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豊かさのニューノーマル

「ブラジルのトランプ」もツイッター頼み?

独裁のスイッチ⑥

ブラジルの首都ブラジリアで今年8月、議会に出席したジャイール・ボルソナーロ=AP

地盤(組織力)、看板(知名度)、かばん(資金力)。日本では古くは、この「3ばん」が選挙に勝つための必須アイテムといわれてきた。しかし、どれも持ち合わせていなかった「ブラジルのトランプ」こと、ジャイール・ボルソナーロ(62)は、ソーシャルメディア(SNS)を最大限に活用することで着実に支持を広げている。日本の選挙でもSNSは重要なツールになりつつある。テクノロジーの発達は、民主主義の形も変えようとしている。

(GLOBE編集部・玉川透)


テクノロジーで「選挙を変える」


人口約2億800万人のブラジルではSNSの普及が近年めざましい。カナダのSNS管理会社「HootSuite」のまとめでは、1月時点で全人口の6割に当たる約1億2200万人が、日常的にフェイスブックやツイッターなどのSNSを利用。国民1人当たりのSNS使用時間は1日平均3時間43分。テレビの視聴時間(2時間37分)をすでに上回っている。

街頭演説をスマホで撮影する有権者ら=広島市内、宮川純一撮影。今秋の日本の総選挙でもSNSは欠かせないツールだった。

それを後押ししているのは、ブラジル特有の「共有文化」だといわれている。有料の無線LAN(Wi-Fi)を近隣の住民と共有する家が多く、その割合は5軒に1軒という調査結果もある。ご近所さんが、まるでしょうゆでも借りるような感覚で、パスワードを尋ねに来るという。


義歯職人の平凡な家庭に生まれ、大政党の後ろ盾もないボルソナーロにとってSNSは支持拡大に欠かせないツールだった。前回2014年の下院選でもフル活用し、リオデジャネイロ州で最多46万票を獲得。現在、ツイッターやフェイスブックなどSNS上のフォロワー数は合計550万以上に達し、世論調査で支持率1位の元大統領ルラ(約300万)を寄せ付けない。


そんな彼が大統領選を見据えて、来春に移籍する方針を決めたのが新興政党「愛国党」だ。党員数は約10万人、所属議員は連邦議会に2人、州議会に15人という小政党だが、徹底したデジタル戦略でSNS上に約700万のフォロワーを抱える。ネット世界では、「大政党」だ。


10月下旬、ブラジルの最大都市サンパウロの愛国党支部を訪れた。党首のエジルソン・バローゾ(53)は背広の内ポケットからスマホを取り出すと、動画サイト「YouTube(ユーチューブ)」を開いて見せた。


軽快なラップのリズムに合わせ、バローゾとボルソナーロが肩を並べて有権者に支持を訴える映像が流れる。再生回数はこの時点で120万回を超えていた。


「我が党はこういう投稿を毎日でも更新し続けることができる。再生回数も300万回、1000万回と増やせる。そうなれば、主要メディアに引けをとらない」

「SNSがブラジルの選挙を変える」と話す愛国党の党首エジルソン・バローゾ=10月24日、サンパウロ、玉川透撮影

もともとは5年前に中道右派政党として結党し、環境保護を党名にうたっていた。ところが、ボルソナーロが移籍の条件として愛国党への改名を希望。さらに、副代表や渉外部長など党幹部にボルソナーロ派の政治家5人を迎え、「ブラジルの豊かさ」「伝統的な家族」など保守的な価値観を党の新たな目標に掲げた。


SNS上のフォロワー数は現在、ボルソナーロ個人のものと合わせれば1200万人超。これを来年の大統領選までに1500万人に増やし、現実の党員数も今の10倍に当たる100万人まで増やすのが目標だ。


ブラジルの選挙の構図はこれまで、貧しい北部で左派、豊かな南部で右派が支持を集めた。日本の約23倍の広大な国土では、テレビの政見放送が重要な役割を果たし、放送時間が長く割り当てられる大政党ほど有利といわれてきた。ところが、ネットとSNSの普及でこうした選挙の「常識」も通用しなくなってきている。


バローゾは言う。「都市部であろうと、貧しい地域であろうと、いまや誰もがスマホを持つ。違いは、それが高いか、安いかだ。全国に直接メッセージが送れる」


愛国党はスマホから簡単に入党の手続きができるアプリまで開発した。個人情報を入力し、カメラで自撮りした顔写真と身分証明書を添付。画面上に指でサインをすれば、手続き終了。


あとは、党の事務局が送信された情報をもとに選挙管理当局に正式に申請する。「アプリをテレビで宣伝したら、その日のうちに30万のダウンロードがあった。こんなシステムを導入しているのは我が党だけ。他の政党はテクノロジーに弱い。SNSがこの国を変える」と、バローゾは語った。


SNSでも「草の根」支援

ボルソナーロを支持するフェイスブックのページを立ち上げた写真家のベラ・ブルーノ=11月1日、ブラジル東部ボルタ・レドンダ、玉川透撮影

フェイスブックなどでここ数年、ボルソナーロを応援するファンページの開設が相次ぐ。正確な数は不明だが、ざっと数えただけでも片手では収まらない。フォロワー数が30万を下らないページもごろごろある。


東部リオデジャネイロ近郊の地方都市ボルタ・レドンダに住む写真家、ベラ・ブルーノ(47)は2年前、ボルソナーロのファンページを立ち上げた。「彼がメディアで議論を呼ぶような発言をした時は、フォロワー数が劇的に伸びる。大統領も夢じゃない」と期待する。


特定の政治家や政党を支持せず、政治から距離を置いていた。しかし、ボルソナーロが下院議員の女性に暴力的な発言をして裁判沙汰になったことが大きく報じられてから、彼の言動に注目するようになった。「政治家はうそつきばかり。でも、ボルソナーロは過激な発言もするけど、言動が首尾一貫している。私の主張を代弁してくれていると感じるようになった」と言う。

ボルソナーロ支持がきっかけで友人になった3人(左からタイーザ・ロッシャ、クレイトン・トレド、ベラ・ブルーノ)=11月1日、ブラジル東部ボルタ・レドンダ、玉川透撮影

ページを立ち上げると、宣伝に力を入れているわけでもないのにフォロワー数が面白いように増えた。現在13~60歳の約12万人が参加。反対派がボルソナーロを批判するコメントを書き込んだり、共同管理者を装ってページを勝手に書き換えたりすることもあり、ページの運営には手間もかかる。「入会条件を設けているページもあるけど、私はそこまでしたくない。できるだけ多くの人に、ボルソナーロのことを知って欲しいから」


活動を通じて、友人が増えた。同じ町に住む教師のタイーザ・ロッシャ(26)もその一人だ。


ロッシャは言う。「既存メディアが伝える政治家の発言はいつも何らかの手が加えられている。でも、ボルソナーロが支持者に向けてSNSで発信する情報を読むと、私たちがとても大事にされている気がする。彼は唯一、正しい情報を伝えてくれる『戦士』だ」




GLOBE「豊かさのニューノーマル」の「独裁のスイッチ」編。次回は、サッカーのスーパースター、元ブラジル代表のロナウジーニョの故郷で民主主義を考えます。


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