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100歳までの人生設計

『ライフ・シフト』の「読書会」続々 ボロボロになるまで読んだ20代女性も

「人生100年時代」が一躍注目されるきっかけとなった世界的ベストセラー『ライフ・シフト 100年時代の人生戦略』。ビジネス本として異例の26万部を売り上げ、12版を重ねる。タイトルからして50~60代の読者が中心かと思いきや、出版元の東洋経済新報社から「30~40代の女性によく読まれている」と聞いて驚いた。なぜ30代が「100年時代」なのか。36歳の記者にもピンとこない。謎を解くカギは、出版から1年たった今も、各地で読者が自主的に開いているという「読書会」にあるのかもしれない。(GLOBE記者 高橋友佳理)

後藤安賀里さん主催の読書会の様子=大阪市内、写真はいずれも高橋友佳理撮影

1月中旬の午後、大阪市内のビルの1室で開かれた「読書会」に参加してみた。定員4人のところに、記者を含めて5人が参加。ファシリテーターの後藤安賀里さん(37)の誘導で、『ライフ・シフト』を読み解いていく。まず、それぞれが「今日の目標」を設定。発見したいこと、終わった後に得たい気分を一言で書き出し、「自分にとっての『100年人生』」のイメージを書き出す。


私は参加者として、発見したいことに「ライフ・シフト人気のワケ」と書き、得たい気分に「希望」と書いた。続いて、参加者一人一人がいくつかの章を担当して、そこに書かれているだろうことへの「問い」をたてる。そしてその「問い」の答えを本から探し出し、発表するのだ。


「シナリオ通り」だった今までの人生


参加者の中で最若手の会社員女性(25)は、かばんの中からぼろぼろになった『ライフ・シフト』を取り出した。すでに5回も同書の読書会に参加し、後藤さん主催の会も2回目だという。なぜそんなに何度も参加するの? 疑問に思ったが、「ほかの人がこの本を読んで大切にしている価値観を共有して、前向きな気持ちになりたい」という。

25歳にして、100歳までの人生を考えること、ほかの人と共有することが自己啓発になるというのだ。

質問に対する答えを、本の中から探していく

「これまでの人生、シナリオ通りにきた」と話す臨床心理士の林秀佳さん(42)=大津市=は「これからの人生を自分らしく送るためのヒントを得たくて」、読書会に参加した。3人の子どもを育てながらフルタイムで働く「スーパーウーマン」だが、子どもが手を離れた後の生活が具体化に思い描けず、物足りなさを感じていたという。


「仕事人間」という67歳の父は、いまだ仕事を続けているが、自分は同じように仕事だけで人生を終えたくないと思う。「60歳になってからやりたいことを探すのでは遅い。今から準備しないと」と話した林さんは、参加者の中ですでに「やりたいこと」を見つけ実践している吉野舞依子さん(45)=兵庫県西宮市=に、熱心に話を聞いていた。吉野さんは、後藤さんを講師として迎え、西宮で「ママのための読書会」も開催しているという。


最年長だった税理士の沢根哲郎さん(62)=岡山市=は、自分でも『ライフ・シフト』を使って読書会の開催を計画。その参考にするために参加した。公認会計士の資格も持ち、大学で講師も務めるマルチな沢根さんは、同書を読んで、「自分の生き方は間違っていなかった」と自信を得たという。「この本は、幅広い年齢層に共通の話題にできる」


「読書会」は最後に、本で得た知識を生かすために「明日から出来ること」を書き出すことで完結する。私は、「自己再生の友人関係」「バランスの取れた生活」「評判」「柔軟性」などを付箋に書き出し、明日から出来ることとして「会社から早く帰宅する。仕事に直結しなくても趣味や関心のある分野の勉強会や飲み会に顔を出す」と書き出した。

ホワイトボードに参加者があげたキーワードを書き出していく後藤さん

終了後、感想を聞いてみると、会社員女性(25)は「最初は100年生きられる時代になってハッピーと思っていたけれど、長く生きるためには一定期間頑張る時期が必要。やりたいことを具体化させていきたい」と自分に言い聞かせるように話した。臨床心理士の林さんは、「今の自分に欠けている『無形資産」を書き出して、明日からはとりあえず体を整えることから始めたい」。

「前向きな気持ちになった」と口にする人が多く、満足そうな表情で帰っていった。


後藤さんによると、いくつかの本で読書会を開催しているが、『ライフ・シフト』は毎回満席になるという。その理由を聞くと、「自分ごととして考えやすいからでは?」という。


東洋経済の書籍プロモーション部長笠間勝久さん(46)は「社会の仕組みや働き方が変わる中で、人々は何を軸にして生きればよいのかの指標を求めていた。そこにこの本がすっと入ってきたのでは」という。また、読書会に参加すること自体が、同書が「無形資産」として取り上げるネットワークや自分自身が「変わる力」を身につけることにつながることも、広がった理由に思えた。


著者、投資家向けのイベントにも

野村ホールディングスの機関投資家向けイベントで講演する『ライフ・シフト 100年時代の人生戦略』の共著者の一人
リンダ・グラットンさん

『ライフ・シフト』にひかれるのは、自身の生き方を考える人たちだけではない。経済界や投資家らも「100年時代」に向けた働き方をとらえようと注目している。『ライフ・シフト』の共著者で英ロンドン・ビジネススクールの教授リンダ・グラットン氏(62)はたびたび日本に招かれ、各地で講演をしている。昨年11月には野村ホールディングスの機関投資家向けの大規模なイベントに招かれた。グラットン氏は、投資家に向けてなにを語ったのか。


グラットン氏がまず話したのは「お金」のこと。「世界を見渡したとき、人々がまずする問いかけは『私は長寿を生きるのに十分なお金を持っているか』です。特にアメリカ人はこの点を非常に心配しています。私たちは70、80代まで働くようになるでしょう。人の寿命は長くなり、長く働くようになる。でも政府は引退の年齢を上げたくない。『80歳まで働きます』と言って雇用される人は誰もいないでしょう」と明快だ。


「1998年生まれで100歳まで生きる予定の人のことを考えましょう。もし65歳で引退すると、引退後35年もの時間を過ごすことになる。35年間仕事がないということが、いかにあなたにとってよくないことか。退職後に長く生きるとアルツハイマーにかかる可能性が高くなります。そして、もし65で退職したいならば、毎年25%を貯蓄しないといけない。しかも世界中で年金は受給額を下げる方向に進んでいる」「60歳は今の40代。だから60で退職するのは40歳で退職するようなもの。健康体でいて仕事をすることは大事」


さらに、グラットン氏は「私たちはかつてない技術変革の時代に生きている」と言及。「ロボットやAI(人工知能)の技術革新がすごい。低技能の仕事はAIにとって代わられ、高技能の仕事でも置き換わり始めている。米国では自動運転にとって代わりトラックの運転手の仕事が10年でなくなると言われている。介護やマッサージなどの仕事もそうだ。求められる能力が変わってきている」とばっさり。

野村ホールディングスの機関投資家向けイベントで講演する
リンダ・グラットンさん

「情報はグーグルやウィキペディアに載っている。人間がやるべきなのはイノベーションであり、創造だ。だが今人々は、心配事を多く抱え、将来に不安を持っている。そのような状態では合理的な思考が停止する。これはよくない」と明言。「膨大な変化の中で生きるなかで、まず個人が変わり企業が変わり政府が変わる。シンガポールのように、まず政府が変わっている国もあるけれど、通常は企業が先。だから、(投資家の)みなさんには変化を促してほしい」と切り込んだ。その上で、こう提言した。「この変化の時代、自分も変わっていかないといけないということ。自分をきちんと理解し、世界の変化を意識し、自分も変化していく。同じような者同士で固まっていると変わらない。知らない者の中に飛び込み多様なネットワークを築いていかないといけない」




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