RSS

FRBと日本銀行

物価目標2%達成は可能(星岳雄・東京財団政策研究所理事長)

4月9日に発足した日銀の新体制が取り組むべきことは何か。星岳雄東京財団理事長は、日銀による大規模緩和を評価し、今後も2%の物価目標達成に向けて緩和を続けていくよう求めた。一方で、大規模緩和で財政規律が緩む懸念を指摘し、財政再建の道筋を示すよう政府に訴えた。


異次元緩和でインフレ期待は高まった

―4月9日に発足した日銀の新体制をどのように評価していますか。

「政策の連続性が保たれたという意味で黒田東彦総裁の続投や、金融政策を立案する企画の理事として黒田総裁を支えてきた雨宮正佳氏の副総裁昇格は非常に良かった。若田部昌澄副総裁は(リフレ派政策を訴えた)岩田規久男前副総裁と似た主張だ。インフレが起きていない段階では、現在の金融緩和を続ける必要がある。緩和の継続を訴える若田部氏を起用した狙いは理解できる」


―黒田総裁のこれまでの5年間の金融政策をどのように評価していますか。

「2年間で2%の物価目標は達成できなかったが、以前の(物価が下がり続けるという意味の)デフレ状態を解消したのはポジティブな結果だ。インフレにはなっていないが、少なくともゼロインフレになった。好調な世界経済のおかげだけではないだろう。黒田総裁の異次元緩和の結果として、インフレ期待が以前より高くなったと言える」

「ネガティブな結果はあまり考えられない。ただ、マイナス金利政策で元々小さかった銀行の利ざやがもっと小さくなり、金融仲介機能に悪い影響を与えているかもしれない。また、異次元緩和の一環で日銀が上場投資信託(ETF)など色々な資産を買っていることで、市場の価格形成に影響が出ている。やりすぎていないかという議論はあるだろう」


政府は財政再建の長期的道筋を示せ

―日銀が国債を大量に買うことで政府の財政規律が緩んでいるという指摘があります。

「日銀が国債を買い続けるという期待をつくることで、政府の財政規律が緩んでいたら、それも負のインパクトになる。財政規律の緩みは大きな問題だ。5年前に比べて財政赤字の規模は減っておらず、財政の健全化と経済成長の回復への長期的な道筋を立てたうえで、財政政策と金融政策の協調を図るということは、いまだにできていない」

「政府は国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を2020年度までに黒字化するという財政再建目標を先送りにしたが、それ自体は必ずしも悪いことではない。20年度までのPB黒字化を恐らく誰も信じていなかったからだ。できもしないことを言い続けるより、新しいプランをつくるほうが重要だ。問題は、日本の財政を長期的にどのように維持していくかという道筋を、政府がまだ示せていないことだ」

「異次元緩和を始める際、黒田総裁は財政規律を保つことの重要性を理解していたと思う。財政政策と金融政策の協調とは本来、金融緩和を進める一方で財政規律を保つことだが、うまくいっていない。むしろ最近は、金融政策だけでは足りないので、財政出動も増やすことを協調だと思っている人がいる。それは危ない協調だ。日銀はまだ2%の物価目標を実現していないので、今後も金融緩和を続けるべきだが、金融緩和の負の影響を少なくするために、財政規律を取り戻すという政府の確約が重要だ」

「財政規律にとって重要なことは長期的な均衡だ。財政赤字を数年以内に減らすことが必要なわけではない。80~100年という長期的な期間で財政規律が保たれれば良い。景気が悪いときに一番良いことは、財政を拡大しながら長期的には規律が保たれていることを説得力を持って示すことだ。短期的に財政規律を緩めておいて、『100年後には大丈夫だ』と言うだけでは説得力はない。道筋を示すことが必要だ」


―具体的には何が必要でしょうか。

「消費税率をいつ、どのくらい上げるか示したり、社会保障などの支出をどのように削るかを示したりすることが必要になるだろう。支出の伸びを抑えていく計画が必要だ。景気が悪いときに一時的にその計画から外れたとしても、『将来的には税率をこのくらい上げれば大丈夫だ』という説得ができる」


―消費税率は予定通り2019年に引き上げるべきだと思いますか。

「予定通り上げるべきだ。あしもとの景気は良く、財政拡張をする必要はない。どちらかと言えば、景気の良いうちに少しずつ引き締めの方に向かい始めた方が良いと思う」


2019年度に物価目標2%達成は可能

―財政政策に頼らなくても、日銀が主張する通りに19年度に2%の物価目標に達するとお考えですか。

「今のペースで日銀が資産を買い続ければ、19年度に2%に達する予測だ。景気は戻ってきている。達成できるだろう」


―あしもとでは物価が上がってきていないのはどうしてですか。

「理由の一つは賃金だ。労働市場の需要は全体的に増えているが、非正規雇用が伸びている一方で正規雇用のほうはそれほど力がない。非正規雇用の賃金の方が低いので、非正規雇用の割合が増えると全体の平均賃金が落ちてしまう」

「ただ、最近の春闘をみていると、賃金の伸び率が高くなっている可能性がある。非正規労働者の比率は昨年からそれほど増えていないので、18年から19年にかけて賃金は上がってくるだろう」


バブルを止めるのは難しい。バブルが起きた時にどう対処するのか考えるのが中央銀行の役割

―金融政策についての論争はリフレ派から反リフレ派まで、主張は様々です。学界においては、どこまで意見が一致しているのでしょうか。

「金利がゼロになっても資金が動かない『流動性の罠(わな)』など、それまでのマクロ経済学で想定していなかった事態が1990年代後半から次々と起きた。それに伴って経済理論も変わったことが、経済学が混乱しているように見える一番大きな原因だろう」

「ただ、コンセンサスは少しずつできてきている。米連邦準備制度理事会(FRB)はグリーンスパン元議長のもとで金融緩和を続けた。08年以降は、量的緩和を経験し、いまは出口戦略に向かっている。ある程度、(量的緩和などの非伝統的金融政策の効果について)意見の一致は進んできたと思う」


―グリーンスパン元議長がデフレを恐れるあまり、金融緩和を続けたことが、バブルを招いたとの指摘もあります。バブルを防ぐのも中央銀行の役割の一つではないのでしょうか。

「金利を上げていたらバブルが起きなかったかどうかについて、経済学者の間でも意見の一致はない。バブルを食い止めるのは難しい。よりよい道があったかどうか疑問だ」

「いくら注意していても、バブルは起きる。バブル崩壊時にどう対応するかを中央銀行は考えるべきだろう」

「以前、北朝鮮の官僚たちに金融について教えたことがある。彼らは『自分たちのシステムでは金融危機は起こらない』と言っていたが、その通りだと思う。我々が想定している金融システムが北朝鮮にはないからだ。我々の金融システムは、色々な信頼関係や期待の上に築かれていて、なにかの拍子に期待と違ったことが起きると、機能しなくなる。銀行のとりつけ騒ぎなどがその例だ。金融危機の可能性はどこかにある。それを完全になくすのは金融システムを壊すことと同じことだ。バブルや金融危機を恐れるあまり、北朝鮮のような経済システムになってしまっては本末転倒だろう」




星 岳雄(ほし・たけお)東京財団政策研究所理事長。1960年うまれ、東大教養学部教養学科卒業(相関社会科学)。マサチューセッツ工科大学経済学Ph.D.取得(経済学)。カリフォルニア大学サンディエゴ校教授などを経て、2012年よりスタンフォード大学FSIシニアフェロー(高橋寄附講座)



この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加
Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

Information | 履歴・総合ガイド・購読のお申込み

Editor's Note | 編集長から

PC版表示 | スマホ版表示