季節も真逆と、本当に地球の裏側にあるということがよくわかります。



東京オリンピックも、国立競技場問題、エンブレムパクリ疑惑、都知事の辞任、オリンピック招致の裏金疑惑などなど、数年前から問題のオンパレードです。



しかし、リオオリンピックはそのレベルではないのです。

たとえば、


・大統領が弾劾裁判中

・リオ市が財政難で非常事態宣言

・感染症、ジカ熱蔓延

・ボートなど水上競技の会場となる湾で水質汚染が深刻

・警察がオリンピック期間中のストを予告

・オリンピック組織委員会が最大1.5億ドルの資金不足と報じられる


……と、あらゆる方向でトラブルが発生しており、無事に開催できるかが本当に不安な状態になっています。


そんなブラジルを、私は2009年に訪れました。

当時から治安は悪かったのですが、自然の雄大さ、人の陽気さなど、それをおぎなってあまりある魅力にあふれた国であり、3週間の滞在だったのですが、時間が全く足りなかったのを覚えています。


そんなブラジルの代表的な料理といえば、シュラスコ。



串刺しにした肉をそのまま焼いて、お客さんのところにもっていき、その場で切り落としてくれるという、豪快きわまりない、肉肉しい食べ物です。


このシュラスコをはじめとするブラジル料理は、シンプルかつ豪快で大変美味しいのですが、あまりの重さにときどき胃の消化限界を超えてしまいます。そんなときに、ふと目につく看板があります。それが「YAKISOBA」です。



なぜ、ブラジルに焼きそばが?

日系人社会と、なんらか関係があるのでしょうか。


ここでちょっとだけ、現地に根付いた日系人の方々の歴史をひもといてみましょう。


1908年以降、戦前だけで20万人近くの日本人がブラジルに移住したといわれています。

国立国会図書館のウェブサイト「ブラジル移民の100年」などに詳しく書かれていますが、ブラジルでは、1888年に奴隷が解放された後、ヨーロッパなどから移民を誘致するようになり、日本にも働きかけが行われました。


紆余曲折があったものの、1908年に「皇国殖民会社」が移民を募集し、第一回の渡航者がコーヒー農場に送りこまれます。


当時はインターネットで現地の情報もとれないし、飛行機で下見に行くようなこともできません。まさに業者の宣伝文句だけを信じて移民する人が多数でした。

そして、結果的に多くの日本人が、業者の好待遇や高賃金といううたい文句とはまったく別の、奴隷のような扱いに非常に苦労させられました。


そんな中でも、多くの日本人はよく働き、農地を改良したり、自身で商売を始めたりして、ブラジルで自分たちの地位を築き上げています。


さて、ふたたび「YAKISOBA」の話に戻ります。

YAKISOBAがどうやってブラジルにたどりつき、現地に根付いたかは諸説あるようですが、

いまでは、日系人が多く住む地域に行くと普通に食べられます。



味は日本のソース焼きそばと似ているのですが、ちょっと醤油っぽい味がします。

日本のソース焼きそばだと思って食べると違和感がありますが、ブラジルの料理だと思って食べれば、なかなかおいしいです。


ブラジルは、日本人移民の中でも、とくに沖縄出身の方が多いのですが、彼らはブラジルの中央部・パンタナール地方に多く住んでいます。


中心都市のひとつ、カンボグランジには、「YAKISOBA」だけではなく「沖縄そば」のお店もあります。



沖縄で食べるそばと同じ味のそば。このレストランは、10代のころブラジルに渡ってきた日系移民一世の方が経営しています。そんな店の店主に話を聞いてみました。


「子供がいるんだけど、みんな成人しちゃったから、今は店をやっているんだ。一人が医者。一人が大学出て役所で働いているよ。」


2016年の今でも飛行機で24時間以上かかるブラジルに、船で何カ月もかけてやってきて、しっかり子供に教育をし、一流の職業につかせているということに敬意を表します。


「息子たちはブラジル語(ポルトガル語)の方がうまいからね。孫ができたら、きっと日本語はしゃべれないだろうなー」


移民3世ともなると、日本語がしゃべれない人の方が多かったりします。

移民1世は当然、話せますが、移民2世になると日本語を使うのは家族との会話のみ。そして、移民3世になるとその家族の会話もポルトガル語になるのです。


そういえば、私が旅先であった日系三世のブラジル人。彼女も、見た目は日に焼けた日本人なのですが、日本語はからきしダメ。でもドラゴンボールが大好きで、いつか日本語で読みたいと思っている――なんてことを言っていました。


しかし、今から50年以上も前のブラジルで、移民の皆さんがすんなりと社会に溶け込めたのでしょうか? 差別とかはなかったのでしょうか?


「ブラジルは、そういうところは大きいよ。日本人も、イタリア人も、ドイツ人も、みんな受け入れて、差別なんてほとんどない。こうやって自分たちを受け入れてくれたブラジルには本当に感謝してるよ」


そんな大きな国ブラジル。


そこで苦労しながらも、しっかりと日本の食文化を現地に根付かせ、子供たちを現地社会に溶け込ませ、地に足を付けて生活している日系移民の方々がたくさんいるのです。


(次号に続く)



【筆者紹介】



森山たつを


早稲田大学理工学部、日本オラクル、日産自動車、ビジネスクラスで世界一周旅行などを経て、日本人が海外で働く方法を研究する「海外就職研究家」となる。


海外就職に関する書籍、記事などを執筆する傍ら、日本人が苦手としている「外国人とのコミュニケーション」「失敗前提でのチャレンジ」「リアルなビジネス」を体験する研修プログラム「サムライカレープロジェクト」(http://samuraicurry.com)を運営。カンボジア・プノンペンにあるカレー屋を使っての研修プログラムは、既に120人以上の卒業生を輩出している。


主な著書に「セカ就!世界で就職するという選択肢」(朝日出版)、「普通のサラリーマンのためのグローバル転職ガイド」(東洋経済新報社)などがある。


連載:もりぞおの『サムライカレー、世界を喰らう』

第1回:カンボジアでカレー屋を作ったら、カンボジア人がカレーが嫌いだということがわかりました

第2回:カンボジア人に「カレーを美味しくしてくれ」と頼んだら、彼女は練乳に手を伸ばした

第3回:カンボジア人が好きなカレーを作るために、カンボジア人の家に突入してみた

第4回:「当店の『たこやき』はイカを使用しております」―カンボジア水産事情

第5回:飲食店泣かせのカンボジア、物価は安いが、原価は高い」

第6回:1日10時間野外労働、時給は115円――カンボジアの屋台店主は生活できるのか?

第7回:アクエリアスは炭酸入り、スプライトは3倍甘い。そして、サムライドリンク!――カンボジア飲料事情

第8回:カンボジア人にモチは売れるのか?スイーツ突撃実態調査!

第9回:シーフードヌードルは、フィリピン人のおふくろの味?

第10回:マニュアル人間は希少人材!?創意工夫が店を滅ぼす!

第11回:世界最大のラーメンチェーン店は、熊本発のとんこつラーメンです

第12回:プノンペンのイオンモールで大人気なのは、回転しゃぶしゃぶ屋です

第13回:アジアの新興都市プノンペンで繰り広げられるチキンレース

第14回:インド人はナンを食べない!?―インドカレー事情

第14回:インド人はナンを食べない!?―インドカレー事情

第15回:「草食系」の南インドではカレーも葉っぱにのってくる

第16回:「ファストフードが1時間半待ち!北京オリンピック会場食料事情」



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