RSS

「野獣」という名の列車をたどって

マラス編Ⅳ ギャング「マラス」はなぜ生まれたのか どうすればいいのか 

関係者に聞く

エルサルバドルなど中米をむしばむギャング「マラス」。なぜ生まれたのか。何が起きているのか。そしていったい、どうすればいいのか。関係者に聞いた。(GLOBE記者 村山祐介)







●被害者は少年、教育の向上を 地元大手紙ラプレンサ記者 ローデス・キンターニーヤ(35)


最大の被害者は少年たちです。親は職を求めて米国に移民し、隣人も信用できず、寂しく家に閉じこもって疑心を募らせています。職に就いたり、商売を始めたりする十分な準備もありません。そしてマラスの勧誘の格好の標的になっています。「マラスは家族だ。俺たちはお前のために戦う。お前も俺たちのために戦え。同じ大義のために戦うんだ」と。大義とは縄張りのことです。今やマラスは隣人かもしれないし、警察や学生でもあり得ます。日常生活に溶け込んでしまっていて、誰が安全か危険か見分けるのは難しいです。その一方で、いつも道端に座ってスマホで話していたり、メッセージを読んでいたりしたら、マラス関係者であることが極めて濃厚です。




マラスは見知らぬ人が縄張りに入ってくると、ポステスと呼ぶ見張り役を送って監視させます。あるとき、携帯を手にした子どもが「あなたに電話です。出てください」と近寄ってきます。構成員が「お前がどこに住んでいるのか、子どもたちがどの学校に通っているのかも分かっている。この日までのこの金額を出せ。さもないと、子どもたちを殺したうえでお前も殺す」と告げる。未成年は逮捕されにくいので、少年を使って脅迫する。極めて一般的なやり方です。10世帯が着の身着のままで夜逃げすることもあります。戦争同然ですが、政府はこうした避難民の存在を認めていません。




貧民街や見捨てられた村では政府のコントロールが効かず、マラスしかいない地域もあり、兵士すら怖がって立ち入りません。何倍もの数のマラスがいかねないからです。マラスは麻薬密輸組織の歩兵になったり、住民を恐喝したりして金を手に入れ、軍が武器を横流ししています。事態を改善するには、内戦前のような人々が隣人を信頼しあう強い社会をつくる必要があります。子どもたちにより良い機会を与えるため、政府は教育の質を高めることに真剣に取り組まないといけません。




●政府の弾圧裏目に 中米大学世論研究所所長 ジャネット・アギラール(48)

「Abema x GLOBE」の特集番組「『野獣』という名の列車をたどって」より

マラスはもともと教育も職もなく、社会に疎外された都市に住む貧しい十代の不良集団で、武器も持っていませんでした。1990年代に米ロサンゼルスから強制退去された犯罪者が入れ墨の入れ方や独特のしゃべり方、ファッションスタイルなどのギャング文化を持ち帰り、若者に人気がありました。不良たちは感化されて作法を倣い、武器を多く使うようになり暴力も激化しました。




政府は事態に関心を払わず、弾圧するだけでした。大きく変わったのは2000年代半ばからの政府の強硬策です。脅かされたと感じたマラスは、武器を手に縄張りを仕切る巨大な組織に変容しました。政府は大量に投獄しただけで放置したので、マラスは刑務所内で強固に組織化しました。やがて刑務所を掌握し、外部に指示も出すようになりました。ブラジルで起きたことと同じです。今やアメリカ大陸で最も危険なギャング組織です。




状況はますます悪化しています。12年からの停戦協定の間に地方への展開が進み、14年からの取り締まりで奥地や国境まで拡大し、いまでは全国にいます。警官は給料が安く、マラスと同じ貧しい地域に住まざるを得ません。そしてマラスは家族構成を把握しています。警察はマラスを殺し、マラスは警官とその家族を皆殺しにする。そして警官も、マラスの家族を殺す。復讐の応酬です。犠牲になるのは少年や貧しい人たち、零細企業です。政府は国内で避難する人たちの存在を認めず、警察に助けを求めても安全を保障してくれません。殺されないためには移民するしかないのです。トランプ米大統領が壁をつくっても移民は止まりません。暴力を根絶する処方箋はなく、行政能力の強化や犯罪者の社会復帰への投資、防犯対策など、政治や社会の様々な立場の人たちが取り組むことが重要です。




●貧しい村に投資を ネットメディア・ファクトゥム編集長 セサール・ファゴアガ(35)


警察とマラスが殺し合い、マラス同士も殺しあう。内戦時代のように多くの死者が出ており、これは新たな内戦状態です。そして死ぬのは全て貧しい人です。貧しいマラスと貧しい警官が戦い、学生や農夫、売店主がみかじめ料を拒んで日々殺されていますが、もう慣れてしまって誰も気にしません。もし富裕層が殺されれば、政治家や国際社会はもっとこの問題に関心を払い、解決策も見つかるでしょう。しかし、意思決定者は安全地帯に住んでいるのです。




マラスは貧困と格差が生み出したものです。非常に貧しく、水や電気、道路、学校もなく、政府が統治していない地域をマラスが手に入れて統治し、地域社会に深く根付いています。政府はマラスを逮捕して刑務所でただ放置しただけで、なぜマラスが勢力を伸ばすのか原因を考えませんでした。マラスを全員スタジアムに詰め込んで、皆殺しにしても問題は解決しません。社会的不平等や貧困、教育機会の欠如といったマラスを生み出す要因は変わっていないからです。社会や経済、政治などあらゆる問題に関心を払わなければ、決して解決できません。まずは刑務所をきちんと管理して、貧しい村に投資することです。質の高い教育と医療、雇用創出といった政府がすべきことをするのです。




警察は適切な司法手続きなしに、マラスを撃ち殺し始めています。内戦時代と同じことが起きています。警官が犠牲になったからといって、マラスと同じことをするのを許すわけにはいきません。しかし、警察はマラスを超法規的に処刑し、人々は喝采を送るようになりました。銃の前ではなく、裁判官の前で対応すべきです。法律を尊重しないのは民主主義にとって非常に危険で、将来大きな問題になります。過去と同じ間違いを犯しているのはとても悲しいことです。




●村を離れる動き止まらず 保健省看護師 カレン・レムス(32)


私の住むホコテドルセの325世帯のうち、マラスの構成員がいる家族が約30世帯あります。みんな地元の人たちで、小学校教諭をしている父のかつての教え子もいます。1990年代に米国から強制送還された人が戻ってきて、組織化し始めました。殺人事件が頻繁に起きました。ほとんど銃で撃たれて、そのあとナイフで切られます。父を殺されて、マラスに「あなたたちが殺したんでしょう」と言った女性が昨年4月、銃殺されてバラバラ遺体で見つかりました。村人同士が殺し合うのがすごく心が痛みます。




多くの村人が殺されたり、家族で避難したりして、家屋は放棄されました。私の集落でも5軒のうち4軒が空き家です。2012年ごろからすでに35世帯が米国に移民しました。家族と社会が壊れ、住民が村を離れていく動きが止まりません。子どもを祖父母に預けて米国に移民した両親が、子どもだけを残しておけないと心配して呼び寄せるケースもずいぶん出ています。父の小学校では5年前に30人いた児童が、11人まで急減しました。




私が勤める保健所も何度か脅迫を受けました。最近も、診察に来たマラスのリーダーの妻たちから「夫を診察して欲しいのに、警察が来るから行けないよね」と監視していることを示唆されたり、水道料金の回収にマラスが介入してきて、保健所職員が脅しを受けたりしました。マラスは屈強な男たちという印象がありますが、よそ者が村に入ることにすごく敏感で、いつも監視しています。車が入るだけでよそ者と分かってしまいます。


■マラスの現状や課題をまとめました 筆者のコメントとともにご覧ください 「Abema x GLOBE」の特集番組「『野獣』という名の列車をたどって」より 




■マラス編Ⅰ 中米ギャング「マラス」を生むものとは 工藤律子さんに聞く 開高健ノンフィクション賞ジャーナリストはこちら


■マラス編Ⅱ 殺人発生率世界最悪・中米エルサルバドルを悩ます「マラス」とは 警察長官「強攻策・停戦が裏目に出た『負の連鎖』」はこちら


■移民編Ⅰ 親子の会話はSNS頼み 「3人に1人」が移民 中米エルサルバドルの現実はこちら


■特集本編[Part1]殺人率世界最悪の国へ 「新たな内戦状態」はこちら

この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加
Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

Information | 履歴・総合ガイド・購読のお申込み

Editor's Note | 編集長から

PC版表示 | スマホ版表示