RSS

世界の食を訪ねて

この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加

シーフードヌードルは、フィリピン人おふくろの味?

もりぞおの『サムライカレー、世界を喰らう!』[第9回]


日清食品がカップヌードルのシーフードヌードルを全世界で販売すると、日経新聞が5月末に報じました。


カップヌードルは、全世界共通のブランドで、2016年現在80カ国以上に出荷されているそうです。実際、私も50カ国以上のスーパーを回っているのですが、その国ごとにご当地ものの、様々なカップヌードルが売られています。


タイのトムヤムクン味、インドネシアのココナッツカレー味、インドのマサラ味やシンガポールのブラックペッパークラブ味など、その国のメジャーな味つけがあるのはもちろん、チキンスープやポークスープといったベーシックなものもあります。


私も、南米を4ヶ月ほど回っているときは、ときどき日本の味が恋しくなり、スーパーで見慣れたパッケージのカップヌードルを買いました。 しかし、故郷への郷愁を胸に、お湯を入れて3分待ち、箸がないのでフォークを使って縮れ麺を口に運ぶと……かなりの高確率で裏切られることになります。



本連載で、「日本人がおいしいと思うものをそのまま持っていっても、外国人がおいしいと思うとは限らない」ということを繰り返し、お伝えしておりますが、きっと日清食品さんも、失敗に失敗を重ねながら、それを学んでいるのでしょう。カップヌードルの味つけも、その土地にあったものに微妙に変えてあるのです。


私の見立てでは、日本の「醤油味」にあたるのが、各国の「チキン味」だと思うのですが、ほとんどの国で日本よりも味が薄いです。日本のものは醤油のしょっぱさを強調しているのでしょう。逆に言うと、醤油をあまり使わない国の人々にとっては、醤油味というのは刺激が強すぎるのです。


同様に、カレー味やシーフード味など、日本と同じ味のカップヌードルを食べても、いつも「これじゃない…」感を抱き、がっかりするのですが、それと同時に日清食品の現地化への取り組みに感心もします。


そんななか、現地の人たちに、現地向けパッケージよりも好かれているカップヌードルがあります。それが、フィリピンにおけるシーフードヌードルじゃないかと思うのです。



私は、カンボジアに住む前に2年ほどフィリピン・セブに住んでいたのですが、日本からセブに行く時、成田空港の搭乗口で、カップヌードルのシーフード味を箱買いしてカウンターに並ぶフィリピンの人たちをしばしばみかけました。



24個入りの箱を5つも運んでいる様は非常に目立つのですが、日清以外のメーカーであることも、シーフード以外の味であることもなく、必ず「日清 のシーフードヌードル」なのです。


そのことに疑問を持ち、フィリピンに帰った後、複数のフィリピン人に「なんで、シーフードヌードルなの?」と聞いたところ、意外な答えが返ってきました。


「シーフードヌードルは、フィリピンのおふくろの味なのよ」


彼らのシーフードヌードルの食べ方は、日本人のそれとちょっと違います。ふたをあけて、お湯を入れて、3分待つところまでは同じなのですが、そのあと、ぎゅっとライムを搾ってから、食べるのです。


「ライム?」

「そう。シーフードヌードルにライムを搾ると、シニガンスープみたいな味になるのよ」


シニガンスープというのは、フィリピンのメジャーなスープです。


豚肉や野菜を煮込んだスープで、酸っぱいのが特徴です。お酢の酸っぱさではなく、ライムの酸っぱさです。日本人的には好き嫌いが分かれる味です。そして、このシニガンスープは、日本人にとっての味噌汁のようなもので、彼らのおふくろの味なのです。


「昔から、たくさんのフィリピン人の女の子が日本に出稼ぎにいってるでしょう。日本にフィリピン料理の店はほとんどないから、なんとか故郷の味を楽しみたい娘たちがいろいろためしてみて、この『シーフードヌードル+ライム=シニガンスープ』をみつけたの。

その後、フィリピンに戻った人たちも、今度は日本にいたときの想い出として、シーフードヌードルをフィリピンに持ち帰り、ライムをかけて食べるのよ」

そんなフィリピン人には「カップラーメンではなく、ホンモノのシーフードヌードルが食べたい」と頼まれることがあります。しかし、冷静に考えると、「シーフードヌードルって一体なにラーメンなのか?」と、答えに窮するものがあります。

そこで、とりあえず、スープが白いという理由で豚骨ラーメンを案内すると、彼女らは狂喜乱舞します。


一蘭や一風堂といった有名とんこつラーメン店のラーメンを食べると「エクセレント。日本で食べたモノで、豚骨ラーメンが一番美味しかった」という感想を聞くことになります。(ちなみに、次点は吉野家の牛丼です。寿司とかすき焼きも食べてたはずなのに……)

この、豚骨ラーメン好きは、フィリピン人だけにとどまらず、アメリカ人やカナダ人、台湾人やドイツ人の友人も豚骨ラーメンがベストだと言っていました。



海外のラーメン屋に、豚骨ラーメンが多いのもこういう理由だと思います。

日清食品は、今まで、ローカルの意見をきちんと聞いて、現地の人に好まれる味のカップヌードルを開発してきました。しかし2016年、ローカライズされたカップヌードルに加え、「世界よ、これがカップヌードルだ」と言えるような、世界統一ブランドを創ろうとしています。その「旗艦」が、日本でカップヌードルの代名詞となっている醤油味ではなく、シーフードヌードルだったというのは、実に興味深いです。


フィリピン人のおふくろの味であり、世界中の国の人が好む豚骨ラーメンに似た味のシーフードヌードル。この青いパッケージは、世界を席巻できるのでしょうか?

私は、近い未来、世界各国のスーパーでシーフードヌードルが売られ、日本人が、故郷を思い出す食べ物として、購入するようになる可能性は高いと思っています。


久々に食べましたが、美味しいです。



(次号に続く)


【筆者紹介】


森山たつを


早稲田大学理工学部、日本オラクル、日産自動車、ビジネスクラスで世界一周旅行などを経て、日本人が海外で働く方法を研究する「海外就職研究家」となる。


海外就職に関する書籍、記事などを執筆する傍ら、日本人が苦手としている「外国人とのコミュニケーション」「失敗前提でのチャレンジ」「リアルなビジネス」を体験する研修プログラム「サムライカレープロジェクト」(http://samuraicurry.com)を運営。カンボジア・プノンペンにあるカレー屋を使っての研修プログラムは、既に120人以上の卒業生を輩出している。


主な著書に「セカ就!世界で就職するという選択肢」(朝日出版)、「普通のサラリーマンのためのグローバル転職ガイド」(東洋経済新報社)などがある。


連載:もりぞおの『サムライカレー、世界を喰らう』

第1回:カンボジアでカレー屋を作ったら、カンボジア人がカレーが嫌いだということがわかりました

第2回:カンボジア人に「カレーを美味しくしてくれ」と頼んだら、彼女は練乳に手を伸ばした

第3回:カンボジア人が好きなカレーを作るために、カンボジア人の家に突入してみた

第4回:「当店の『たこやき』はイカを使用しております」―カンボジア水産事情

第5回:「飲食店泣かせのカンボジア、物価は安いが、原価は高い」

第6回:「1日10時間野外労働、時給は115円――カンボジアの屋台店主は生活できるのか?」

第7回:「アクエリアスは炭酸入り、スプライトは3倍甘い。そして、サムライドリンク!――カンボジア飲料事情」

第8回:「カンボジア人にモチは売れるのか?スイーツ突撃実態調査!」

Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

世界のどこかで、日本の明日を考える 朝日新聞グローブとは?

Editor’s Note 編集長から