RSS

世界の食を訪ねて

この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加

カンボジアでカレー屋を作ったら、カンボジア人がカレーが嫌いだということがわかりました

もりぞおの『サムライカレー、世界を喰らう!』[第1回]





はじめまして。

カンボジアの首都プノンペンでサムライカレーというカレー屋を営んでいる、森山たつをと申します。


日本人が海外で働くにはどうすればいいのか?というテーマで書籍を出版したり、海外就職をする人を支援する活動をしています。


その一環として、「サムライカレー」という小さなカレー屋をカンボジアの首都・プノンペンに出店し、「サムライカレープロジェクト」という研修プログラムを運営しています。


本コラムではカンボジアをはじめとする、世界各国で見聞きした、食文化に関するあれこれを皆様にお伝えしていこうと思います。


第一回の今回は、我がサムライカレーで出したカレーライスに関するお話しです。


我々は、「海外で暮らしたことがない、英語で仕事をしたことがない、外国人とビジネスをしたことがない若者が、実践体験する場を作ろう!」ということで、世界各地でその舞台を探していました。


そんななか、街の活気、会社設立やビザ取得の条件などを鑑みて白羽の矢が立ったのがプノンペン。そこで、カンボジアでカレー屋「サムライカレー」を作ったのです。


そして、その「サムライカレー」を舞台に、大学生や企業の若手社員を対象に行われる研修プログラムが、サムライカレープロジェクト。2014年設立のこの研修プログラムは2年で100人以上の大学生、社会人が参加した、大人気の研修プログラムに成長しました。(2014年6月には、観光庁に表彰いただいています)


2014年1月当時、まだ 影も形もWebページすらなかったサムライカレープロジェクト。しかし、その噂をtwitter等で聞きつけた4人の大学生たち がプノンペンにきて、研修プログラムに参加してくれました。


参加してくれた研修生4名+仕掛け人3人+料理研究家とまこさん。


そんなプノンペンの隅っこで、小さなカレー屋を開店することになった我々は、料理研究家のとまこさんをお招きして、現地の素材で作れる、日本風のオリジナルカレーを作ることにしました。


店舗はもうあるので「1週間後に試食会を行う」という目標を設定し、動き出すサムライカレーメンバー。しかし、いきなり大きな課題が立ちはだかります。


「1日、あちこちの市場を探したけど、スパイスが見つかりません・・・。」


2014年1 月当時、プノンペンにはまだ大きなスーパーマーケットも少なく、(2014年6月オープンの)イオンモールもありませんでした。もちろん、Amazonや楽天といったインターネットショッピングサイトもありません。(そもそも宅急便のインフラが満足に整っていません)


つまり、どこになにが売っているかがさっぱりわからない。お皿や鍋などに関しては、カンボジア人の人に聞けば分かるのですが、クミンやコリアンダーといったスパイスに関しては、そんなものを買おうと思ったことがあるカンボジア人が滅多にいません。クメール語(カンボジア語)でなんというかすらわかりません。


どんな物でもインターネットで検索したり、大きなスーパーに行って店員に聞けば手に入る、先進国の当たり前のインフラがここにはないのです。


とはいえ、見つからないと悩んでいてもなにも進みません。

あてもなく、市場をさまよっていると、インド人らしき人が歩いてます。カレーといえば、スパイスといえば、インド!ということで、彼にスパイスのありかを聞いてみました。

すると、「ビンゴ!」

彼の友達が、市内でスパイス屋を営んでいました。


こうして、手探りで丸2日かけて見つけ出したスパイスを元にカレー作りがはじまります。


料理研究家の彼女が日本で作ってきたレシピ通り作っても味がかなり違います。野菜の味、肉の味、水の味、それが全て違うので、日本での試作通りの調合で作っても、全く違う味になってしまうのです。


何度も何度も試作品を作り、我々が美味しいと思うカレーの味に近づけていきます。そして、かなり納得がいくレベルに達しました!


そこで、近所のカンボジア人の人たちに試食をしてもらうことにしました。


「うん。美味しい」

「ありがとう!はじめて食べた味だわ」


カンボジアの人たちは、みんな笑顔で感想を伝えてくれます。

これは、いける。

我々は、自信を持って開店の日を迎えました。


開店当日は、SNSを使ってプノンペン在住日本人の人に宣伝したおかげでたくさんの方に来ていただく事ができました。しかし、その客足が平日になるとぴたりと止まります。

それは、近所に在住しているカンボジア人の人たちがほとんど来店しないことが原因であることは明確でした。


試食をしてもらった時は笑顔で「美味しい」と言ってくれたのに、なぜ・・・。

悩んでいても仕方がないので、日本に留学経験のある、日本語ペラペラのカンボジア人・男性 ダンくんに相談してみることにしました。


「カンボジアの人たちは、お世辞をいうのが得意なんですよ」


彼が言うには、カンボジアの人たちは、いつも相手を楽しませたいと思っているそうです。こんな事を言ったら相手が悲しむだろうなとか、ちょっとしらけるな、などと思ったときには、相手を喜ばせるための嘘をつくのです。


まさに、日本人の十八番「空気を読む」


こういうところが、日本人と近い気質なので、ある意味接しやすい人たちなのですが、今の私たちにとってはなかなかやっかいな気質です。


「彼らに本当の事を聞くにはどうすればいいの?」

「それは、ちょっと難しいですね。彼らは、あまり外国人と話をしたことがありません。外国人を警戒しているのです。」


こういうところが、現地で商売をする難しさです。

外国からやってきた我々は、やっぱり、よそ者。現地の人たちになじんでいくには、いろいろ工夫が必要なのです。


さすがに、今回はそれほどの時間をかけていくわけにはいかないので、ダンくんにお願いして調査を進めていきます。

すると、驚愕の事実がわかりました。


カンボジアの人たちは、カレーのスパイスの匂いを臭いと感じます。

彼らの表現は「酸っぱい」

なんか、ちょっと腐っているような感覚になるようです。


特に、インドカレーのあの食欲をそそるスパイスの香りは、彼らにとっては耐えがたいものであり、インド料理屋の前を通るのも嫌らしいのです。


「私は、日本に留学をしているときに日本のカレーを何度も食べて美味しいと思っています。でも、彼らが臭いという感じもよく分かります。

そして、私もいまだに、インドのカレーの匂いは苦手です。」



まいった。

あれだけ苦労して手に入れた、インド人から手に入れたスパイスが思いっきり裏目に出るとは…。


このように、海外で料理を提供するときにはまる落とし穴は

「我々が美味しいと思うものが、必ずしも現地の人が美味しいと思うとは限らない」

ということです。


手間をかけたとか、高級な・本格的な食材を使ったとか、丁寧に作ったとか、そんなものを全て吹き飛ばす「好み」そして「感覚」これをひっくり返すのは非常に長い時間がかかります。


たしかに、日本で、カンボジア最高級のタランチュラの丸焼きをだしたとしても、食べてくれる人は少ないでしょう。


そして、その好みをストレートに表現してくれる人が多ければいいのですが、世の中は必ずしもそうとは限りません。口では「美味しい」といいながら、心の中では「くっさー。食えるかこんなもん」と思っている人もたくさんいるのです。そして、それは、悪意をもってやっているわけではなく、むしろ我々に気を遣ってくれている行為なのです。


お世辞で「美味しい」と言ってくれる人が、お金を払ってカレーを食べにきてくれるわけがありません。

だから、お店にカンボジア人の人は来てくれない。


「駄目なことが分かったら、そこがスタートラインです」



我々は、カンボジア人が好きなカレーを作るためのスタートラインに立つことができました。どうやってその困難なゴールに向かっていったか。


それは、また次回のお話しで。


*******


【筆者紹介】



森山たつを


早稲田大学理工学部、日本オラクル、日産自動車、ビジネスクラスで世界一周旅行などを経て、日本人が海外で働く方法を研究する「海外就職研究家」となる。

海外就職に関する書籍、記事などを執筆する傍ら、日本人が苦手としている「外国人とのコミュニケーション」「失敗前提でのチャレンジ」「リアルなビジネス」を体験する研修プログラム「サムライカレープロジェクト」(http://samuraicurry.com)を運営。

カンボジア・プノンペンにあるカレー屋を使っての研修プログラムは、既に120人以上の卒業生を輩出している。


主な著書に「セカ就!世界で就職するという選択肢」(朝日出版)、「普通のサラリーマンのためのグローバル転職ガイド」(東洋経済新報社)などがある。


Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

世界のどこかで、日本の明日を考える 朝日新聞グローブとは?

Editor’s Note 編集長から