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「野獣」という名の列車をたどって

マラス編Ⅰ 中米ギャング「マラス」を生むものとは 工藤律子さんに聞く

開高健ノンフィクション賞ジャーナリスト

「野獣」と呼ばれる列車に乗るなどして、米国を目指す中米の子どもたち。彼らを追い詰める青少年ギャング「マラス」とは何者なのか。ホンジュラスでその実態に迫った著書「マラス 暴力に支配される少年たち」で、開高健ノンフィクション賞を受賞したジャーナリスト工藤律子さん(54)に聞いた。(GLOBE記者 村山祐介)



村山祐介撮影


――どうしてマラスが生まれたのでしょうか。

中南米のスラムには、一般に非行少年団のような「ギャング団」が昔からありましたが、盗みやけんかをするくらいで、殺人や誘拐をするわけではありませんでした。ホンジュラスでは、1990年代初めに米カリフォルニア州から強制送還されたマラスのメンバーが、ラップ音楽やファッションなどの「マラス文化」を広めたのですが、最初は子どもたちが憧れる「ちょい悪ギャング団」といった感じで、大した武器も持っていませんでした。




――それがなぜ子どもを脅かす存在になったのですか。

90年代後半、米国の「マラス」が、ホンジュラスの仲間に勢力拡大を命じたと言います。2000年代にはメキシコの麻薬カルテルが、彼らを麻薬や武器の密輸・密売に利用するようになる。それを政府が警察や軍の力で押さえつけようとしたため、マラスは武装化を進め、ライバル同士の縄張り争いも激化しました。そうした事態が貧困地域に広がり、子どもたちはマラスに入るか、逃げるかの選択を迫られ、移民となる子どもが一気に増えました。



――マラスの増長を止められない原因はどこにあるのでしょうか。

一番の大きいのは、格差の問題だと思います。30年近くストリートチルドレンに関わってきましたが、かつてはスラムで家庭に問題がある子が最初に思いつくのは、路上生活でした。居場所や存在意義を得るために凶悪犯罪に手を染める子や、そうした暴力的な環境を逃れるために「命がけで移民になる」子は、そういませんでした。圧倒的に貧しかったのですが、みんなで助け合う意識がありました。




――今は違うのですか。

世帯収入は上がったかもしれませんが、心理的な貧困は明らかに深刻化しています。富裕層とスラムの人々との格差だけでなく、スラム住民の間でも分断が進んでいます。

近くにコンビニやショッピングモールがあり、大きな買い物も少しお金があれば分割払いでできる。至る所で格差が目につき、最底辺にいる人は「ひとよりちょっとでも豊かな生活を」と思うようになっています。経済成長から切り捨てられた人の目の前には、不安だらけの絶望的な世界しかないわけです。そんなとき、マラスが「俺たちといれば安心、生活もマシになる」と選択肢を見せれば、そこへ行ってしまうのです。



photo by Salvador Melendez



――事態は変えられないのでしょうか。

まずは子どもたちに、ギャングとは異なる人生の選択肢を示さなければなりません。

私がよく知るメキシコのNGOは、子どもたちの希望に応じてラップ音楽や写真、料理、パソコンなどを教えています。元ギャングが、自分らしい生き方を見つける場を提供している。そして「力では物事は解決できない」と伝えています。みんなが知恵を出し合い、時間と空間とモノをシェアし助け合ってこそ、豊かな暮らしが実現できると教えているんです。

底辺から社会全体の意識を変えていくことが、重要だと思います。




――格差や子どもの貧困は日本でも課題になっています。

不登校やいじめ、虐待、あるいは奨学金の返済問題など、子どもを取り巻く状況は悪化しています。自分の居場所や存在意義に悩む子も多い。ギャングになるわけではないだけで、ある意味、中米と似たような状況にある。日本は経済成長ばかりを追いかけ、教育にまで経済的合理性を持ち込んできましたが、その結果が今です。子どもが真に夢を抱ける社会を築くには、競って稼ぎ、消費することではなく、互いに支え合うことで豊かになる社会の仕組みを築いていかなければと思います。

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