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FRBと日本銀行

異次元緩和は財政規律を緩めた(河野龍太郎・BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト)

BNPパリバ証券の河野龍太郎氏は、異次元緩和は出口局面で心配される副作用に加え、すでに政府の財政規律を緩めている点も問題だと訴える。黒田総裁の金融政策の効果の有効性にも否定的な見解を示した。

異次元緩和は財政規律を緩めた

―黒田総裁の5年間の金融政策をどう評価していますか。

「株高や円安には多少貢献したが、アグレッシブな金融緩和でインフレ予想を高めることには失敗した。そもそも、貯蓄と投資を均衡させる自然利子率(均衡実質金利)がトレンドとして大きく低下していたのだから、理論的にも期待に働きかける政策は有効性をもたなかった。また、株高が進んだ結果、政治に慢心が生まれ、本来必要な構造改革への努力が疎かになったのではないか。さらに、大量の国債購入で長期金利を低位に抑え込んだ結果、財政規律が著しく弛緩し、政治的な財政膨張圧力が高まり、財政再建が相当に遅れた」

「政策手法にも大きな問題がある。2016年7月まで続けたサプライズ戦略は、中央銀行の政策に関する市場の予想を不安定化させ、政策効果を著しく低下させた。政策の予見可能性を低下させていたのでは、昭和の時代の政策運営との誹りは免れない。また、2014年に新興国バブルや資源バブルの崩壊で世界経済に減速が訪れた際も、それらを正しく評価せず景気の強気見通しに拘泥、中央銀行の景気の現状認識や見通しに対する信頼性を大きく損なった」


政策委員会のメンバーの同質性が高い懸念がある

―日銀の政策委員会のメンバーについてどのようにお考えですか。

「日本経済が完全雇用にあるにもかかわらず、現在の大規模な金融緩和の継続に対して異論を唱える人が一人もいない。メンバー間の同質性があまりにも高くなっていないか、心配だ。人間は基本的に間違えるものだが、委員会制度は、その間違った判断を極力避ける長所がある。複数の異なる出自の専門家が多様な議論を交わすことができるからだ。しかし、同じような見方の人ばかり集めると、誤りに気が付かない可能性が高まってしまう。委員会制度のメリットを否定していることになる」


―海外の中央銀行には、多様な人材を集める仕組みがありますか。

 「例えば米国の場合、米連邦準備制度理事会(FRB)で金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)の委員は、その時々の政権に近い人物が選ばれる傾向はある。ただ、理事の任期は14年で日本よりも長い。任期中に民主党と共和党の間で政権交代が起きる可能性が高いため、メンバーは特定の政権や政党の考え方に偏りにくく、政治からは距離を置いた独立した金融政策運営を可能とする仕組みになっている」


―日銀の政策委員会のメンバーの任期は総裁以下、審議委員も含めて9人全員が5年です。

 「政策委員会の全員が安倍政権に選ばれ、特定の政権と意見の近い人だけとなり、多様性が損なわれる。政権の長期化を前提に、日本も政策委員の任期をもっと長くするべきだったのかもしれない。1997年に日銀法が改正された当時、政権与党にいた自民党は金融政策にあまり介入しなかった。人事も大蔵省に任せ、専門家に委ねるという方針だった。法改正した当時は、将来、政権が日銀の金融政策に介入するような事態を想定していなかった」


強まる日銀への政治介入

―いつごろから政権による介入が強まったのでしょうか。

「『政治主導』を掲げた民主党政権時代から、徐々に官邸に権力が集まり始めていた。野党時代に日銀を擁護していた民主党も、政権を取ると、政治的な緩和プレッシャーを強めた。その後、政権が交代して安倍政権が誕生した。1990年代以降の一連の行政改革や政治改革は首相官邸に権限が集中することを意図したものだが、金融政策まで権限が首相官邸に集中するとは、日銀法を改正した当時は意識されていなかったと思う」


「出口」では円安とインフレのスパイラルの不安も

―日銀の異次元緩和の「出口」はどうなりそうですか。

「今の異次元緩和は、公的債務の膨張を助長している面がある。議会制民主主義の下では、政治的な財政膨張圧力が高まると長期金利が上がり、それが財政膨張への歯止めとなる。しかし、日銀が異次元緩和で大量の長期国債を購入しているため、長期金利が低い水準で抑え込まれ、政治は財政赤字の真のコストを認識できなくなっている。異次元緩和が日本の財政規律を大きく弛緩させている」


―財政規律が緩むと、どうなるのでしょうか。

「公的債務の返済方法は二つしかない。一つ目は増税や歳出削減などの財政調整だ。この方法で公的債務が返済されないとすると、残る手段は望んでいようといまいと、インフレタックスとなる。財政健全化がこのまま行われないという見方が広がれば、まず金融市場では、円安と金利上昇圧力が生じる。ただ、金利が上がれば政府の利払いが急増して財政破たんリスクが高まるため、それを避けようと日銀はさらに国債を買って長期金利の上昇を抑え込むだろう。表面的には、日銀の国債購入で財政破綻は避けられる。しかし、日銀が金利を低く抑えこむことで、円安が加速しその結果、円安と高インフレのスパイラルが生じる。」


―仮にそうした局面で地政学リスクが高まったり、経済危機などの不測の事態が起きたりしたら、政府や日銀は対応できるのでしょうか。

「現在は、例えば朝鮮半島で軍事衝突の不安が高まると、日本経済に悪影響が及ぶはずなのにむしろ円買いが起きている。問題は、日本の借金が財政再建では返済できないという見方が広がった時だ。海外にお金が逃げ出し、急激な円安が進む。止めるには金利を上げる必要があるが、金利を上げると今度は利払い費急増で財政破綻の可能性が高まる。結果として、円安とインフレのスパイラルが避けられなくなる。有事の際に円が買われる現在の傾向が続いている間に、財政健全化に着手すべきだ。」


日米の中央銀行は難局を迎えている

―米国では、パウエルFRB理事が新議長に就任します。取り組むべき課題は何だと思いますか。

 「日本も海外も、中央銀行は難しい環境に置かれている。世界的に、デジタル革命など技術革新は起きているが、賃金やインフレの上昇が遅れている。資本やアイデアの出し手ばかりに所得増加が集中しているからだ。そのため、景気が良くても賃金やインフレの上昇が遅れる。インフレが思ったように上がらないので、緩和的な金融環境を続けざるを得ない。株価や不動産価格など資産価格ばかりが上がり、バブル的な色彩が強まっている。本来なら所得の分配政策で対応するべき課題だが、日本も米国も金融緩和で対処しようとしているので、かじ取りが難しい」



河野 龍太郎(こうの・りゅうたろう)1964年生まれ。横浜国立大学経済学部卒業。住友銀行(現三井住友銀行)、大和投資顧問(現大和住銀投信投資顧問)、第一生命経済研究所を経て2000年より現職。内閣官房・国家戦略室「中期的な財政運営に関する検討会」メンバーなどを歴任。日本経済研究センター「ESPフォーキャスト調査」で総合成績優秀フォーキャスター(予測的中率の高かった5名)に過去5回選出。

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