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北朝鮮サバイバル

北朝鮮は孤立していない

オックスフォード大学 サミュエル・ラマニ(24)


北朝鮮は完全には孤立していない。これまで数十年もの間、北朝鮮に向けるまなざしは、西側の自由主義の国々と発展途上国の間では、大きく異なっていた。西側の国々は、北朝鮮の全体主義的な体制、挑発的な外交政策を非難してきた。一方で、北朝鮮は1960年代から、アフリカと中東の国々と強固な外交、経済、軍事の関係を維持してきた。

北朝鮮は、西側の国々と対立する発展途上の国々に武器を供給する信頼できる売買人とみなされてきたし、米国と対立し国際的に孤立した国々からも称賛を受けてきた。両者のこうした関係は、なぜ北朝鮮が武器売買や労働者の供給などを通して安定的な外貨収入を維持してこられたかについて、うまく説明してくれる。

モザンビークの首都マプトに建てられたマシェル初代大統領の像。北朝鮮起業が製造した=2017年10月21日、石原孝撮影

しかし、最近、いくつかの注目すべき兆候があった。北朝鮮に対する国連安全保障理事会の制裁を破っているアフリカの国々に対して、厳しい批判が高まってきた。これを受けて、エジプトやスーダン、湾岸諸国のように、国連制裁の履行に以前から抵抗している国々も、この圧力に屈し、政策を調整しつつある。北朝鮮の仲間として残っているのは、キューバやイラン、シリア、ラオス、ジンバブエ、ミャンマーのような、西側の国々とわずかな関係しか持っていない小さな国々だけになりつつある。ただ、北朝鮮は、今後は孤立を深めるかもしれないが、これまでは世界的にみて完全な「のけ者」の国ではなかったことを理解することが大事だ。


アフリカの国々に武器売買と軍の訓練


北朝鮮のアフリカの国々との関係は、歴史的な進化の産物といえる。アフリカにおけるマルクス主義の国や西側から孤立していた国は、米国とソ連との東西対立が激しかった冷戦時代には、北朝鮮との関係を強めようとした。その名残が今の状態だ。例えば、コンゴとジンバブエはともに、国内の治安を維持するため北朝鮮から軍隊と特殊部隊の訓練を受けている。ナイジェリアやエチオピア、ソマリアなどのような国々とは、スカッドミサイルなど多くの武器取引の契約が交わされている。ナミビアのウラン産業は、特にこれを象徴するものといえる。多くのアフリカの国々には、北朝鮮によって建てられた銅像がある。

武器の売買によって、北朝鮮とアフリカの国々が何をそれぞれ見返りとして得ているのかは明らかだ。北朝鮮は、国際的に決済できるドルなどの外貨を喉から手が出るほど欲しており、これら武器売買による収入は、平壌のエリートに贈り物を与えて忠誠を買う体制の能力向上の手助けしている。北朝鮮はまた、「自分たちは世界から完全に孤立していない」ということを、アフリカの国々との関係によってアピールしようともしている。

アフリカの国々にとって北朝鮮は、他の国の国際的な武器商人が提供するよりも安い価格で軍事技術を支援してくれる国だ。さらに、アフリカの国々自身が軍事能力や武器生産能力を持つことに対して北朝鮮は投資も行なっている。これが、さらなる関係の強化につながっている。

オックスフォード大学のサミュエル・ラマニ=神谷毅撮影

制裁破りに中国の影


アフリカには国連安保理の制裁を破っている国々がいくつかあるが、そこには中国の影も見え隠れする。西側とはあまり関係を持っていないアフリカの国々も、中国とは強い経済的なつながりを持っていることが多い。一般的に、制裁を破った場合に被る経済的損失が大きい場合、制裁を履行しようとするインセンティブとなるが、中国とアフリカの関係はその逆の力学が作用している。つまり、中国は制裁に曖昧な態度を取ってきたので、アフリカの国々は制裁を破っても中国から報復はないことをよく知っており、制裁破りが可能だったわけだ。ただ最近、中国が緩やかだが制裁を厳しく実行し始めると、ウガンダやスーダンのような中国に近い国々も同じように厳しい制裁に舵を切り始めた。ここからは、制裁という観点においても、中国がアフリカの先導役を果たしているとみることができる。


次に、北朝鮮とアフリカの国々の関係を具体的にみてみよう。エジプトとの関係は古い。金日成首相は反アラブ主義ナショナリズムの強力な支援者で、1950年代の第2次中東戦争の時、イギリスとフランスに抵抗したエジプトを賞賛している。この関係は、1973年の第4次中東戦争の時、直接的な軍事パートナーシップに発展した。そこでは北朝鮮のパイロットたちがエジプト空軍の兵士を訓練し、彼らの飛行機も運用した。これに対してエジプトは北朝鮮へ経済発展のための投資をした。例えば、エジプト企業は北朝鮮の携帯電話事業に投資している。

米国は昨年8月、エジプトへの支援停止を発表したが、私はトランプ政権が明らかにした公式の理由である人権問題よりも、背景には北朝鮮との関係があるとみている。ただ、北朝鮮との関係が米国との関係にダメージを与え続けるようなら、エジプトは北朝鮮から距離を取り始めるのではないか。

モザンビークの首都マプトにある「金日成通り」。北朝鮮の故・金日成国家主席にちなんで命名された=2017年10月21日、石原孝撮影

アラブの国々から収入源を失う


他のアラブの国々との関係をみると、カタールとUAEが北朝鮮の労働者の供給を受けており、経済的に結びついている。しかし、国連の制裁もあって多くの国々が労働者の受け入れをやめており、ヨルダンのように北朝鮮と限られた関係しか持っていなかった国も外交関係の停止に踏み切っている。北朝鮮が、労働者の供給や武器売買による死活的に重要な収入をアラブの国々から失っていった場合、北朝鮮がイランやシリアにさらに軸足を移していくかが注目される。


北朝鮮は歴史的に、ロシアと中国を抵抗させ、そこから援助を最大化しようとしている。中国は時には1983年のラングーン事件の後、あるいは冷戦崩壊直後の数年のように、北朝鮮向けの援助を減らしている。ロシアにその資源が足りないと気づいた時にかぎって支援してきたし、あるいは国としての安定や生き残りの主な保護者としての役割を果たそうとするときにだけ援助を増やしてきた。北朝鮮のロシアへの求愛は、同じような長期的な戦略を目指しているのだと考える。多くの人が、2014年のクリミア併合にともなって西側からプーチンが孤立したことで、北朝鮮とロシアの関係が次第に強まっていったと結びつけて考えるが、同じように、北朝鮮とロシアの友好関係を前に進める重要な要素が、2013年に習近平が権力を握ってから後の中朝関係が悪化したことがある。北朝鮮はまた、特定の分野におけるロシアと中国の提携から利益を得てきた。その戦略は、両国を互いに競わせることと、両国の協力を促すことの合わせ技だ。ロシアも中国もともに、北朝鮮の長年の目的である米韓合同軍事演習の中止を支援してきた。そして、米国による体制転換や軍事攻撃に反対してきた。一方で、ロシアは対立の中で仲介役になろうと北朝鮮との関係をつくってきたし、中国は究極的には北朝鮮の将来への影響力が強いと考える。西側と比べて中国による制裁履行の意思がさらに限られていく状況が数年は続くとみている。(聞き手・GLOBE編集部 神谷毅、敬称略)


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