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100歳までの人生設計

シンガポールの60歳は40歳!?  「楽齢」奨励の保健省上級相に聞く

建国50余年の「若い国」ながら、実は日本を上回るスピードで「超高齢社会」への道を駆け上がる国があります。シンガポールです。取材に行った記者は、高齢者が働き手やボランティアとして社会貢献することが奨励される仕組みの徹底ぶりに驚きました。高齢者福祉を所管するシンガポール保健省のエイミー・コー上級相に話を聞きに行くと「シルバー・ツナミをシルバーの恩恵に」「年を取ることを負担ではなく財産に」という言葉が飛び出しました。(聞き手:GLOBE記者 高橋友佳理)

インタビューに答えるエイミー・コー上級相=写真はいずれも高橋友佳理撮影


社会の価値ある一部に

――シンガポールで奨励している「アクティブ・エイジニング」とは、年を取っても働き続けるということなのでしょうか。


高齢者と話していると、尊重され、価値を認めてほしい、ということが分かります。社会から忘れ去られ、もはや貢献できないと見なされるのがつらいというのです。だから私たちは、「加齢を再定義」しました。「高齢者に活発で意味のある生活を送り、社会の価値ある一部になってほしい」と。私たちは高齢者ができる限り長く、コミュニティーに貢献できるようにしたいのです。


もちろん全ての高齢者に「楽齢(アクティブ・エイジャー)」となってほしいですが、虚弱な人もいます。アクティブ・エイジャーは、活動的で意味のある生活を送っている高齢者のことを指しますが、時には、より健康で、虚弱な人を支えることができる人たちのことも言います。虚弱な高齢者を、若い人とともに健康な高齢者が支えればいいのです。


私たちはシンガポール人に、できる限り長く働いてもらおうとしているのではありません。可能性に満ちたまま年を重ねられる環境を作りたいと考えているのです。高齢者が活動的で意味のある生活を送り続けることができるように、政府がコミュニティーや企業、家族、個人といっしょになって、環境を作り上げたいと。もし彼らが働きたいならば、彼らが望み、体が可能な限り働き続けることができる機会を創りたいということです。


再雇用の上限年齢が67歳に

私たちは17年に、再雇用の上限を65歳から67歳に引き上げました。定年の法定年齢は62歳ですが、62歳になったら、会社はあなたに再雇用を提案することが法律で義務づけられています。もし会社が仕事を提案できない場合は、他の仕事を探すのを手伝わなければいけません。


大事なのは法律だけではありません。仕事と雇用者側の考え方(マインドセット)を変えることです。「加齢の再定義」とは、年を取ることは負担ではなく財産になりうると人々に理解させること、マインドセットを変えることです。高齢者は豊富な経験と知識という財産をもっています。たとえば、仕事においても、高齢者は若い従業員を指導したり相談役になることができます。それまでと全く同じ仕事はできないかもしれませんが、監督や指導など異なるタイプの仕事をすることができます。だから、雇用者や若い従業員は、高齢の従業員に対する見方を変えなければなりません。

スーパーで働く64歳のペク・チュウィーエンさん。体に負担がかからないよう、トイレットペーパーなど軽い商品の棚を担当していた


「シルバー・ツナミ」から「シルバーの恩恵」へ

また、高齢化社会にあって、労働力はいつでも挑戦です。今日の60歳は過去の60歳とは違います。長生きするようになり健康寿命も伸びました。「NEW40」と言われる由縁です。実際にシンガポールでは、1990年と2015年の健康寿命の平均を比較すると男性は65歳から72歳に、女性は69歳から75歳に伸びました。より長く、健康的で生産的な時間を持つことができるということです。多くの人は迫り来る高齢化の波を「シルバー・ツナミ」と言いますが、私たちは「シルバーの恩恵」ととらえるべきです。私たちは高齢者から利益を得られるし高齢者は社会にプラスに貢献できるのだから。


可能性に満ちた環境とは、より包括的で協力的なコミュニティーのことです。もし助けを求めている虚弱な高齢者がいれば、コミュニティーが介入して助けたり、孤立した人がいたら「お友達プログラム」で訪問し、外の活動に連れ出したり。高齢者が社会とつながり幸福感を感じると、健康状態も改善するという研究結果があります。


ボランティアも勉強も

働きたがらない高齢者にも、私たちは機会を創ります。若い頃に学びたかったけれど、時間が許さなかった勉強をしてもいい。若い頃にやりたかったけれどできなかったこと――冒険などでも――をやればいい。


国立シルバーアカデミーという高齢者のための学校があり、17年には2万1千カ所で900のコースが開かれました。私たちは高齢者に、働くだけでなく、学んだり、ボランティアをしたりして可能な限り活発でいてほしいのです。


誰もが「自分に責任を持つ」

"I feel young in my Singapore!"と書かれたAction Plan for Successful Ageing

――しかし高齢化が進むことで医療費が今後3~5年間に急増し、20年には10年前の3倍以上になると言われます。


高齢者が医療サービスにアクセスできなければなりませんが、同時に支出は持続可能なものではなければなりません。高齢化社会における挑戦の一つは、若年層への負担、ストレスを減らすことです。私たちは多くの国で、増え続ける財政負担が納税者である若年壮年にのしかかるのを見ています。だから、私たちは、持続可能な健康管理システムを持たなければなりません。現在の高齢者だけでなく、未来の高齢者にも思いを致さなければなりません。


そこで注目しているのが公衆衛生や予防医療です。舞台を病院ではなくコミュニティーに移します。コミュニティーを教育し、検査などができるようになれば、高齢者は出来る限り長くコミュニティーに居続けることができます。


慢性疾患の治療にもコストがかかります。私たちの哲学は、すべての人が自分自身に責任を持つこと。政府でも、個人でも。自分の健康や生活スタイルに責任を持ち、糖尿病などにならないよう人々に呼びかける必要があります。


――ただ、自分で管理できなかったり、困窮した高齢者もいると思うのですが。


政府の補助金に加え、シンガポールでは働く人のすべてが中央積立基金(CPF)に加入し、メディセイブと呼ばれる部門に強制的に貯蓄しています。メディシールドという公的医療保険も導入され15年には国民皆保険制度に移行しました。もし両者が使えず、子どももいなければメディファンドという公的援助に申し込むことができます。


「私たちは現実的な政府」

――シンガポールは福祉国家ではない道を選んだと思うのですが、福祉国家のような方策も採り始めたということですか。


私たちはとても現実的な政府です。すべての人にあげるより、必要とする人により多く援助する、という考え方です。福祉国家か否かではなく、私たちはすべての人に補助金は与えません。そうしなければ、政府の支出は持続可能なものでなくなり、若者への負担が過剰になりますから。まず、自分自身の健康とメディセイブに責任を持ち、それができない人は家族の支援を探し、それもできない人は政府が払う。それが最も効果的です。


西洋では、保険ですべてまかなおうとします。すると患者はすべてを使い、医者はすべてを試そうとして過剰な消費になる。そうでなく、個人がいくらかを負担することで、真剣に何を消費すべきか考えると思うのです。


――シンガポールは他国のモデルとなろうとしているのでしょうか。


私たちは互いに学び合っています。私たちの医療費は多くの国々と比べてGDPに占める割合が低いですが、結果はより良くはなくても、「よい」です。まだまだ改善すべきところはありますが、


エイミー・コー上級相

また日本ではコミュニティーがとても強力で、若めの高齢者が後期高齢者の面倒を見ています。お友達プログラムも日本から学んだものです。社会的孤立は、うつや、認知症のリスクを高めます。身体的な健康にも影響を与えます。コミュニティーに居場所をつくったりリハビリの施設を作ったりすることで、「すべての年代のための街/コミュニティー」をつくっていこうとしています。


私たちは15年末に「うまく年を取るためのアクションプラン」を作りました。高齢者に望むことや高齢者に送ってほしい生活などを説明したもので4千人以上と話した上でまとめました。これは、高齢社会に備えた私たちの青写真となるものです。



Dr. Amy Khor

2001年に国会議員に。南西地区の市長などをへて10年から環境水資源相。保健相、人材開発相などを歴任後、15年から保健・環境水資源省の上級相を務める。

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