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世界の食を訪ねて

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マニュアル人間は希少人材!?創意工夫が店を滅ぼす!

もりぞおの『サムライカレー、世界を喰らう!』[第10回]


われわれが運営しているサムライカレープロジェクト(http://samuraicurry.com)は、日本の若者にカンボジアのカレー屋で自由に商売をすることで「創意工夫」を体験してもらう研修プログラムです。


プログラム運営者としては、この「創意工夫」を最大限に発揮して欲しいと考えています。しかし、レストラン経営者としては、実はこれほど恐ろしいものはありません。



サムライカレーでお客さんに出しているメニューは、カンボジア人のおばちゃんにならったり、プロの料理人を雇ってレシピを作ってもらったり、研修生がクックパッドを見て作ったりと、さまざまな方法で考案されています。


その中で、必ずやってもらうことは、マニュアルを作るということです。



自分たちで料理を作ることではなく、スタッフが、継続的に作れるようになることが目的。いつまでも自分たちで調理をしていたら、新しいことができません。会社の社長はもちろん、ホワイトカラーの会社員でも、「他人に仕事を任せる」ことは非常に大切なので、それを練習してもらっています。


でもマニュアル化よりも、大変なのは「継続」です。


マニュアルを作り、スタッフに料理を作ってもらい、僕らが決めたオリジナルの味を出してもらうことはそれほど難しくありません。しかし、それを継続することは非常に大変なのです。なぜなら、東南アジアのスタッフは「創意工夫」が大好きだからです。


例えば、プロの料理人の方に作ってもらったテリヤキソースを使って作ったサムライテリヤキチキン。



これが、あるとき極端に甘くなっていることに気付きます。


「なんでこんなに甘いの?」

「なぜなら、こっちの方がおいしいからです。ボス」


作り方を確認してみると、どうやらマーマレードを3倍入れているようでした。

「甘い方がおいしいです。ボス」


甘い物大好きカンボジア人。それはいいのですが、レストランは、従業員がおいしいと思う料理を作る場所ではありません。お客さんがおいしいと思う料理を作るのです。お客さんから好評をいただいているテリヤキチキンの味を変えるなんて言語道断です。


「でも、こちらの方がおいしいですよ。ボス」


話は永遠に平行線をたどります。


これは、私やサムライカレー研修生の統率力不足だけが原因ではありません。

外国の日本料理屋の多くは、オープン当初の数カ月は日本人シェフが来て、日本クオリティのすばらしい料理を出してくれます。しかし、日本人が帰った数週間後、異変があらわれはじめます。


たとえば、とある国のトンカツ店。こちらはトンカツ、ご飯、つけあわせ、全てが日本のデパートに入っているトンカツ店に匹敵するような品質でした。


しかし、開店から数ヶ月たったある日、つけあわせのポテトサラダがパンプキンサラダに変わっていることに気付きます。


「カボチャの季節になったからかな?」などとも考えるのですが、この国に四季はあまりありません。


さらに数カ月後、今度はつけあわせの漬け物が、焼きトウモロコシに変わりました。

この時点で、この店の緩やかな衰退を感じるわけです。


きっと、店員に聞いても、「甘い物の方が美味しいですよ、サー(Sir)」

と答えるのでしょう。あとは、肝心かなめのトンカツに被害が及ばないことを祈るのみです。


たとえ日本人がいても、油断をすると事件は起こります。


先日訪れたプノンペンの高級フランス料理店。日本人シェフが素晴らしいクオリティーの料理を出してくれます。



そのシェフが言うには、

「むかし、常連のお客様が『今日のエビのマリネ、味が違ったよ』と伝えてくれたのです。あわてて味を見てみると、なんとカレー味。カンボジア風カレー味になっていました」


なぜそんなことをしたのか、スタッフに聞いてみるとやはり、「こっちの方がおいしいですよ、ボス」という答えが返ってきたそうです。


日本の学校では、先生から教えられたことを忠実に守るということを教えられます。だから、素人の高校生バイトでも、マニュアルに書いてあるとおりに作業をすることは当たり前のようにできます。


しかし、東南アジアの国々では、自主性を育てるという目的もあり、日本と比べ、計算ドリルのような単純作業をくりかえし教えるといった教育手法はとられないことが多いようです。このため、「言われたことをする」よりも、「自分がやりたいことをする」がまさってしまい、店のルールを無視した「創意工夫」が始まってしまうのではないかと僕はみています。


こんなことを気に病んでいるのは日本人だけかと思っていたのですが、カンボジアのインド料理屋のインド人店主も「スタッフが勝手にカレーを甘くするんだ……」と愚痴っていたので、ある意味、東南アジアの人たちの特性なのかもしれません。


日本では、この「マニュアルを守る」という教育が行き届きすぎているせいか、新しいことをするのが苦手な人が多く、「マニュアル人間」とバカにされます。しかし、店主の目線からみると、最初からマニュアルを無視して創意工夫してしまう人よりも、マニュアルを守る人のほうがありがたい、というのが本音だったりします。「マニュアル人間」に、「臨機応変に創意工夫をする能力」がそなわれば、それこそ最強になれるのではないでしょうか。


ただ、創意工夫を身につけさせるには、忍耐が必要です。

明らかに失敗しそうなこと、自分の意向に沿わないことを始めそうなときも、制止したくなる気持ちをぐっとおさえ、やらせてみないといけません(しかも、お店の予算で行うので、お金がどんどん減っていく……)。「店の利益より研修生の成長」という経営理念を念仏のように唱えながら、その挑戦(暴走)をしっかり見守り、失敗体験をさせなくてはならないのです。


カンボジア人スタッフには、彼らが得意とする「創意工夫」を抑えてマニュアルを守る大切さを伝え、日本人研修生には、マニュアルにしばられない創意工夫をうながす。

相反する教育を同時進行でやっていくのは、なかなか大変なのです。



(次号に続く)


【筆者紹介】


森山たつを


早稲田大学理工学部、日本オラクル、日産自動車、ビジネスクラスで世界一周旅行などを経て、日本人が海外で働く方法を研究する「海外就職研究家」となる。


海外就職に関する書籍、記事などを執筆する傍ら、日本人が苦手としている「外国人とのコミュニケーション」「失敗前提でのチャレンジ」「リアルなビジネス」を体験する研修プログラム「サムライカレープロジェクト」(http://samuraicurry.com)を運営。カンボジア・プノンペンにあるカレー屋を使っての研修プログラムは、既に120人以上の卒業生を輩出している。


主な著書に「セカ就!世界で就職するという選択肢」(朝日出版)、「普通のサラリーマンのためのグローバル転職ガイド」(東洋経済新報社)などがある。


連載:もりぞおの『サムライカレー、世界を喰らう』

第1回:カンボジアでカレー屋を作ったら、カンボジア人がカレーが嫌いだということがわかりました

第2回:カンボジア人に「カレーを美味しくしてくれ」と頼んだら、彼女は練乳に手を伸ばした

第3回:カンボジア人が好きなカレーを作るために、カンボジア人の家に突入してみた

第4回:「当店の『たこやき』はイカを使用しております」―カンボジア水産事情

第5回:「飲食店泣かせのカンボジア、物価は安いが、原価は高い」

第6回:「1日10時間野外労働、時給は115円――カンボジアの屋台店主は生活できるのか?」

第7回:「アクエリアスは炭酸入り、スプライトは3倍甘い。そして、サムライドリンク!――カンボジア飲料事情」

第8回:「カンボジア人にモチは売れるのか?スイーツ突撃実態調査!」

第9回:「シーフードヌードルは、フィリピン人のおふくろの味?」


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