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豊かさのニューノーマル

ブラジルの「ミニオンズ」、自国の「トランプ」に会いに行く

独裁のスイッチ⑤

ブラジルの首都ブラジリアで今年4月、軍の式典で兵士たちと写真撮影するジャイール・ボルソナーロ=AP

来年のブラジル大統領選に向け人気を集めている「ブラジルのトランプ」、ジャイール・ボルソナーロ(62)。熱狂的に支持しているのは主に、中流以上の家庭で育った高学歴の若者たちだ。「ボルソミニオンズ」と呼ばれる彼らの一人にひざつめで話を聞くうち、ボルソナーロのインタビューに同席してもらうことに。そこで若い支持者が感じたことは……。(GLOBE記者 玉川透)


「ブラジル第一主義」に心打たれる

ミニオンの絵が描かれた壁の前で写真撮影をする来場者たち=今年4月、大阪市のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)のミニオン・パーク、加藤諒撮影

「ボルソミニオンズ」とは、日本でも人気の米CGアニメ映画「ミニオンズ」シリーズのキャラクターをもじった呼称といわれている。強いボスを追い求める性質がある謎の黄色い生物ミニオンに、ボルソナーロを神のようにあがめるブラジルの若者たちがそっくりというわけだ。


「ブラジルという国家こそ最も重要である。ボルソナーロのその考え方が胸に刺さった」


首都ブラジリアのロースクールに通うジョゼ・コスタ(19)は、自他ともに認めるボルソミニオンズ。裕福な企業家の家庭に生まれ、5年前に両親と一緒に渡米。ベンチャービジネスなどの教育に強みを持つ米ボストン近郊のバブソン大学で経営学を学んだ。トヨタ自動車の豊田章男社長(61)が経営学修士(MBA)を取得したことでも知られる大学だ。


ボルソナーロとの出会いは、休暇でブラジルに一時帰国した昨年春。政府会計の粉飾に関わったとして、当時の大統領ルセフ(69)の弾劾(だんがい)裁判を求めるデモが全国各地で起きていた。政治に関心があったジョゼはデモに参加。その時、「愛国精神」の大切さをとうとうと論じるボルソナーロの演説を聞いて、直感した。「この国のために仕事をしてくれる政治家は彼以外にいない」


そこには、ブラジル経済の低迷を未然に防げなかった政府への失望もあったという。

ボルソナーロを支持する理由を語るジョゼ・コスタ=10月25日、ブラジリア、玉川透撮影

ジョゼが物心ついた2000年代、ブラジル経済は世界的な資源ブームに乗り、穀物や鉄鉱石を輸出して歴史的な高成長を記録した。リーマン・ショックから世界同時不況に陥った2009年こそマイナス成長となったが、翌年にはV字回復を果たし、通貨レアルの価値も上がった。ジョゼ一家が米国移住を決めたのもこの頃だった。


ところが、南米初となるリオ五輪の開催が迫るなか、主要な貿易相手国である中国の景気減速で資源価格が下落し、ブラジル経済は大打撃を受ける。国内総生産(GDP)が2015年、2016年と2年連続のマイナス成長となり、世界恐慌のあおりを受けた1931年以来の危機に陥った。高インフレや雇用条件の悪化が市民の生活を直撃。失業率は今、13%前後で高止まりしている。


経済の悪化は、ジョゼの人生にも影を落とした。通貨レアルの価値が下がり、米国での大学生活を切り上げて今年春、ブラジルに帰国せざるをえなくなった。


人口約2億800万のブラジルは、GDPでみれば世界9位と「豊かな国」だが、実際はすさまじい格差社会だ。最も裕福な6人の資産が、貧しい1億人の資産とほぼ同額といわれる。貧困撲滅を掲げて03年に発足した中道左派・労働党政権は、「ボルサ・ファミリア(家族生活支援金)」と呼ばれる貧困対策を始めた。その主な財源は税収。中間層・富裕層は、自分たちに恩恵の少ない政策のために重い税負担を強いられることに不満を募らせていた。そこに発覚した政治家の大規模な汚職スキャンダルが、彼らの怒りの炎に油を注いだ。


ジョゼは言う。「潤沢だった資金の多くが、政治家たちの懐に入っていた。彼らは自分や所属する政党のことしか頭になく、経済政策でも失敗した。でも、ボルソナーロは違う。汚職とは無縁な潔白な彼だけが、悪徳な政治家たちを攻撃できる」


ジョゼたちボルソミニオンズは、ボルソナーロのことをソーシャルメディア上で「Mito」と呼んで称賛している。ポルトガル語で「神話」「伝説」を意味する。日本でいえば、「伝説のヒーロー」といったところか。


「軍政でも秩序があればいい」


母国の将来や政治を熱く語るジョゼを見ていると、同じ年の頃、のほほんとしていた自分を思い返して恥ずかしくなる。だが、軍政下のブラジルでは、大勢が拷問で犠牲になったのも事実だ。そんな時代を賛美するボルソナーロに抵抗はないのか?


その問いに、ジョゼはきっぱりと言った。

ボルソナーロを支持する理由を語るジョゼ・コスタ=10月25日、ブラジリア、玉川透撮影

「たしかに拷問で死者も出たし、検閲もあった。でも、それは全体として大きな目標があったから行われたこと。軍政下では、治安もよかった。それに比べて、今のブラジルは秩序がない。軍政でも、民主主義でも、大事なのは国が本当に秩序をもってコントロールされていることだと思う」


正直、驚いた。かつて赴任したドイツで聞いた、ナチス時代のプロパガンダを思い出した。19歳のジョゼは軍政時代を「知識」でしか知らない。親子ほど年の離れた若者に説教したくはなかったが、あえて尋ねた。学校で「軍政はいけない」と教わらなかったの?


「周りの学生の多くは軍政に反対だ。でもそれは、一面的なブラジルの教育に原因がある。ボルソナーロも教育に特定の概念を持ち込むべきではないと訴えている」


うーん、どうも頭でっかちな印象がぬぐえない。でも、話を聞くうち、ボルソミニオンズがボルソナーロにひかれるワケも見えてきた。キーワードは「対話」だ。


数カ月前までボストン郊外で暮らしていたジョゼは、昨年秋の米大統領選をリアルタイムで目のあたりにした。かつて製造業や鉄鋼業で栄えながら、グローバル化の波にさらされて廃れた「ラストベルト(さび付いた地帯)」の白人労働者たちが、トランプ勝利の原動力になっていた。その構図はブラジルも似ていると、ジョゼは言う。


「ブラジルでは産業界の力が政治にも大きく影響する。それと反対の立場をとる人たちのメッセージはなかなか政治家に届かない。ブラジルの大手メディアも市民の意見を反映していない。でも、ボルソナーロはソーシャルメディアを通じて直接対話する。必ず自分でメッセージにコメントを返す」


ジョゼは最後に、将来の夢を語ってくれた。「大統領になりたい。エゴで言っているわけではなく、国を代表したいからでもない。ただ、同じ考えを持つ人に会いたいから」


よし、わかった。じゃあジョゼも直接、憧れの政治家に会ってみてはどうか。すぐ後に予定していたボルソナーロのインタビューに、ジョゼにも同行してもらうことにした。

握手するジャイール・ボルソナーロ(左)とジョゼ・コスタ=10月25日、ブラジリア、玉川透撮影

議員事務所でボルソナーロと対面したジョゼは、初めこそ緊張した面持ちで耳を傾けていたが、終わりには経済政策や犯罪対策の2点を中心に、積極的に質問。ボルソナーロの求めに応じて、最後は握手をして記念撮影もした。


直接対話をしてみて、ボルソナーロに対する印象は変わった? 帰り道、感想を尋ねると、ジョセはただ一言こう答えた。「私がした質問の2点とも、彼は逃げていたね」




GLOBE「豊かさのニューノーマル」の「独裁のスイッチ」編。次回は「ブラジルの選挙を変えつつあるソーシャルメディア戦略」に迫ります。


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