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北朝鮮サバイバル

制裁下で広がる北朝鮮の新ネットワーク 

国連制裁委の元パネル委員・古川勝久氏の報告


米朝首脳会談は実現するのか? 国連制裁は北朝鮮の核・ミサイル開発を止めることができるのか? 昨年末までは思いもしなかったスピードで動く朝鮮半島情勢について、国連安全保障理事会・北朝鮮制裁委員会専門家パネルの元委員、古川勝久氏が3月23日、日本記者クラブで会見した。米国政治や北朝鮮の密輸ネットワークに詳しい専門家が明かしたナゾの国の実態とは――。(GLOBE編集部・宋光祐)

北朝鮮に対する新制裁決議を全会一致で採択した国連安全保障理事会の会合=12月22日、米ニューヨークの国連本部、金成隆一撮影

「米朝会談の雲行きは相当怪しい」

古川氏が最初に触れた話題は5月に予定されている米朝会談だった。会見の前日に、米国のトランプ大統領は安全保障担当のハーバード・マクマスター大統領補佐官を解任し、後任にジョン・ボルトン元国連大使を充てることをツイッターでつぶやいたばかり。米国のシンクタンク時代に、国務省の責任者だったボルトン氏とやり取りしたことがある古川氏は強硬派と称されるボルトン氏にまつわるエピソードを披露した。


「軍縮という言葉が大嫌いで、この人の前ではできるだけ使わないようにしていた。証拠がないのに、キューバにも生物化学兵器があると部下に言わせようとしたり、いろいろ問題があった人。強硬な姿勢は結構だが、成果が出せなかった」


その上で、米朝会談の行方には疑問符を付けた。


「実際に会談が実現するのか。相当に雲行きは怪しい。トランプ政権には、北朝鮮政策の責任者が不在で、韓国大使もいない。ボルトン氏と、次の国務長官に予定されているマイク・ポンペオ氏は交渉をせず、要求を突きつけるだけの人たち。そういう展開が分かった時点で、北朝鮮側は何も反応しなくなる可能性が高い。トランプ政権の新しいチームには北朝鮮外交の経験がゼロの人しかいないので、米朝会談が開かれる可能性は非常に低いと思う」

交渉が決裂した場合、米国は軍事攻撃に踏み切るのだろうか。


「結局は今の状態が続く可能性が高いのではと思う。米政府としても軍事攻撃に踏み切るには、国民に説明できる大義がないと無理。北朝鮮が何も軍事的に挑発していないのに、いきなり軍事行動ができるかにはクエスチョンマークがつく」


一方で、自らの発言にこんな注釈も付けた。「北朝鮮に関しては一切予言しないようにしている。必ず外れるので。トランプ政権もよく分からない。あまりにも不確定要素が多すぎる」

日本記者クラブで会見する古川勝久氏=宋光祐撮影

経済性は効いているのか?

安倍晋三首相はこれまで、北朝鮮が対話に乗り出してきたのは、日米韓、国際社会が「高度な圧力」をかけ続けてきた成果だとの考えを示している。古川氏はこの点について、「『高度な圧力』はまだかかっていない」と指摘する。日本や海外メディアが平壌で撮影した最近の写真や映像を見る限り、デパートには日本や欧米の高級品、嗜好品が並んでいた。昨年末までに国連安保理決議が通り、北朝鮮へのガソリンや石油製品の供給は絞られているはずだが、平壌市内では車の数が減った感じもない。人民元や対米ドルの為替レートも一定の水準で推移しているという。


「制裁で輸出入が大幅に削減されて相当厳しいはずだが、なぜ大きな変化が見られないのか。備蓄を放出しているのか、密輸で新しいルートを開拓し、そこから物品を調達しているのか。背景は分からない」


経済制裁が必ずしも機能していない状況は、3月5日に国連安保理が公表した専門家パネルの報告書でも記されている。昨年1~9月の貿易データによると、北朝鮮は石炭や鉄鉱石などの資源を中国やコスタリカ、アイルランド、パキスタンなど世界中に輸出している。確認された外貨収入は、2億ドルを超えていた。


「昨年末までに一連の国連安保理決議ができて、北朝鮮に対して経済封鎖的な性格が強い制裁レジームが完成したが、ほとんどの国々がまだ国内法に落とし込めていない」


国連の報告書では新たな動きも明らかになっているという。


「国連の報告書では、シリアやミャンマーなどとの間で弾道ミサイル関連の物資が取引されていることが指摘されていた。シリアとミャンマーの取引先は昔から同じ軍事関係の企業だが、ミャンマーの国防省関係の軍事企業がかなりグローバルにネットワークを拡張し、北朝鮮の調達活動に協力し始めていることも報告されていた。資金洗浄も止まっていない」

海上で並んだ別の船から、国連安保理の制裁決議に反して石油を受け取っているとされる北朝鮮の船(左)。2017年10月19日に撮影されたという。米財務省が同年11月21日に公開した=同省のサイトから

密輸ネットワークの実態

核・ミサイル開発に関係する物資と聞くと、私たちは何か高性能で特別な部品を思い浮かべがちだが、古川氏によると、まったく違うのだという。


「北朝鮮が外国から調達する必要があるのは、電子部品や電機部品。日本ではオンラインや秋葉原で1万円や5千円といった値段で容易に手に入るようなもの。昨年夏に北朝鮮メディアが発表した写真では、金正恩氏の隣に日本製品に酷似した機器が写っていた。といってもリサイクルショップで売っているような中古品。我々には価値がないものだが北朝鮮からすると宝物。こういうものを止めるために国連加盟国が国内法に制裁措置を落とし込まないといけないが、それだけの能力を有している国がほとんどない。日本製品もしっかり取り締まらないと海外を経由して北朝鮮に渡る」


古川氏は核・ミサイル開発では、ここ数年の間に出てきた調達ネットワークの存在も指摘する。北朝鮮は16年9月にベラルーシに大使館を開設。ここを拠点に外交官らが、ウクライナの弾道ミサイル関連企業などに足繁く通い、リタイアした技術者などをリクルートしていた。軍事博物館などに展示されている弾道ミサイルの部品や固体燃料型のロケットの実物を写真に撮っていたことも明らかになっているという。


「私たちが思うほど、大陸間弾道ミサイル(ICBM)に関する情報はしっかり管理されているわけではない。ベラルーシやバルト三国は北朝鮮の弾道ミサイルと関係ないような印象を持つが、北朝鮮にとっては重要な拠点。電子政府構想を進めている国々でもあり、会社を立ち上げるのも難しくない。北朝鮮のいろんなエージェントが利用している」


古川氏は密輸を取り締まる日本の体制にも目を向けている。「北朝鮮は物資を手に入れるために、グローバルに活動しているのに、日本が取り締まれるのは北朝鮮と直接行き来する貨物とお金だけ。いかに経済的に圧迫を加えても、この状態では北の核・ミサイル開発は止められない」

北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長と握手する国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長=労働新聞ホームページから

今できること、やるべきこと

10年以上にわたって経済制裁を続けているにもかかわらず、北朝鮮の行動を止められていないという現実。今できること、これからやらなければいけないことは何なのか。


「制裁を強化するのではなく、すでにある制裁をしっかりやることが必要だ。金正恩氏としては、ICBMがほぼ完成したので、経済制裁の緩和による経済成長に軸足を移しつつあるのだと思う。問題はほとんどの国が国連制裁をしっかりやっていない状況が続いていること。そんななかで、対話ムードが前面に出るだけで、もう制裁はしっかりやらなくていいんじゃないかという流れが出始めかねない。北朝鮮は米国に軍事行動を起こさせない範囲で着実に核・ミサイル開発を続けるはず。静かな北朝鮮に対して、制裁はしっかりやらなければいけないということをどうやって国際社会に訴えかけ続けることができるか。これが大きなチャレンジになる。気がついたら、北朝鮮が100発以上の核弾頭を持っていたということにならないように、私たちは何とか食い止める必要がある」


ふるかわ・かつひさ

1966年シンガポール生まれ。米シンクタンクのアメリカンエンタープライズ研究所アジア研究部、米国外交問題評議会アジア安全保障部研究員などを経て、2011年10月から16年4月まで国連安保理北朝鮮制裁委員会の専門家パネル委員を務めた。近著に『北朝鮮 核の資金源―「国連捜査」秘録―』。


国連安全保障理事会・北朝鮮制裁委員会専門家パネル

制裁委員会は国連安全保障理事会の下部組織で、安保理が制裁対象としたイランやイラク、北朝鮮などの国やアルカイダなどのテロ組織ごとに設けられ、安保理の理事国15カ国から公使や参事官などの実務責任者が各国を代表して参加する。専門家パネルは事務総長から任命された専門家が、独立した立場から制裁違反事件を捜査し、安保理や制裁委、国連加盟国に対して制裁強化策について勧告する。



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