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豊かさのニューノーマル(紙面)

「深圳以外に選択肢はなかった」~電子産業が深圳に集まるワケ

深圳的世界③

日本でも話題の、中国・深圳の「無人コンビニ」。下支えしているのは、「スマホ払い」に代表される技術の進化だ。11月中旬、深圳で開かれた中国最大級の科学技術の展示会「中国ハイテクフェア」を訪れ、その最前線を見た。(朝日新聞広州支局長 益満雄一郎)





中国ハイテクフェアに出展された、「耳をふさがないヘッドホン」のブース=11月17日、深圳、益満雄一郎撮影

中国は一般的に科学技術への関心が高い。このハイテクフェアには6日間の会期中、60万近い人たちが足を運び、入場口には長蛇の列ができていた。「安いチケットがあるよ」。周辺の路上に「黄牛」(ダフ屋)が登場するほどの盛況ぶり。来場者は若い男性が多いかと思っていたら、子どもや女性の姿も少なくなく、幅広い層が関心を持っていることがうかがえる。


人混みをかきわけ会場内を歩くと、「耳の穴をふさがないヘッドホン」(ブランド名は「アフターショックズ」)のブースで多くの人が音楽を聴いていた。普通のヘッドホンは耳を覆うが、このヘッドホンは耳の横のこめかみに振動部を当てて、骨伝導という技術を利用して音を聞く。外の音も同時に聞こえるため、音楽に夢中になりすぎて自動車や自転車の接近に気づかない、といった危険も減らせる。


出展したのは深圳に本社がある「深圳市韶音科技」だ。2000年代前半、中国内陸部の西安交通大学の卒業生3人がつくった。耳の穴をふさがないヘッドホンの大ヒットで、このところ急成長を遂げている。米紙ウォールストリート・ジャーナルの技術革新賞や日本のグッドデザイン賞も受賞した。

「耳をふさがないヘッドホン」を着ける「深圳市韶音科技」の陳皞総経理=3月13日、深圳、益満雄一郎撮影

総経理(社長)の陳皞さんに以前、インタビューしたことがある。なぜ、西安から直線距離で約1500キロも離れた深圳で起業したのか――。そう尋ねた時、笑って返した答えが印象的だった。「深圳以外に選択肢はなかったよ」


理由は三つ。一つは部品の調達が容易な点だ。部品の調達先の90%が「深圳市韶音科技」本社から30キロ圏内にあり、商品開発の際に必要な部品メーカーとの意思疎通を図りやすい。二つ目は、優秀な技能者が多いこと。三つ目は、深圳市政府から手厚い支援が見込めることだ。海外での展示会に出展したり、特許を取ったりする企業への補助制度があり、多い場合は数十万ドル(数千万円)の補助金もあるという。

中国ハイテクフェアで、「耳をふさがないヘッドホン」で音楽を聴く来場者たち=11月17日、深圳、益満雄一郎撮影

深圳は1980年に中国初の経済特区に指定されるまで、経済発展を続けた香港の影に隠れた人口わずか3万の漁村だった。世界最大級の電子産業の集積地に成長したきっかけは1992年、最高実力者の鄧小平氏が改革開放の加速を命じた「南巡講話」だ。


人件費の安さに目をつけた台湾や香港、日本の企業が相次いで電子製品の工場を建設すると、巨大な部品供給網が整備されていった。その結果、電子産業での経験が豊富な労働者がたくさん集まる一方、一獲千金を夢見て自分で会社を立ち上げる起業家も相次いでやって来て、産業の裾野が広がった。


もちろん、成功する人はほんの一握りだろう。だが、深圳では再チャレンジの機会が多い。深圳が「中国のシリコンバレー」と呼ばれて世界中の投資家の注目を集めるにつれ、将来性があると判断された深圳の新興企業には、中国や米国などのファンドから潤沢なお金が集まっている。投資先の株式を買うファンドからすれば、投資先が万一倒産しても、自己責任だ。起業家から見れば借金をしているわけではないから、倒産してもお金を返す必要はない。再び起業するチャンスは大きい。伝統的には金融機関からの融資に頼り、経営に失敗すれば多額の借金を背負って不動産などの担保を失うリスクもある従来の日本型経営とは大きく違う。


陳さんは強調する。「深圳には、企業の成長を後押しする天然の土壌がある」


20数年かけて培った電子産業の集積と、ビジネスをしやすい環境の整備という好循環が今の深圳の「勝利の方程式」だ。中国経済の最先端を走る深圳の強みを垣間見た気がした。


深圳的世界② 深圳の無人コンビニ、いずれはスマホなしの手ぶら決済も?

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